今月の著作・句集

☆執筆☆播广 義春

自註現代俳句シリーズ
染谷秀雄著「染谷秀雄集」

著者は昭和十八年八月三一日、東京都生れ。四一年「夏草」山口青邨に師事。五六年「夏草」新人賞。六一年「屋根」斎藤夏風に師事。平成二九年三月「屋根」終刊に伴い、「秀」創刊主宰。句集に『譽田』『灌流』『息災』。現在、俳人協会理事事務局長。日本文藝家協会会員。
念願の自註句集三百句を三句集からほぼ百句ずつ選んだという。所収句より
四万十川の長き堤の野梅かな
初雪のそのまま山の発電所
祖母山も傾山も粧へり
笛方の柱隠れに宵戎
二つ三つ萩咲けば来る夏風の忌
あとがきに、自註を取り纏めていて思ったことは、初学からの作品のどれにも当時の情景が鮮やかに甦ってくることに俳句の良さ素晴らしさを実感したことだ。句作の成長は氷河の動きのように緩やかであったが、残りの人生も命ある限り前向きに歩み続けていきたい、と記す。
俳人協会

綾部仁喜著・藤本美和子編
「綾部仁喜全句集」

著者は昭和四年三月二六日東京八王子生れ。二六年國學院大學文学部卒業。二八年水原秋櫻子主宰「馬醉木」、石田波郷主宰「鶴」に投句。三一年八王子市中学校教諭。四四年「鶴」同人。四九年小林康治主宰「泉」に参加、創刊同人。五一年「鶴」同人を辞す。五二年「泉」編集長。五八年第一句集『山王』。平成元年三月、八王子市中学校長歴任後退職。二年「泉」主宰。六年第二句集『樸簡』(俳人協会賞)。十年『山王林だより』(俳人協会評論賞)。十四年第三句集『寒木』。二〇年第四句集『沈黙』(俳句四季大賞)。二六年主宰を藤本美和子に譲り顧問に就任。平成二七年一月十日急性呼吸不全にて死去。享年八十五。本書は既刊四句集に「俳句日記」「『沈黙』以後」「補遺・『鶴』投句時代」を加え、二四四三句のほか、解題、年譜、初句索引、季語索引を収録。
「泉」藤本美和子主宰はあとがきに、病床にありながら、俳句とともに生きる姿勢を示し続けて下さった先生にあらためて畏敬の念を捧げたい、と記す。
ふらんす堂

勝浦敏幸著 句集「鉦叩」

著者は昭和二五年埼玉県川越市生れ。平成二一年「和み句会」、二二年「くすの木句会」、二四年「爽樹」入会、二六年「少年」参加、二八年「爽樹」編集委員、三〇年企画運営、令和二年幹事長兼句会統括、四年幹事長兼企画運営、六年「爽樹」代表。現在、俳人協会会員。
第一句集で序は川口襄氏による。帯に
勝浦さんは長年の仕事に一段落つきつつある五十八歳の時に、俳句をこよなく愛した父と母のDNAを受け継ぎ、迷わず「くすの木句会」の門を敲いたとのことである。更にはもう少し俳句を深く勉強しようと、創刊後間もない「爽樹俳句会」を紹介されて入会した。(略)水を得た魚、俳句の申し子のように俳句に没頭してゆく。(序より)
と記す。以下、同じく自選十句より
何気なき一言なれど青き踏む
百年の味噌蔵の梁闇涼し
椋鳥騒ぐ革命前の民の如
終末へ時を刻むや鉦叩
旅に生きふるさとに死す雪五尺
 爽樹句集シリーズの一集である。
喜怒哀楽書房