今月の著作・句集

 

☆執筆☆播广 義春

茨木和生著 句集「さやか」

著者は昭和十四年奈良県大和郡山市生れ。三一年右城暮石創刊「運河」に入会、山口誓子主宰「天狼」入会。「運河」編集長を昭和四七年より務め、平成三年右城暮石から主宰継承。九年『西の季語物語』俳人協会評論賞、十四年『往馬』俳人協会賞、二六年『薬喰』俳句四季大賞、二八年『真鳥』詩歌文学館賞、二九年『熊樫』小野市詩歌文学賞を各々受賞。その他句集、エッセイ集、鑑賞文集、編著、共著、編集、監修など多数。令和四年「運河」主宰を谷口智行氏に譲り、名誉主宰。
第十八句集で遺句集。谷口智行「運河」主宰は帯に〈やりぬくといふこと大事雲の峰 和生〉これで誓子先生、暮石先生に顔向けができると、天空に心を解き放つ。俳句は言霊だと思い知らされる。唯一無二の詩的世界を築き、俳句を究めた男の至福の物語がここにあると記す。
巻末に「父との日日」茨木曜氏と「父との句集『さやか』」茨木衛氏の二人のご子息による「あとがきにかえて」を掲載。
運河俳句会

尾池和夫著 「活断層のリアル」

著者は一九四〇年東京生れ、高知育ち。六三年京都大学理学部地球物理学科卒業。八八年理学部教授。京都大学第二十四代総長、京都芸術大学学長、静岡県立大学学長を務めた。地震学会委員長、日本ジオパーク委員会委員長、政府の東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故調査・検証委員会委員などを歴任。京都大学名誉教授。地球科学者。専門は地震学。京都大学博士(理学)。氷室俳句会を主宰、句集に『大地』『瓢鮎図』など。
日本には約二千の陸の活断層があり、いくつかが集まって活断層帯として大地震を起こす。活断層の現状と基礎的な知識を解説し、文化面への影響についても取り上げ、安心して暮らすためにはどうすればよいか、を一緒に考えたいとしている。具体的には第一章活断層が起こす地震、に始まり、大地震が終わった活断層、活断層を見つける、活断層とともに暮らす、地震の種類と仕組み、地震の予報、第七章安全と安心で豊かな暮らしを、まで多くの文献を引用し、資料を活用して日本列島の陸の活断層を紹介している。
PHP新書

赤窄 結著 句集「星屑を結んで」

著者は一九五七年大阪府生れ。二〇一八年「幻」入会、二〇二〇年「幻」同人。現在、「幻」同人・編集委員、関西現代俳句協会理事、現代俳句協会会員、奈良県俳句協会会員。
第一句集で、幻俳句会句集シリーズの一集。序文は西谷剛周「幻」主宰で、句集上梓は、本人が過去の俳句を見つめ直し、自分の殻を破る機会であり、私にとっては、赤窄結という俳人の輪郭を再発見するいい機会である、と記す。
四季ごとの俳句の次にエッセイという配置がなされており、エッセイを通じて作者のイメージを浮かべながら句を鑑賞できる。以下、所収句より
蔓薔薇の芽の絡みたる天使像
寝返りの足押し返す熱帯夜
斎場の明るき空を鳥渡る
去る人を幻にする雪蛍
薔薇の香のシャボン泡立て初湯殿
げんげげんげどれだけ摘めばまた会える
句集名『星屑を結んで』には、この句集をステップとして新しいものを求めてゆきたいとの願いを込めたとあとがきに。
幻俳句会

☆執筆☆小林伊久子

岩津厚子著  句集「「全方位」

 著者は一九四六年大阪生れ。八五年「南風」入会、鷲谷七菜子に師事。後、山上樹実雄に師事。九七年「子午線」創刊(二〇〇六年休刊)。〇六年「南風」編集長就任。NHKカルチャー神戸教室講師就任。〇九年朝日カルチャーセンター芦屋教室講師就任。一四年「子午線」復活、「子午線PERTⅡ」代表。一八年「南風」退会。一九年「晨」入会。句集『沸点』『快晴』。俳人協会評議員。
帯に集名の句を挙げ心境を語る。
黄落の樹に許されし全方位
 助詞一つで景が立ち上がる、そんな言葉の不思議に魅せられ四十年余り、俳句は静かに私の横を歩いてくれました。
今は亡き鷲谷七菜子、山上樹実雄両師への「最終レポートと思っています。」
とあとがきに記す第三句集。
河口までひかり抱へて春の川
春キャベツ水軋ませて洗ひけり
緑蔭を出てわが影をとり戻す
肩上下して外套を落ち着かす
鬼やらふ吾のをらざる未来へも
角川書店

