今月の著作・句集

☆執筆☆播广 義春

新谷 壯夫著 句集「翠嵐」

 著者は昭和十六年兵庫県生れ。三九年松下電器産業(株)(現パナソニック)入社、平成五年インド及びアメリカに計八年間勤務。十八年職場OB俳句会入会、柴田多鶴子に師事。二三年俳誌「鳰の子」創刊同人。令和元年第一句集『山懐』上梓、六年まで「鳰の子」同人会長を務める。六年鳰の子同人賞受賞。現在俳人協会会員、大阪俳人クラブ会員。
 柴田多鶴子「鳰の子」主宰は帯に
夏草の繁りかき分けはせを句碑
火の入るる封人の家そぞろ寒
 新谷さんは趣味多彩で俳句はもちろんのこと、弓道・登山・旅行などエネルギッシュに行動されています。中でも奥の細道をたどった句の数々は圧巻です。第一句集から六年間の充実の第二句集です。
と記す。以下、同じく主宰抄出句より
凩や麒麟の耳の裏がへる
僧の所作闇が呑み込む送水会
負け牛の綱放さるる青野かな
俳句アトラス

大山文子著 句集「なるかならぬか」

 著者は昭和二四年島根生れ。平成七年「火星」入会、十八年圭岳賞、火星賞受賞、二二年第一句集『手袋』上梓。令和六年「火星」副主宰。現在、俳人協会会員、京都俳句作家協会幹事。
二八二句を収めた第二句集。跋は南うみを「風土」主宰で、帯に以下を記す。
文子さんの俳句は、いわゆる「印象明瞭」を突き抜け、季語や素材が読み手の想像力を刺激し、更なる深い世界へと誘う……(「跋」より)
 以下、同じく自選十二句より
納棺師春三日月を帰りけり
大杉の空が鳴るなり鬼やらひ
孑孑の水に天籟男山
南祭の始まる月の高さかな
なるかならぬか声を雀にはばかりぬ
 あとがきに、実母が亡くなった後食卓から見える場所に西条柿の苗木を植えました。(中略)たまたま裏年だった年の翌年の小正月に成木責を思い立ち庭箒を手になるかならぬかと柿の木を打ちました。その年は豊作でその後の私の小正月の習いとなりました、と記す。
角川書店

大崎紀夫著「3行詩その他115・2024」

 著者は昭和十五年埼玉県戸田市生れ。詩集に『単純な歌』『ひとつの続き』、句集は『麦わら帽』など十二冊。旅の本に『湯治場』『旅の風土記』『歩いてしか行けない秘湯』。共著『つげ義春流れ雲旅』。釣り本に『全国雑魚釣り温泉の旅』をはじめ十七冊。他に『農村歌舞伎』『ちぎれ雲』『ちぎれ雲2』『地図と風』『nの方舟―大人の童話』『nの方舟2』など。
 本集は年間40日にわたり作詩された3行詩(108)、4行詩(5)、5行詩(1)、6行詩(1)の計115詩である。
以下、詩集より(2024年1月1日)
凍蝶のまわりに

落葉のまわりに


冬の夜
ひかる海に
記憶が集まっている
 あとがきに、近ごろは電車の優先席に座っていても、単語やイメージが頭に浮いてくることが少なくなった、と記す。
ウエップ