今月の著作・句集

 

☆執筆☆播广 義春

自註現代俳句シリーズ
西池冬扇著 「西池冬扇集」

 著者は一九四四年大阪生れ、東京育ち。物性研究のかたわら、科学論を楽しむ。俳句は義父高井北杜の結社「ひまわり」に入ったのがきっかけ。句集『阿羅漢』『遍路』『碇星』『8505』『彼此』、評論『俳句で読者を感動させるしくみ』『俳句の魔物』『非情の俳句』『高浜虚子―未来への触手』『臼田亞浪の百句』ほか、随筆『時空の座』『時空の座拾遺』など。
 本集は第一句集(昭和六一年)から第五句集(令和三年)までの自選三〇〇句に自註を付したもの。自分なりに句集はどうあるべきか迷っており、『彼此』以降は別途まとめるつもりと、あとがきに。
以下、所収句より
綿虫の空ガンダーラまで続く
我が影が被爆の壁に大西日
恋猫や冥き殺意のこもる路地
寄り目して我が鼻をみる二日かな
立冬の輪ゴムで倒すマッチ箱
紅梅の香りを嗅ぎに下駄おろす
俳人協会

河瀬俊彦著 句集「櫓の音」

 著者は昭和十八年三月香川県高松市生れ。平成二十年六月「遠嶺」主催俳句入門講座受講、十月「遠嶺」入会。二二年六月「遠嶺」終刊(同年四月小澤克己主宰逝去)、九月「爽樹」創立、編集委員。二三年一月「爽樹」創刊、二八年四月「爽樹」テキスト委員会委員長、現在に至る。三一年四月「爽樹」幹事長、令和二年四月「爽樹」代表(第三代)、六年四月「爽樹」名誉顧問、現在に至る。俳人協会会員。句集『箱眼鏡』(令和元年)。「爽樹」は令和八年一月に創刊十五周年を迎える。
 第二句集で、令和元年から七年六月までの作品三七〇句を収める。句集名「櫓の音」は〈櫓を漕げば楽の生まるる良夜かな〉による。自分の実感したことを、平凡な言葉の組み合わせで、言葉の「窯変」により非凡な句ができないかと願いつつ、平凡な句を詠み続けていると、あとがきに記す。以下、自選十二句より
美ら浜を歩めば痛し沖縄忌
鳥わたる湖は地球のにはたづみ
ぶな林のゑくぼのやうに木の根明く
吟遊の師のゆく影か梅雨の蝶
ふらんす堂

芳野ヒロユキ著
100句の句集「運命のズッキーニ」

 著者は一九六四年八月三十日静岡県磐田市生れ。大学生の時に坪内稔典に出会う。八七年「船団の会」会員。二〇一六年第一句集『ペンギンと桜』出版。二〇年「猫街」同人。「船団の会」散在。二三年「窓の会」常連。第二句集で、跋は坪内稔典「窓の会」主宰による。また帯に、
俳句の575の表現は究極的にはリズムとイメージである。575の表現の極みへ、あるいは辺境へ、ナガラミガイやカメノテを肴にして行こうではないか。(「跋」より)
と記す。以下、同じく自選五句より
本名はゲジですゲジゲジではないです
夏を追うスリーポイントシュートすぽっ
半島をぶっこむしょっつる鍋である
冬茜釜飯デートしませんか
カタバミは山崎自転車屋のおやじ
バッグに入れて通学や通勤時間に読んでもらうだけでなく、リビング、食卓、キッチン、トイレ、毎日の暮らしの様々な場面でほんの十秒でいいからこの句集を開いてほしいと、あとがきに記す。
象の森書房

☆執筆☆小林伊久子

黒川悦子著 「内藤鳴雪研究」
子規と歩んだ俳句活動 

 正岡子規と内藤鳴雪の果たした役割を検討し、俳句革新活動の側面を探る書。
 本論は全体を三部にわけ、第一部では鳴雪と子規の出会いや『蕪村句集』入手とその評価について。第二部では鳴雪と松山版「ほとゝぎす」・東京版「ホトトギス」との関わりや「蕪村句集講義」について。第三部では子規没後の鳴雪の俳句活動を論じている。巻末に「老梅居漫筆」(鳴雪筆)や内藤鳴雪年譜、参考文献、索引(人名・俳句)を掲載。
著者は昭和二二年福岡県生れ。六〇年稲畑汀子、田端美穂女に師事し俳句を学ぶ。平成六年ホトトギス同人。七年「円虹」創刊に参加。三〇年同志社女子大学で博士号(日本語日本文化)取得。その後、俳文学会会員、芦屋市谷崎潤一郎記念館「俳句講座」講師。日本伝統俳句協会副会長。国際俳句協会理事。句集『若葉風』。評論集『子規の小箱』。著書は分担執筆等多数。令和五年逝去。
 夫君黒川恵氏が「あとがきに代えて」に遺稿となった本書への思いを語る。
 和泉書院

吉田成子著 句集「昨日今日」

 著者は昭和一一年大阪生れ。三七年から作句。「うぐいす」入会、湯室月村に師事。四五年「鷹」入会、四九年まで藤田湘子に師事。四七年「草苑」入会、桂信子に師事。平成一七年「草苑」終刊に伴い「草樹」に入会。「草樹」発行人、編集長を経て現在「草樹」会員。現代俳句協会参与。関西現代俳句協会顧問。著書『桂信子の百句』。句集『深秋』『風さわぐ』『日永』。
 平成二四年から令和七年までの二九六句を編年体で編んだ第四句集。集名は〈着ぶくれて昨日は強気今日弱気〉から。巻末に季語索引を付す。収句より
炎昼を病む静けさに水の音
背後からのぞく人影鰻桶
うしろから来るもの冬も足音も
火と水をほそぼそ使ひ冬ごもり
秋涼し神に仏に朝の水
帯は宇多喜代子「草樹」代表。「日々の暮らしに浮沈するちょっとした出来事や 心からなる深い思いを 強い骨格と柔軟な言葉で成句した一句一句」と言祝ぐ。
 八十九歳の今のしなやかさが瑞々しい。
 ふらんす堂

田島久美子著 句集「良夜」

 二〇〇六年福山リビングカルチャー教室に入会、柴田南海子に師事。「太陽」に入会、務中昌己に師事。一〇年福山市西部市民大学「俳句入門講座」受講、𠮷原文音に師事。一五年太陽新人賞受賞。二〇年準太陽賞受賞。二一年太陽賞受賞。二五年「太陽」同人代表に就任。俳人協会会員。
ひとひらの薄絹となり牡丹果つ
「この繊細な感覚から生まれた一句の調べのなんと美しいことか。散るに及んでもなお愛おしい牡丹の美を、余すところなく描写している。」と𠮷原文音「太陽」主宰が帯に記し、「品性が高く、詩情豊かで、やわらかな肌触りを持ち味とした句境に至っている」と称える。収句より
丸窓に螺鈿の文箱梅匂ふ
家々に漬物上手ゐる小春
お蔵から起こされ享保雛の鬱
みどりの夜湯浴みの嬰を手から手へ
吉事来よ家の鬼門へふくさ藁
 俳句との出会いを「介護の日常を忘れる私の大切な時間となりました」とあとがきに記す。生きることの柱となった俳句への思いがほとばしる句集である。
本阿弥書店