463回 主宰選
(11月15日更新)
特選
蘭の香や椅子もゆかしき貴賓館 小澤 巖
オープンを祝ひて鉢の蘭香る 藤田 壽穂
秋蘭を活けて始まる米寿会 大塚 章子
ちちろ鳴く木桶の並ぶ醤油蔵 板倉 年江
蟋蟀や門差し時の抜け小路 藤田 壽穂
故郷に目覚めし心地ちちろ鳴く 島津 康弘
住み旧りてちちろの闇に親しめり 中川 晴美
蟋蟀や櫓に美しき算木積 伊藤 月江
公園のフリマにさがす秋の色 田中よりこ
手折り来し花挿す鉢に望の月 五味 和代
秋夕焼コジラに見ゆる立木かな 山内 英子
金堂に響く読経や月いよよ 中川 晴美
この島に住みながらへてとろろ飯 島津 康弘
身に入むや橋の擬宝珠に刀傷 松井 信弘
入選
新装開店に並みゐる白き蘭の花 田中よりこ
エメラルド婚宿のロビーの蘭の花 三澤 福泉
晩年の背をまろやかに蘭の秋 今村 雅史
蘭の香や新婦の笑みの零れ落つ 住田うしほ
新築の医院に蘭の溢るほど 木村てる代
周年の祝の蘭の香りかな 山内 英子
猿顔の蘭の花咲く植物園 板倉 年江
ダンスして歌ふをみなや蘭の花 松井 信弘
秋蘭を活くる花瓶の白さかな 上西美枝子
散り初むる蘭に近付き深呼吸 西岡みきを
かたはらに大入袋蘭の秋 関口 ふじ
香をほのと出窓に映ゆる蘭の花 中川 晴美
苔むせる祠への道蘭匂ふ 島津 康弘
ラウンジにピアノ静けし蘭の秋 伊藤 月江
ちちろ虫辻に夫婦の道祖神 三澤 福泉
新幹線通過のあとにちちろ鳴く 大塚 章子
埋められぬパズル一枡夜のちちろ 中村 克久
埋められし落城跡やちちろ鳴く 松井 信弘
つづれさせ明日着る服を枕辺に 上西美枝子
蟋蟀や星覗き見る外厠 今村 雅史
晩学の辞書引く夜をちちろ虫 小澤 巖
一雨の過ぎし草叢ちちろ鳴く 浜野 明美
ちちろ鳴く旧国鉄の総裁邸 木村てる代
蟋蟀や隣家に立ちし売家旗 五味 和代
初紅葉反りうるはしき三重の塔 木村てる代
秋風に切り離されし三両目 角野 京子
水澄めば思ひは遥か信濃路へ 大野 照幸
御洒落してワイン煮込みの鹿を食ぶ 板倉 年江
登高す古城に探る隠れ道 小澤 巖
徐々に聞く目覚しの音秋半ば 日澤 信行
コスモスを揺らし大和の風そよぐ 瀧下しげり
いくたびも労ひ賜ふ月夜かな 関口 ふじ
秋の夜や季寄せの側に虫眼鏡 谷野由紀子
荒磯の小き鳥居や神送 三澤 福泉
萱葺きの家に揺れゐる白き花 大塚 章子
餡だけをへつりて母の月見かな 金子 良子
遅まきに金木犀の香り初む 藤田 壽穂
秋麗や小き橋にも名のありて 上西美枝子
法要も団欒となる小春かな →法要の 浜野 明美
蟋蟀や風吹き抜くる城の址 伊藤 月江
風と来て葉裏に憩ふ秋の蝉 西岡みきを
佳作
室内の蒸せる熱気や蘭百種 うすい明笛
住み旧りて早寝早起き蘭の花 角野 京子
蘭の香や芝生をいつのまにか踏み 星私 虎亮
立見して腕に風来る蘭の秋 日澤 信行
葉隠れに花色楚々と蘭にほふ 五味 和代
地味なれど香りの高き蘭の花 瀧下しげり
清明の産湯の井とやちちろ鳴く 谷野由紀子
ぬらりきらりして飛び出せるつづれさせ 瀧下しげり
茅葺きの家の床下ちちろ鳴く 原田千寿子
花浮かぶ水鉢の辺にちちろ鳴く 斎藤 摂子
日も過ぎてか細く鳴きぬちちろ虫 金子 良子
ちちろ鳴く中途で止まる家普請 田中よりこ
祖の思ひ伝ふる如くちちろ鳴く 住田うしほ
青々と港にかかる朝満月 うすい明笛
蘭の香に主の礼や店オープン 榎原 洋子
感想と添削
原句 祝ぎ事の近し蘭の香匂ひたつ
感想 香があれば匂は邪魔になります
添削 祝事の近しと蘭の匂ひたつ 春名あけみ
原句 蘭を刈り姉健やかに居間飾る
感想 ここは刈るよりも剪るでしょうね
添削 蘭剪りて姉健やかに居間飾る 榎原 洋子
原句 式場を華やかにして蘭の秋
感想 して、口語調が漂います
添削 式場を華やかに蘭の秋香りけり 金子 良子
原句 新しきホテルロビーに蘭溢る
感想 ホテルの、「の」が欲しい所です
添削 新しきホテルのロビー蘭香る 原田千寿子
原句 ますますに空澄み高き蘭の秋
感想 季重り感大です
添削 青空のますます深し蘭の秋 山下 之久
原句 爽やかに蘭の香満つる診察後
感想 季重りになりました
添削 ふくいくと蘭の香満つる診察後 大野 照幸
