談話室 ≪総合誌・俳誌から≫

 

四季巡詠33句

                 「俳壇」7月号
 野田藤          朝妻  力(雲の峰・春耕)
うららかに売れてもうらないてふ通り
のどけしや街にずらりと占ひ師
燕飛ぶ水野南北ゆかりの地
囀や鳥居の先に寺の門
春の日に照る山門の親子龍
燕飛ぶ神も仏もたふとくて
龍神を祀れる池の水温む
かきつばた蕾める池に芭蕉句碑
通称は浦江聖天藤香る
藤揺るる阿形の獅子の口に触れ
春風や寺歴を語る老住持
一帯は野田の玉川藤揺るる
公園に球蹴る子らや春の風
葉隠れに紅濃き八重の残花かな
巣籠れる雉鳩や目をらんらんと
藤庵の名残る公園藤の花
石組みは藤庵移しうららけし
藤愛でし秀吉しのぶ庵跡
目の合へば即ち逃ぐる雀の子
はなやかに羽虫寄せをり郁子の花
野田城の跡やはこべら花を見せ
とりごゑに目を閉ぢしばし春惜しむ
野田藤の発祥の地の春祭
六尺を風に委ねて野田の藤
五千円札たる藤が揺れ止まず
命名は牧野博士や藤香る
藤の木を閲す博士の春帽子
棚を来る風や日差しや藤香る
春日社の斎垣に我が名春深し
藤に杯あげて直会始まりぬ
椅子足して酒宴となりぬ藤の下
ほこらしく羽ひろげくるつばくらめ
鎌足の裔の当主が藤語る

受贈誌管見        海老澤正博

          浅井 民子主宰「帆」9月号
「雲の峰」令和七年七月号 通巻四○九号
 主宰 朝妻  力  発行所 茨木市下穂積
 創刊 平成元年、朝妻が富士ゼロックスの同好会誌「俳句通信」として創刊。十三年「雲の峰」と改題し結社化。 師系 皆川 盤水
「季語を生かし日本語を正しく使うことを旨とし『学習する結社』を標榜。」(俳句年鑑より)
  主宰作品「たふとけれ」より
愛嬌をしばしふりまき蜥蜴消ゆ   朝妻  力
芒種けふ一と日静けき雨を聞き 
一本は真白く咲ける花石榴 
人知れずぬぐふ汗こそたふとけれ 
 主宰選「当月抄」七十八句よりご紹介します。
  主宰選「常葉集」当月抄より
御田植祭一人相撲が神に負く    長岡 静子
アレクサにあれこれ頼む宵の夏   中川 晴美
焦げしるき四天王像灯の涼し    浅川加代子
春深し錆深々と七支刀       井村 啓子
  主宰選「照葉集」当月抄より
軽き身をいよいよ軽く更衣     宇利 和代
のれそれや句友を祝げる春の宴   岡田万壽美
赤ふんで鮒つかみ合ふ昭和の日   岡山 裕美
早乙女が籠をふりふりおざや節   小山 禎子
  主宰選「青葉集」当月抄より
諏訪なれや木落し坂の草茂る    越智千代子
たましひは流線型か南吹く     新倉 眞理
眉少し細くととのへ夏に入る    青木 豊江
野の宮にひちりき響く竹の秋    穂積 鈴女
  主宰選「若葉集」当月抄より
平日は貝もまばらや潮干狩     山崎 尚子
ででむしの乗る葉を残し庭手入れ  杉本 綾子
夫の忌の雨しめやかに苔の花    行竹 公子
慌てずに行かふ狭庭の枇杷は黄に  髙松眞知子
 充実の句群に加えて、選評・鑑賞評群も圧倒的です。
 先ず主宰による「常葉・照葉集選後所感」、「青葉集選後所感」、「若葉集選後所感」があります。常葉・照葉集の当月抄二十五句全句、青葉集の当月抄二十三句全句、そして若葉集の当月抄二十四句についての主宰の選評です。
 三代川次郎氏、角野京子氏、伊藤たいら氏による「前々月号鑑賞」があります。三代川氏が常葉・照葉集、角野氏が青葉集、伊藤氏が若葉集の中からの鑑賞評です。
 伊津野均氏、光本弥観氏による「主宰の一句鑑賞」が続きます。
 原茂美氏、島津康弘氏選による「青葉・若葉抄(前月号より)」は夫々十九句の選句です。
 岡田万壽美氏選による「課題俳句」のページがあります。今回の課題は「梯梧の花」です。
 誌上句会のページがあります。第三九六回の誌上句会作品集、そして第三九四回の誌上句会披講のベージです。
 伊津野均氏による「俳誌紹介」、播广義春氏、小林伊久子氏による「句集・著作紹介」が続きます。
 主宰による「俳句入門二一」は前回に続きスーパー切字「や」について、例句を通しての解説です。
 「談話室」は総合誌・他誌における主宰をはじめ皆さんのご活躍の報告です。
 その中の主宰の「本当にあった国譲り」は、俳人協会島根支部会報の主宰の講演録です。文中の黒曜石の話は、主宰の「青葉集選後所感」の越智千代子氏の選評の中に及びます。更に「主宰日録」の中には「本当にあった国譲り」を「……徹底的に修正」とあり、作業工程の深さが思われます。
 そして主宰の編集後記の中に、当月の主宰作品「たふとけれ」の表題句が皆さんへの感謝の辞として記載されています。こうした有機的に繋がる誌面構成の中に、結社の強い一体感を感じました。