伊藤瓔子著 句集「薔薇の卓」

 著者は昭和三一年大阪府生れ。五八年「かつらぎ」入会。六〇年「ひいらぎ」入会。平成三年「かつらぎ」退会。令和六年「ひいらぎ」主宰継承。句集『誰が袖』。俳人協会会員。
 帯に句集名の一句を挙げる。
もの書くも食事も薔薇の匂ふ卓
 季節を感じながら自然に親しみ、無心になって俳句を詠む時は、まさに至福の時間です。(あとがきより)
「深は新なり」は亡き小路紫峡先生の教え。「実感を具象化する」「新しい感覚を持って作句に臨むこと」という師の教えをより深めてゆく「覚悟を新たに精進したい」という思いを込めた第二句集。   
所収句より  
船上に胡弓を聴くや十三夜
旅衣新調したる翁の忌
箸使ひ上手になりて雛の客
海女の舟潮目ひときは濃きところ
まほろばの風の白梅散りにけり
神杉の亭亭たるを恵方とす
秋灯下「あはれ」「をかし」と読みすすめ
古き詩の一節浮かぶ落葉道
文學の森

岐志津子著 句集「海見たき」

 大高翔「藍花」主宰が跋に句評を述べ、「長い句歴を持つ作者の表現力に、あらためて驚かされる。」と上梓を言祝ぐ。
 一九九八年から二〇二五年の句を収めた藍花叢書『夢のあとさき』から一四七句、結社誌「藍花」から一七八句、合わせて三二五句を収めた第二句集。集名は
花ゆすら哀しきときは海見たき
「いつも私を元気づけてくれた故郷の海への思い」からという。さらに「思いがけず病を得、四年間句作を断念するも、再び句に向き合う喜びを得ることができました。」とあとがきに記す。収句より
くれなゐは貫く色ぞ女正月
淑気満つ海照る町に雨情の碑
指かたく組みて祈りの花の昼
藍畑を見守りをるか春北斗
白牡丹水湧くやうに開きけり
柿吊るす子規の妹律のこと
蒼天へ峰のととのふ深雪晴
著者は一九四二年徳島県生れ。九五年「藍花」創刊時入会、その後同人。谷中隆子に師事。九七年第一句集『かけてきて花野』を上梓。 
文學の森

☆執筆☆浅川加代子

和田順子著 句集「五月」(新装版)

著者は昭和十二年兵庫県生れ。昭和四九年「万蕾」参加、殿村菟絲子に師事。五五年「万蕾」賞受賞。平成七年「万蕾」終刊。八年「繪硝子」創刊同人。十二年「繪硝子」継承主宰。句集に『錐体』『和田順子集』『流砂』(横浜俳話会大賞)他。俳人協会名誉会員、日本文藝家協会会員、「丘の会」会員。
本集は、「繪硝子」三十周年記念として刊行された。平成二年に上梓された第一句集『五月』にエッセイを加えて復刻。
 〈紋白蝶一会一会の波頭 菟絲子〉の序句が巻頭を彩る。跋に「万蕾」同人会長の所山花氏が、「和田さんの句は素朴で逞しい力を感じることが多い」との菟絲子師の言葉を綴る。所収句より
くちびるの渇きし日々や主婦二月
風ぬくし干して銀噴く美濃瓦
雪踏んで母を通せり彼岸みち
未だ誰も声立てぬなり百合ひらく
別々に来て梅園の影二つ
大章魚の片目の若狭ぐもりかな
 瑞々しく力強い作品群、そして五月の風のようにさわやかな読後感。
ふらんす堂

大海渡憲夫著 句集「爽涼」

 著者は昭和二一年千葉県生れ。平成二二年「春月」入会、平成二七年「春月」春風集同人、令和三年「春月」春星集同人。俳人協会会員。
 大海渡憲夫俳句の特徴は、悠然と大きく構えた視点からの写生の見事さにある。千葉県の房総地方に育ち、大手商社に勤務し、欧米での生活体験が豊富な氏は(省略)自然観照に自らの思いを投影した佳句をものにしている
と戸恒東人「春月」主宰が帯に記す。跋に小滝徹矢氏が句評と共に句集上梓を言祝ぐ。所収句より
爽涼の富士を引き寄せ遠眼鏡
河童忌や岩を枕の湯治客
国鱒の生きながらへて不二の湖
埋火を父掘り起こし本題に
海もろとも引き摺り上げて若布竿
花茣蓙を持ち寄り島の能舞台
冬晴や安房の真潮に魚群立つ
 「季節の移ろい、自然の美しさを見つめ、人間の営みを観察しながら、自然体の句を詠みたい」とあとがきに。
雙峰書房 

森脇八重著 句集「百千鳥」

 著者(本名八重子)は昭和十四年旧満州生れ。平成十一年「鴨方俳壇」入会(後「遥照」)、平成二九年「鳳」入会、同人。俳人協会会員、岡山県俳人協会会員、鴨方町文化協会会員。
本集は第一句集『梅あかり』に継ぐ句集で、令和二年から令和七年までの三〇三句を収録し表紙と巻末に著者の水墨画を用いている。
 俳句は人である。俳句には人柄があらわれる。八重さんの句を読むと俳句に対する真摯な態度、感動の表出、季語との共鳴に如実に現れている。驚くほどの逞しさとしなやかさを兼ね備えた句が並ぶ。まさに森脇さんの人柄そのもの。
と鴨方町文化協会俳句部長の土屋鋭喜氏が序文に記す。
以下、所収句より
卒寿越ゆる夫を誘ふ花堤
笛鳴つて園児花野の風となる
すんなりと解くる結び目涼新た
風花や応ふるこゑを探しをり
ひとこゑが水面を走り百千鳥
家族への愛が詰まった第二句集。
印刷のよこやま