談話室 ≪総合誌・俳誌から≫

 

新作月評〈結社誌より〉   吉浦  増

   森田純一郎主宰「かつらぎ」5月号

「雲の峰」 二月号(朝妻 力)
十六島みやげも浮かす七日粥   朝妻  力
 十六島に「うっぷるい」とルビが振られている。馴染のない方もいらっしゃると思う。読者に十六島とはどこにあるのか、十六島のみやげとは何か色々な想像を駆り立てる。十六島は島根半島の北西部にある港町で出雲大社の隣町であり、季語にもなっている「十六島海苔」の産地でもある。地名の由来は十六善人が「般若経」を背負ってこの地に上陸したとか、海苔の製法「うち震(ふる)う」による説がある。季語は七日粥。七種(ななくさ)の傍題で正月七日にいただく粥のこと。万病を防ぎ邪気を払うとされる、正月気分に大きな区切りをつける印象が強い。十六島の地名がよく効いた一句である。遠く日本海の潮が育んだ海苔の香ばしい薫りを味わいつ、無病息災を祈る氏の胸に去来するものは何か。益々のご活躍を祈るばかりである。


諸家風韻         田口  耕

   檜林 弘一主宰「白魚火」5月号
枝々と鳥声残し山眠る 
読初を伏せて子たちの待つ席へ 
初春や爺の丈越す中二女子 
朝妻 力(雲の峰 二月号)
 一句目。気が付けばしんしんと雪ふる季節となった。木々は、葉を落とし切り枝のみの姿となり、鳥は姿をはっきり見せず声のみ聞こえてくる。静かに山眠っている。
 とりわけ朝方にこのような光景を見る。いつものことのように思える。しかし、このように表現されてみると「確かに、その通りだなぁ」と、頷く。当たり前の中の発見と思う。
 二句目。五年前に長男が帰島して我が家は、九年ぶりに家族四人そろった生活が復活した。それ以降、「本を伏せて子たちの待つ席へ」向かうことは日常よくある風景である。子が帰ってきたころは、しみじみと喜びに浸っていたが、慣れとは恐ろしいもの。心の豊かさを減らしていく。
 いま、作者のお宅には、正月でお子さん家族が訪れておられる。非日常の世界なのだ。家族がそろうことの有難いこと。幸せなこと。金では買えないこと。知らされる句である。
 三句目。同じく、ご家族が集まった正月の風景。久しぶりに出会った孫娘さん、早、中学校二年生に。 そして、驚いたことに、自分の背丈を越えていたのである。その驚きと喜びが「爺」の言葉に表れている。正月に家族が集まった喜びを詠んだ句は多い。平凡であるが、それでよいと思う。あとは、どのように詠むか。実際、平凡に見えてそれほど凡ではない。天災がいつ起きるかわからない。自分の体もしかり。諸行無常の世にあって平凡の有難さが身に染みて来る。その喜びの詠み方が難しい。


添削教室         山本比呂也

   山本比呂也主宰「松籟」2月号
 大阪府茨木市に俳句結社「雲の峰」があります。その主宰をしておられる朝妻力氏が、昨年十二月号に次のように書いておられるのでご紹介します。
 俳句は読者に伝わるように、正しく表現しなくてはなりません。正しく表現するということは、日本語の法則、つまり文法にのっとって表現するということです。指導者の中には「俳句に文法は関係ない」とか、「文法よりも詩情が優先する」などと公言する人もおります。結論的に言えば、そのような方々は文法を体の中で熟知しているか、あるいは文法を説明できないのか、どちらかでありましょう。少なくとも、いま中級へ挑む、あるいは、中級から脱出することをめざしている皆さんにとっては、文法を避けて通ることはできません
 私も以前、文法が軽んじられている風潮についてお話したことがありますが、朝妻主宰の文章からもお分かりのように、「文法を重要視するのは、正しく表現し、正しく読み手に伝えるため」です。もちろん、正しい表現の要素は文法だけではありません。
・旧仮名遣い、文語体で書いているか。
・漢字が間違っていないか。
・文脈が通っているか、意味が通じるか。
・語順が適切か。
 正しく表現することは、俳句を書く上での基本中の基本です。句の中身が良くても、間違いがあればバッテンが付いてしまいます。
 正しい表現あっての俳句力であることを肝に命じましょう。