俳句文学館     九月五日 俳人協会

評議員・幹事を委嘱
 新任 評議員 播广 義春  幹事 河原 まき
 *他、角野京子が幹事、中川晴美・主宰が評議員

九月の秀句        清水すみ子

          雨宮きぬよ代表「枻 kai」九月号
しづけさや落とすに惜しき秋灯   朝妻  力
 ここに描かれているのは無音の景である。夜も眠らない街中の暮らしではなかなか感じるのが難しい景だが、夜更けの灯下、頁を繰る音に「しづけさ」を発見した。中七「落とすに惜しき」の調べに、この至福のひと時にもう少し浸っていたい思いをひしひしと感じる。

共鳴の一句・交流誌より  八谷眞智子

          小沢真弓主宰「あふり」九月号
氏神の花の舞ひ込む朝の庭   片上 節子
 「空覆ふ千年桜千の風」の句と合わせて鑑賞した。由緒ある氏神様の桜が今年は我が家の庭先まで飛んできた。思いがけない驚きと喜びを切り取った一句。住まいが氏神様の近くで、毎年花見が出来るとは羨ましい。

句集拝見         西谷 剛周

          西谷 剛周主宰「幻」9月号
句集『笈摺』 浅川加代子
 泣き顔の羅漢一体春浅し 
 あたたかし四点杖の姉の試歩 
 一雨に渦巻く川や合歓の花 
 砂利船の吃水深し淀の秋 
 宝塚へ吉弥結びの花衣 
 軽トラを畦に枝豆直売所 
 春耕の土落とし行くトラクター 
 風光る列車にアトムのラッピング 
 山廃を酌み交はす夜の初鰹 
 羅に透けて真白き長襦袢 
 二台目のタイヤも替へて年用意 
 アンデスの塩で味はふはじき豆 
 先生を的に園児の水鉄砲 
 鬼飲みと称しワインと冷し酒 
 水落すやがて人手に渡る田も 

拝受俳誌・諸家近詠    徳重 三恵

          外山 安龍主宰「半夜」9月号
二三日はぐづつく予報走り梅雨   藤田 壽穂

寄贈図書         工藤 泰子

          佐藤 宗生顧問「遙照」九月号
唐突と言へば唐突梅雨明けぬ   朝妻  力
梅雨明や子がリカちやんと話しゆく 〃
鷺容れぬ高さに青田そよぎけり   〃
天下異常やうやく蟬の鳴き出しぬ  〃
師の句碑の殊に際立つ緑雨あと  中川 晴美
鬼ノ城を遠に吉備路の麦の秋   小澤  巖
針槐の散り敷く丘や明日香風   酒井多加子
梅筵天満宮の日溜りに      杉浦 正夫

