今月の著作・句集

 

☆執筆☆播广 義春

宇多喜代子著 聞き手 神野紗希 「俳句とともに わが半生の記」

 著者は昭和十年、山口県生れ。遠山麦浪から俳句を学び、「獅淋」を経て「草苑」入会、桂信子に師事。平成十六年、桂信子逝去後、「草樹」を創刊。現在、「草樹」会員代表、現代俳句協会特別顧問。
聞き手は昭和五八年、愛媛県生れ。俳句甲子園を機に俳句を始め、平成十六年から六年間、NHK「俳句王国」司会。現在、俳句雑誌「noi」代表、現代俳句協会常務理事、日本経済新聞俳壇選者。
本書は二〇二三年~二五年、神野紗希氏を聞き手として収録したインタビューの対話をもとに、著者の語り下ろしとして纏めたもの。第一章子ども時代の原体験・原風景、に始まり第二章から第九章までを初期句編「遥遥抄」と九句集に重ね合わして俳句及び人との出会いについて語っている。「インタビューを終えて」に聞き手は宇多喜代子という俳人の足跡を辿ったこの本は俳句史そのものであると同時に本質的な俳句論である、と記す。
朔出版

西村和子著 句集「素秋」

 著者は昭和二三年横浜に生まれる。四一年「慶大俳句」に入会、清崎敏郎に師事。平成八年行方克巳と「知音」創刊、代表。句集『夏帽子』(俳人協会新人賞)、『窓』『かりそめならず』『心音』(俳人協会賞)、『鎮魂』『椅子ひとつ』(小野市詩歌文学賞・俳句四季大賞)、『自由切符』『わが桜』ほか。著書『虚子の京都』(俳人協会評論賞)、『清崎敏郎の百句』ほか。対談集『愉しきかな、俳句』、他共著など。
現在、毎日俳壇選者、俳人協会副会長、国際俳句協会理事。第九句集で、帯に
夫を見送って二十年、私を生かし続けてくれたのは、俳句と、真の仲間たちだった。人生の春に出会った俳句だが、今や人生の秋も深まったことを実感している。その思いを句集名に籠めた。(「あとがき」より)
と記す。以下、同じく自選十二句より
衣替へて居職の心定まりぬ
子へものを書けば遺書めく夜の秋
はつふゆと息吹くやうに独り言
冴返る我が身にいくつ蝶番
夢に逢ふ時は壮年明易し
朔出版

板倉ケンタ著 句集「一花一虫」

 著者は一九九九年東京生れ。二〇一四年開成中学校俳句部にて作句開始。一七年石田波郷新人賞、一八年俳句四季新人賞、二〇年星野立子新人賞。「群青」「南風」所属。第一句集で、跋は佐藤郁良「群青」代表、解説は村上鞆彦「南風」主宰による。又櫂未知子「群青」代表は帯に
頑丈である。そしてときに繊細で華奢なたたずまいを見せる。板倉ケンタの作品を前に私はしばし立ちすくむ。なぜなら、読者に挑み、読者をときに選ぶからだ。しかし、もしもそれがケンタの望むところなら、いいだろう、私は受けて立たねばならない。
と記す。同じく帯に、句友である筏井遙、岩田奎両氏の七句抄を掲載している。
以下、所収句より
雪よりもつめたき雨にかはりけり
冥冥と木々あり秋の女郎蜘蛛
木の一花一虫余さず濡れ
楢枯のみささぎ遠し夏の雨
今、句集を届けたい人たちがいる。そのすべての人に届けるために、半ば拙速ながら句集上梓に至った、とあとがきに。
ふらんす堂