俳誌月評         鶴岡久美子

   髙橋 健文主宰「好日」5月号
雲の峰 一月号 通巻四〇三号 月刊
 主宰 朝妻力。平成元年、朝妻が富士ゼロックスの同好会誌「俳句通信」として創刊。一三年「雲の峰」と改題し結社化。師系皆川盤水。
主宰作品「肌着干す」より
蜜柑剝く幼時の茶の間思ひつつ
冬の夜や座敷わらしの気配ふと
常葉集(主宰選)
指いよよ反らして仁王冬に入る 井村 啓子
炉開や茶壺に赤き飾り紐    長岡 静子
渋墨の匂ふ格子や露時雨    中川 晴美
照葉集(主宰選)
旅愁湧く智恵子の空の冬ぐもり 伊藤たいら
甘藷掘の声おほらかにキリン組 伊藤 月江
回覧に屋号を記する町小春   今村美智子
青葉集(主宰選)
海峡の見ゆる古墳や色鳥来   松浦 陽子
郡是てふ謂れ教はる小六月   穂積 鈴女
鷹匠のかひなに眼座りけり   中田美智子
若葉集(主宰選)
再検で無罪放免天高し     神出不二子
岩を割るごとき松の根冬ぬくし 川尻 節子
冬空の重きを語る能登の人   扇谷 竹美

創刊三五周年記念の総会、祝賀会の様子が写真と共に記されている。また大原の里界隈で行われた記念吟行も紹介されている。〈綿虫に慕はれ歩く大原路 朝妻力〉その他、課題俳句、誌上句会披講、句集・ 著作紹介、主宰日録など充実している。


受贈誌拝見        林 奈津子

   清水 和代主宰「春塘」春季
「雲の峰」令和六年 十二月号
  主宰:朝妻 力
  創刊:平成元年十二月
  発行所:大阪府茨木市
  師系:皆川盤水
「花探す」
子を膝にかぐや姫待つ十三夜    朝妻  力
秋の日を浴ぶるめ組の供養塔    〃
藁使ふためとて稲架を組みをりぬ  〃
樟軽く鳴らして神の旅立ちぬ    〃
ぴんころ地蔵延命地蔵寺小春    〃
電線の無き町並を秋燕       〃
「常葉集」
行合の路地に今井の秋惜しむ    吉村 征子
澄む秋の風にさゆらぐ竹の音    浅川加代子
銀札に和州の朱印秋深し      井村 啓子
秋の灯や離農の家がまた一つ    小澤  巌
山の端に立つ強面の野分雲     酒井多加子
朱を極め廃寺の跡の烏瓜      杉浦 正夫
来し方の功罪数へゐる夜長     高野 清風
夕暮の刈田をちこちより煙     長岡 静子
燻し牢残る旧家やそぞろ寒     中川 晴美
「照葉集」
さやけしやケサランパサラン舞ふ朝 伊津野 均
落日や花野にちさき供養塔     今村美智子
木の実降るかつて行宮ありし里   うすい明笛
全山へ御富法会の法螺の音     香椎みつゑ
立待月目指し飛行機陸続と     河原 まき
「青葉集」
句想果て見上ぐる二十三夜月    瀬崎こまち
草の穂に月の雫のきらめけり    北田 啓子
秋高し橋脚守る木除杭       乾  厚子

 「雲の峰」は朝妻力主宰による創刊三十五周年となる俳誌です。会員の作品数の充実もさることながら読み物(雲の峰賞、新人賞発表、主宰による俳句入門など)も楽しく拝見させていただきました。
 これからの益々のご健吟、ご発展を心より祈念いたします。


