☆執筆☆播广 義春
川口 襄著 句集「川越祭」
著者は昭和十五年五月新潟県長岡市生れ。平成二年小澤克己に師事、四年五月「遠嶺俳句会」創立に参加、九年「遠嶺」編集長、十八年幹事長、二二年六月「遠嶺」終刊、九月「爽樹俳句会」発足に参加、二三年「爽樹」創刊編集長、二六年「爽樹」代表、令和二年「爽樹」名誉顧問。現在、俳人協会会員、「爽樹俳句会」選者。句集『王道』『マイウェイ』『蒼茫』『星空』ほか、紀行エッセイ集『私の道』。
第五句集で帯に
天狐舞ふ川越祭の山車のうへ
芭蕉曰く「季節の一つも探り出したらんは後世によき賜と也」と。「川越祭(傍題 曳つかはせ 小江戸囃子)」を「秋祭」から独立した季語として立項した。多くの俳人各位のご賛同を戴ければ幸いです。(「あとがき」より)
と記す。以下同じく、自選十句より
雪吊の綱引き絞る真澄空
鉛筆を耳に戻して鰹糶る
獏枕鯨が空を飛んでゐる
喜怒哀楽書房
坂本宮尾著 句集「ゆるやかな距離」
著者は一九四五年中国・大連生れ。六六年東京女子大学の学生俳句会、白塔会で山口青邨に師事。九〇年青邨没後に創刊された「天為」「藍生」に参加、有馬朗人、黒田杏子の指導を仰ぐ。二〇〇四年評伝『杉田久女』で俳人協会評論賞、一五年桂信子賞を受賞、一八年季刊俳誌「パピルス」創刊主宰。俳人協会理事。句集『天動説』『木馬の螺子』『別の朝』ほか、句文集『この世は舞台』、四行連詩集『うたう渦まき』(共著)、著作『真実の久女』ほか、編著『杉田久女全句集』など。
第四句集で帯に
長く
遠くまで
ゆっくり走る
行く先々の景色に
見とれながら
いつかたどり着くだろう
夢に見た場所に
と記す。以下、同じく自選十五句より
濃き墨で描きし円の涼しさよ
束ねたる島辣韮より島の砂
若き日の香水の香に立ち止まる
角川書店
髙橋健文著 句集「一本の櫂」
著者は昭和二六年宮城県塩竈市生れ。平成五年「好日」入会、小出秋光・長峰竹芳に師事。令和元年「好日」主宰継承。千葉県俳句作家協会副理事長、千葉県現代俳句協会副会長、俳人協会千葉県支部幹事。句集『白墨』『水の器』『中今』。
第四句集で、令和六年までの三五〇句を所収している。帯に
一本の櫂オリオンはまだ遠い
令和元年五月に「好日」主宰を継承してから六年が経つ。コロナ禍があり、能登半島地震をはじめとする大規模な自然災害も続き、未来への不安が大きい時代に我々は置かれていると感じる。その中にあって、私が今できることは俳句を作ること。おそらく文字をこの手で書けなくなるまで、俳句を続けていくことだろう。(「あとがき」より)
と記す。以下、同じく自選十句より
そつと置く檸檬水平線うごく
ふいに来る生き死に桃の花に雨
パスワード変へて氷の声を聴く
齟齬ひとつ日傘のごとく持ち歩く
すんなりと春愁入らざる封筒
文學の森
☆執筆☆小林伊久子
雫逢花著 句集「夏椿」
著者(本名:俊一)は一九四一年高松市生れ。九五年ひまわり俳句会入会。二〇一六年ひまわり賞受賞。二〇年「ひまわり」幹部同人。俳人協会会員。徳島ペンクラブ会員。
西池冬扇「ひまわり」句会会長は
黴の香や生理病理書解剖書
何やら漢字ばかりの敬遠したくなるような字面、でも口に出すと具合がいい。逢花さんにかかると学術書もロマンを湛えた言葉になる。
と序文に記し上梓を称える。収句より
薄氷に風の記憶の波の跡
飛び立てる鳩の重さや花曇
にんげんを見飽きし虎の目借時
愛されて犬の孤独や蚊遣香
秋の蝶こまめに花の番地訪う
「俳句を始めたのは五十歳のはじめ」「高齢となり仕事を長男にゆずり、暇をもてあます身に俳句という『連れ』があったことは幸運に思います。」とあとがきに綴る。ひまわり俳句の信条である「やさしくて、たのしい庶民の詩である」に呼応し、日々に真摯に向き合った句集。
角川書店
喜多村秧子著 句集「桜濃き」
著者は昭和一七年生れ。平成一七年「朴の花」入会。一八年「朴の花」賞新人賞。一九年・二〇年「朴の花」賞準賞。二一年・二二年「朴の花」賞。二四年「朴の花」優秀賞。句集『喜びの音』。俳人協会会員。
長島衣伊子「朴の花」主宰は帯文に
「純粋でひたむきな情熱、明晰な知性、喜多村秧子さんに晩年はない」と第二句集の上梓を言祝ぐ。収句より
家系図に謎の一つや梅白し
やはらかな罪の感触桜摘む
登つてはならぬ階苔の花
本陣の跡は銀行鷹渡る
もう少し燃えたく候烏瓜
初しぐれ一枚岩の青き橋
精米に残る温みや雪催
俳句との出会いから二十年という作者。集名について、「桜は私にとって嬉しい時や悲しい時、いつも拠り所となるものでした。結婚三十周年を記念して山に植えた沢山の桜に人生を支えられ、句作してきました。」とあとがきに記す。
たおやかに繊細な言葉を綴る第二句集。
朴の花俳句会
藤本一城著 句集「紅葉川」
柴田鏡子「笹」主宰は、集名の句
難読の駅過ぎてより紅葉川
を挙げ、帯文に「まさに人の世の全てを詩い上げた藤本一城氏の一句」と言祝ぎ、祝句〈悠久の以心伝心紅葉川〉を贈る。
収句より
来賓もくちびる動く卒業歌
天空の風を助走に春の駒
ひとすぢの空の傷より雲雀落つ
風少し出て草市の店仕舞ひ
尾翼にも雪をいただく一番機
みどりごの眠りを膝に木の芽風
良き言葉佳き調べ聞く聖夜かな
冬鳥に航海日誌読み聞かす
引力のやさしき日なり朴落葉
著者は昭和三二年京都市生れ。平成一九年東海俳句懇話会「笹」入会、伊藤敬子に師事。二一年「笹」呉竹賞受賞。二八年笹賞受賞。令和二年柴田鏡子に師事。句集『冬銀河』。俳人協会会員。
著者はあとがきに、「笹」四十五周年という節目の年の第二句集の上梓を「身の引き締まる思いをしております。」と記す。
一瞬の出来事を鋭い感性で捉えた句集。
角川書店