原句 引越しにも持て来る蘭や白き花
感想 説明が冗長になりました
添削 引越しに持て来る白き蘭の鉢 渡邉 房子
原句 友の家へ十年越しの欄を見に
感想 欄→蘭 変換ミスですね
添削 友の家へ十年越しの蘭を見に 谷野由紀子
原句 贈りけり小六の師へ蘭の香を
感想 語順を整えます
添削 小六の時の恩師に蘭送る 斎藤 摂子
原句 花舗の奥店灯明るき蘭の鉢
感想 花舗・店、同義語です
添削 花舗の灯を明く商ふ蘭の鉢 中村 克久
原句 鉢の蘭水遣り久の客迎ふ
感想 三段に切れました。一句一章の内容です
添削 蘭に水遣りて久しき客迎ふ 髙松美智子
原句 庭先に秋蘭の鉢香のさやか
感想 さやかだと秋の季語。清かと書いて季重りを逃げます
添削 庭先に鉢植ゑの蘭香の清か 浜野 明美
原句 打ち捨てし釜の中よりちちろ出ず
感想 出ずは否定。出ないことになります。ここはづ
添削 打ち捨てし釜の中よりちちろ出づ 山内 英子
原句 水やりを始めばちちろ鳴きをさむ
感想 文語では始むれば となるのでしょうね。
添削 水遣りに庭のちちろの鳴き止みぬ 大野 照幸
原句 ちちろ鳴く古き墓石の積み置かれ
感想 置かれ 連用形ですがここは二句一章で
添削 ちちろ鳴く墓石積まれゐる古刹 うすい明笛
原句 暗き道誰にも会はず虫の闇
感想 状況説明に終止しました
添削 人影のなき裏路地や虫の闇 渡邉 房子
原句 椰子の実の歌碑に集くる昼ちちろ
感想 集く、五段活用ですので、命令形+る 集ける となります
添削 椰子の実の歌碑に集ける昼ちちろ 角野 京子
原句 苑深し蘭の近くに人を待つ
感想 原句も可ですが、少し趣向を変えます
添削 蘭の咲く園のふかきに人を待つ 榎原 洋子
原句 重宝のものもごみ捨てちちろ鳴く
感想 重宝する、動詞を「に」に置き換えは無理です
添削 資源ごみ出す日の路地やちちろ鳴く 山下 之久
原句 ちちろ虫楽才惜むことのなく
感想 良い感覚。擬人化よりも作者自身の様子を詠みます
添削 楽才を愛でて目つむるちちろの夜 星私 虎亮
原句 雨夜の庭静寂に声を置くちろろ
感想 庭で切れます。また、置くという擬人化強すぎる印象です
添削 雨止みし庭に静けきちちろ虫 髙松美智子
原句 ちちろ鳴く止めてまた鳴く夜の庭
感想 止むは五段活用ですので、文語では止みてが適切です
添削 鳴き止みてまた声あぐるちちろかな 西岡みきを
原句 一匹で闇を震はすちちろ虫
感想 震はす、終止形ですのでここで切れてしまいます。震はすると連体形に
添削 一匹で闇震はするちちろ虫 日澤 信行
原句 ちちろ鳴く明け方近し声のはり
感想 近し、終止形ですので声に繋がってくれません
添削 ちちろ鳴き明け方の闇張り詰めぬ 春名あけみ
原句 神水に指が触るるやちちろ鳴く
感想 この使い方だと神水が夏の季語になります
添削 神域に湧く水の辺にちちろ鳴く 関口 ふじ
原句 大ぶりの芙蓉が墓地をあかるうし
感想 切れがありません。しを終止形の す に
添削 大ぶりの芙蓉が墓地をあかるうす 春名あけみ
原句 きざはしに夫婦の休む秋遍路
感想 中七・下五、意味が通じません
添削 きざはしに休む夫婦の秋遍路 今村 雅史
原句 烏瓜熟れて筑波の今日の秋
感想 季重りになりました
添削 烏瓜熟れて筑波の空青し 住田うしほ
原句 綿虫や時刻表の作成日
感想 中六、字足らずです
添削 綿虫や旧りたるバスの時刻表 山下 之久
原句 妻の寝息誰に憚るちちろ鳴く
感想 意味不通となりました
添削 ちちろの夜妻の寝息もしづかにて 中村 克久
原句 小鳥鳴き鴉鳴き合ふ鈍行駅
感想 鈍行駅、語として成立し難い感じです
添削 小鳥鳴き鴉鳴き合ふ木の駅舎 斎藤 摂子
原句 時空越ゆ水煙古都の秋深む
感想 越ゆは終止形。時空を何が超えたのか伝わりません
添削 水煙の見ゆるまほろば秋深む 髙松美智子
原句 夫婦樟を八の字巡る秋日和
感想 八の字が巡ったことになります。
添削 八の字に樟の木めぐる秋日和 原田千寿子
原句 銀杏や賑やかに地を転つて
感想 賑やか、転がる、擬人化が過ぎるようです
添削 銀杏や地にびつしりと賑やかに 星私 虎亮
原句 万博や元気の素がひとつ消ゆ
感想 季語を忘れました
添削 万博の終はり大阪秋深し 渡邉 房子