シリウス宇宙句会 選評

 

 455回  主宰選

(3月15日更新)

 

  特選

梅香る宮に神馬のポニーかな       角野 京子
びつしりと祈願の絵馬や梅香る      浜野 明美
瀬の音をたどれば一宇梅にほふ      小澤  巖
梅咲くやぼうと汽笛が昇りくる      島津 康弘
庭に溶け込む月ヶ瀬の枝垂梅       中川 晴美
浅春や軽く浸せるティーパック      伊藤 月江
春浅し午後は紅茶とカステイラ      金子 良子
浅春の風尖りゐる宮の跡         谷野由紀子
浅春の紬の里の糸車           春名あけみ
池の辺に小さき稲荷辛夷咲く       中谷恵美子
火渡りを終へ踏みしむる春の雪      板倉 年江
道切の幣の真白き寒九かな        今村 雅史 
大根餅の焦ぐる建国記念の日       関口 ふじ
和箪笥の引手の重き余寒かな       谷野由紀子

  入選

蝦夷地にてテレビで梅の開花見る     山下 之久
梅が香やいつしか共に五十年       大塚 章子
梅ふふむ試飲に巡る酒蔵に        上西美枝子
大宰府から来してふ種の梅ふふむ     田中よりこ
一つ家に玄関二つ梅ふふむ        今村 雅史
鋭き風に蕾の固き野梅かな        板倉 年江
荒庭にひともと香る梅白し        伊藤 月江
コップに挿す堅き蕾の梅一輪       中村 克久
梅が香や光穏しき二月堂         中谷恵美子
紅白の梅の香ほのと慰霊の碑       原田千寿子
切り残せし枝伸びやかに梅古木      谷野由紀子
梅が香や独り歩きで園二周        日澤 信行
梅の香や巫女にいただく大社札      三澤 福泉
たもとほる梅の遅速に風沿ひぬ      髙松美智子
梅咲いて向かふセンター試験かな     山内 英子
梅の香に誘はれ少し回り道        五味 和代
春浅し裏木戸軋む音に覚め        中谷恵美子
春浅し湯煎で溶かすれんげ蜜       関口 ふじ
長短の長靴二足春浅し          日澤 信行
いくたびも雲仰ぎみる浅き春       上西美枝子
浅春や剃刀負けの顎うづく        小澤  巖
隧道を出れば山峡浅き春         中村 克久
春浅し久方振りに庭掃除         西岡みきを
春浅し川瀬きらめく梓川         三澤 福泉
砂浜に人影まばら春浅し         松井 信弘
春淡し流れに鈍く薄日撥ぬ        住田うしほ
小魚船の行き交ふ湖や春浅し       中川 晴美
日はさせど頬刺す風や浅き春       板倉 年江
露天湯の明かり落として雪を見る     山内 英子
船島を指呼に海峡霞たつ         小澤  巖
四百年の五葉の松に春の雪        原田千寿子
下萌や児は母の手を振りほどき      三澤 福泉
エコバッグを持ち歩く妻冬うらら     松井 信弘
静まりて白く明るき雪の朝        田中よりこ
盆梅の手塩にかけし樹形かな       五味 和代
山畑に孤をなす煙寒明くる        浜野 明美
色濃けれどやや小振りなる法蓮草     金子 良子
立春の空に溶け入る高圧線        中村 克久
軽やかにとカットを頼む春心       瀧下しげり
早朝の庭半分にクロッカス        日澤 信行
薄日差す狭庭にふくら雀跳ぬ       西岡みきを
春宵の豚まん匂ふ中華街         春名あけみ
保存樹の芽吹く宮居に力石        角野 京子
斎の膳に色を添へゐる蕗の薹       中川 晴美
近づけば鯉の寄り来る春の川       上西美枝子
古里の妹達の草の餅           藤原 俊朗
浅春や猫展ひらくジュンク堂       伊藤 月江

  佳作

早世の姉の名冠す亮梅園         瀧下しげり
箸は右はさみ左で梅の花         関口 ふじ
春浅し小指のしびれ繰り返す       斎藤 摂子
春浅し象牙の塔の御茶ノ水        角野 京子
浅春の門灯ややもすれば消ゆ       瀧下しげり
春浅き開田高原木曽の馬         藤原 俊朗
春浅し種々の壁ある再雇用        山下 之久
浅春や一人占めなる殿様湯        島津 康弘
浅春や里の市場は消え空地        うすい明笛
室の津の古墳でありぬ梅林        木村てる代
ディフューザーの湯気の恋しき浅き春   五味 和代
春浅し雨戸繰る音がたつきて       今村 雅史
節分の明けて窓辺に豆八つ        うすい明笛
薄氷を撫でては沈む魚の鰭        星私 虎亮
梅の寺一茶の遺す俳句二句        斎藤 摂子