現代俳句鑑賞       小林 千秋

   和田 順子主宰「繪硝子」5月号
積ん読の残り一冊春を待つ   朝妻  力
春近し宇賀神笑める三室戸寺   同
やすらけき朝の日差しや春隣る  同
 (「雲の峰」404号〝孤雲〟より)
 編集長より現代俳句鑑賞への執筆依頼の電話を受けた日、結社誌「雲の峰404号」の贈呈を受けた。筆者が「雲の峰」の西岡みきを氏の句集「馴染の鴉」を「繪硝子」で紹介したことへのお心遣いであった。
 多くの会員を有し充実の結社誌である。
 朝妻力主宰の「孤雲」十七句は、年末から寒中への「ゆるやかにしずやかに」 過ぎゆく日常の何気ない事柄が丁寧に詠まれている。
 掲出句はその掉尾の三句。
 一句目、その内に読もうと「積ん読」してあった書物を正月休みに読まれ、あと「残り一冊」となりほっとされている。これも読み終えた頃には春が来ている事だろう。
 二句目、初詣に宇賀神を祀る宇治の三室戸寺へ行かれたのか。宇賀神は弁財天と同一視されるとも云われ、白蛇が弁財天の化身とされる。本年の巳年に因み多くの参拝者で賑ったに違いない。写真で見る三室戸寺の宇賀神は体が蛇で蓮に乗る姿をとっている。やさしい笑みを浮かべる御像に「春近し」を感じられたのである。
 そして雨戸をさっと開けると差し込む「朝の日差し」に「春隣る」を覚えられた。春へと逸る気持を「春を待つ」「春近し」「春隣る」と詠み分けられている。
神の留守野猫の集く札所道   西岡みきを
様々なる言葉飛び交ふ遍路道   同
(「雲の峰」404号より)
 句集「馴染の鴉」で朝妻主宰が「自然と共生する心情が見事」と記されていたが、句集の続きを読んでいる気分である。
 出雲へお出ましの「神の留守」を神に代って守るかのように「札所道」に「野猫」が寄り集っているのである。「野猫」への優しい目差が暖い。その札所を巡る「遍路道」にインバウンドの外国人観光客も足を運び様々な異国語が「飛び交」っているという。
 遍路は春の季語ながら四季を通じて賑わうことになる。氏の札所道の句もますます期待される。

寄贈図書         工藤 泰子

   佐藤 宗生顧問「遙照」五月号
朽ち船を這うては引ける春の潮  朝妻  力
のどけしや運河に浮かびゐる鳥も  〃
恐竜も飾りて園の雛祭       〃
火切り道残る二月の三笠山    吉村 征子
あたたかや弥陀の化仏もその指も 浅川加代子
雉の声響く明日香の八角墳    井村 啓子


拝受俳誌・諸家近詠    徳重 三恵

   外山 安龍主宰「半夜」5月号
過去帳のしんがりに兄梅の花   長岡 静子


他誌拝読    永沢 達明主宰「凧」5月号

「雲の峰」三月号  朝妻 力主宰
なやらひの復路に提ぐる恵方巻
それらしき気配もなくて寒明けぬ
立春や伊丹台地に蔵いくつ
初午や鍵を咥ふる狛狐
警報も出でて列島冴返る