 感想と添削

原句 起伏富む丘を染めゆく匂草
感想 起伏に、「に」が不可欠です
添削 小阜の起伏を染むる匂草          うすい明笛

原句 すれ違ふ人の振り向き花の兄
感想 振り向き 連用形です。ここは連体形
添削 すれ違ふ人の振り向く花の兄        星私 虎亮

原句 三年経ちつぼみ含むる枝垂梅
感想 含(ふふ)むは自動詞四段活用。含むるという活用に要一考
添削 三年経ちつぼみの含む枝垂梅        金子 良子

原句 あちこちに野梅咲きそむ背戸の山
感想 そむが終止形、切れてしまいます。切らずに
添削 あちこちに梅咲きそむる背戸の山      西岡みきを

原句 春浅し膝に木彫りの粉こぼす
感想 いい場面です。粉を屑に変えます
添削 春浅し膝に木彫りの屑こぼす        木村てる代

原句 梅咲ひてどこからも海見ゆる街
感想 咲くはカ行。ハ行ではありません
添削 梅咲きてどこからも海見ゆる街       春名あけみ

原句 白梅の匂ふや闇に浮き立ちぬ
感想 やで切らずに続ける所です。つまり一句一章に
添削 白梅の香りて闇に浮き立ちぬ        住田うしほ

原句 梅ふふむ大写ししてまだ硬し
感想 大写し、意味が通ってくれません
添削 ふふみゐる梅にスマホを近づけぬ      斎藤 摂子

原句 大吉の御籤に安堵梅かおる
感想 良い場面だけに惜しい。かをる です
添削 大吉の御籤に安堵梅かをる         松井 信弘

原句 二股の梅の古木や老夫婦
感想 古木だと咲いている印象が少なく、季語として弱いです
添削 二股の梅を見上ぐる老夫婦         藤原 俊朗

原句 まだ素手に冷たき風や春浅し
感想 季重りになりました
添削 襟首をさしくる風や春浅し         浜野 明美

原句 漬物の程よき辛味浅き春
感想 二句一章(取合せ)がきつい印象です
添削 漬物の辛み程よき浅き春          星私 虎亮

原句 椀洗ふ雫に癒えぬ春浅し
感想 雫に癒えぬ 意味曖昧となりました
添削 傷癒えぬ水仕の指や春浅し         髙松美智子

原句 春浅き鄙へつぎつぎ水の音
感想 流れは連続していますので、次々に要一考
添削 春浅きにかそけき水の音          原田千寿子

原句 雲低く垂れこむる朝春浅し
感想 朝と浅しの取合せになりました。切らずに続けま
添削 生駒嶺に雲垂れこめて春浅し        大塚 章子

原句 春浅し腹部エコーの影は濃し
感想 影は、「は」は他と区別して強調します
添削 春浅し腹部エコーの影見詰む        山内 英子

原句 浅春の異国人多き仏具店
感想 中七の字余り、解消したいところです
添削 浅春の異国語多き仏具店          田中よりこ

原句 大雪は三日前ぞよ痛む腰
感想 雪搔に励まれたのでしょうね。ぞよに要一考
添削 三日前の春雪になほ腰痛し         山下 之久

原句 春一番ポン菓子の弾くるごとく
感想 なだらかにしましょう
添削 ポン菓子の弾くるごとく春一番       大塚 章子

原句 路地裏に春椎茸の焼き香
感想 下五の読みが特定できません
添削 路地裏に春椎茸を焼く香り         住田うしほ

原句 初午や喜寿に僅かな願ひ事
感想 僅かな、「な」は口語活用です。本来は僅かなる……
添削 初午や喜寿に小さき願ひ事         髙松美智子

原句 春水は肥後の棚田にくつくつと
感想 切れを入れたいところです。「は」に要一考
添削 春水や肥後の棚田にきらめきぬ       島津 康弘

原句 大筒の御籤を引ける余寒
感想 ミスタイプでしょうか……
添削 大筒の御籤を引ける余寒かな        木村てる代