茨木市俳句協会 春の大会    四月二五日

 茨木市教育委員会賞
着ては脱ぎ迷ひて散らす花衣   田中よりこ
 高点句賞
足らざるを言へば切りなし蜆汁  堀いちろう
 山田 佳乃 選
駅一つ過ぎて湖北の山霞む    船木小夜美
あたたかや待合室に亀もゐて   浅川加代子
着ては脱ぎ迷ひて散らす花衣   田中よりこ
おほきにの一言嬉し花の昼    穂積 鈴女
 高橋 照美 選
あたたかや待合室に亀もゐて   浅川加代子
荼毘にふすけむりのにほひ夕桜  青木 豊江
 朝妻  力特選
蓮華座に残れる十字春深し    浅川加代子
 朝妻  力入選
霞立つ無人の島もおのころも   浅川加代子
霞みつつ暮れゆく水や人麻呂忌  西田  洋
 岩井 英雅特選
着ては脱ぎ迷ひて散らす花衣   田中よりこ
 岩井 英雅入選
足らざるを言へば切りなし蜆汁  堀いちろう
 甲斐よしあき特選
風光る朝な朝なの見守り隊    船木小夜美
 甲斐よしあき入選
足らざるを言へば切りなし蜆汁  堀いちろう
 藤井なお子入選
ペン持ちて寄る五十人花は葉に  朝妻  力
 岸田 尚美入選
おほきにの一言嬉し花の昼    穂積 鈴女
 谷 ゆう子入選
駅一つ過ぎて湖北の山霞む    船木小夜美
足らざるを言へば切りなし蜆汁  堀いちろう
おほきにの一言嬉し花の昼    穂積 鈴女
 互選得点句
足らざるを言へば切りなし蜆汁  堀いちろう
着ては脱ぎ迷ひて散らす花衣   田中よりこ
駅一つ過ぎて湖北の山霞む    船木小夜美
霞立つ無人の島もおのころも   浅川加代子
蓮華座に残れる十字春深し    浅川加代子
おほきにの一言嬉し花の昼    穂積 鈴女
霞みつつ暮れゆく水や人麻呂忌  西田  洋
法螺響く修験の山の霞けり    穂積 鈴女
風光る朝な朝なの見守り隊    船木小夜美
あたたかや待合室に亀もゐて   浅川加代子
寡婦が寡婦見舞ふ日和や郁子の花 西田  洋
悪餓鬼の子猫とどくる駐在所   青木 豊江
春霞電車は音を響かせて     田中よりこ
荼毘にふすけむりのにほひ夕桜  青木 豊江
山一つ宅地に変はる暮春かな   田中よりこ
ペンを持ち寄る五十人花は葉に  朝妻  力

第十一回 まほら俳句大会    五月十七日

 朝日新聞社賞
足るを知る齢となりて土筆摘む  上西美枝子
 産経新聞社賞
日の温み残る胡瓜を刻みけり   中川 晴美
 有本 惠子特選
酌み交はす他生の縁や春の旅   榎原 洋子

令和俳壇      角川書店「俳句」四月号

 白濱 一羊佳作
スーパーに研ぎ屋コーナー年の暮  佐々木一夫

俳句手帖[夏]  角川書店「俳句」五月号

けんけんの始めの一歩風薫る    小林伊久子

令和俳壇      角川書店「俳句」五月号

 成田 一子佳作
遅刻して門の眩しき冬椿      深川 隆正
泡ぷくと夜の底ひの大海鼠     小林伊久子
 森田純一郎佳作
冬暖や身長計に骨のばす      小林伊久子
観音の里や冬芽のほころびぬ    角野 京子
 井上 康明佳作
兜太汀子狩行と黄泉の初句会    佐々木一夫
 小林 貴子佳作
言ひ出せぬまなこに本音雪しんしん 中尾 謙三
竹生島揺らし金黒羽白群る     角野 京子

セクト・ポクリット コンゲツノハイク

   堀切克洋氏ホームページ 4月
過去帳のしんがりに兄梅の花   長岡 静子
五百羅漢五百の淑気湛へたり   冨士原康子
卯の杖を飾り八畳安らぎぬ    浅川 悦子
猟銃を担ぎ男ら山に入る     髙橋美智子
ねんごろに畳んで捨つる古暦   福原 正司
百歳の迫る一人の日の始     入江  緑
賽銭に見合ふ願掛け初詣     松谷 忠則

アンジュ俳句会 社会福祉法人庄清会

   5月  指導 角野 京子
羽曳野の部屋から見える夕霞    江草 孝子
移り香に目覚める春のティータイム 黄瀬 智代
座布団にお多福さんや梅香る    芝池フランク
玄関に友を迎える桜かな      新庄  昌
子を連れて桜の下で陣地取り    高見 智子
弟の命日今日の花の雲       西岡久仁子
霞ヶ浦若き桜の空へ発つ      中谷 重美
花は葉にビオロン抱えパリへ発つ  藤岡 一子
花冷えや犬がくしやみをして通る  松本津裕子
放たれて泥鰌の泳ぐ花の昼     角野 京子