 句集紹介
浅川加代子 第一句集『笈摺』
とばしりを浴ぶる木暮の夜半句碑
ぬばたまの闇にも慣れて蛍追ふ
軽口をたたく夜寒の小酒盛り
底抜けの上戸がつまむ柏餅
南天の花の散り継ぐ裏鬼門
あたたかやセルフレジにも返事して
笈摺をかけ如月の棺閉づ
この石も寄進のひとつ春近し

贈呈句集より       浅井 陽子

          浅井 陽子主宰「鳳」68号
 浅川加代子句集『笈摺』本阿弥書店刊
安達太良をそびらに陸奥の大植田 
宝塚へ吉弥結びの花衣 
火の恋し姉思ひつつ酌む夜は 
笈摺をかけ如月の棺閉づ 

俳句「共鳴」       星野  勝

          大垣 奥の細道むすびの地記念館
人知れずぬぐふ汗こそたふとけれ   朝妻  力
鷺容れぬ高さに青田そよぎけり    〃

他誌拝読     永沢 達明主宰「凧」9月号

 「雲の峰」七月号  朝妻 力主宰
生き物の水輪生れつぐ植田かな
沙羅咲くや一と日の命地に散らし
橋板を子らこはごはと菖蒲園
愛嬌をしばしふりまき蜥蜴消ゆ
旧暦の菖蒲の香る湯にひたる

秀作への道 「重複した言葉を外してみよう」

 NHK松山「ギュット!四国」
 投句作品
病院の窓に来たる小鳥来る        平本  文
 句意から判断して「病院の窓に小鳥が来た」状況だとわかる。注目したいのは「窓に来たる」と「小鳥来る」による「来たる」の重複。季語が「小鳥来る」ですから、こちらを残して「窓に来たる」から「来たる」を外してみよう。
添削例 病院の窓に忙しき小鳥来る

受贈句集御礼

          足立 賢治主宰「天衣」8月号
『笈摺』浅川加代子(「雲の峰」同人・俳人協会会員)
                    本阿弥書店
宝塚へ吉弥結びの花衣 
山廃を酌み交はす夜の初鰹 
笈摺をかけ如月の棺閉づ 

令和俳壇     角川書店「俳句」9月号

 小林 貴子 佳作
筍の先端食ぶる野生猿       深川 隆正
音名はハニホヘトイロ囀れり    中尾 謙三
 森田純一郎 佳作
やきにくのにほふ遅日のホームかな 中尾 謙三
桑の実の熟るる藤原宮趾かな    角野 京子

第百十回法隆寺子規忌俳句大会

 事前投句の部
 朝妻  力入選
水浴びて鴉の遊ぶ獺祭忌      角野 京子
 久保 純夫入選
糸瓜忌や白線みたび引き直す    浅川加代子
 倉橋みどり入選
あるだけの庖丁を研ぐ梅雨最中   松本すみえ
 西谷 剛周入選
あるだけの庖丁を研ぐ梅雨最中   松本すみえ
鐘を聞く横顔永久に柿の秋     西田  洋

 当日句の部
 朝妻  力入選
日差しまだ濃き境内や獺祭忌    岡田  潤
今年また茶店に憩ふ子規忌かな   角野 京子
 久保 純夫次点 
いかるがの空未完なる新松子    小林伊久子
 倉橋みどり入選
いかるがの空未完なる新松子    小林伊久子
今年また茶店に憩ふ子規忌かな   角野 京子
 谷口 智行入選
日差しまだ濃き境内や獺祭忌    岡田  潤
鳳仙花じやんけんぽんとはじけけり 高橋 佳子
 西谷 剛周入選
夢殿と時を旅する獺祭忌      岡田  
 坪内 稔典入選
獺祭忌飛鳥美人に出会ひけり    高橋 佳子

令和7年度芭蕉翁献詠俳句

 長谷川 櫂入選
鯉ねらふ鴉の後に青鷺来      高橋 佳子

第五十四回 吟道大会 新大阪岳風会

               令和七年九月十五日
 企画吟「俳句と吟詠の交歓」
〜俳句結社「雲の峰」会員作品を作者と共に吟じる〜
               尺八伴奏 吉田 鐘山
 吟詠 阿辻 貴風
屋久島の有線を聞く甘藷畑   志々見久美
 吟詠 石田 真岳
風神の留守を預かる大蘇鉄   角野 京子
 吟詠 西林 鳴岳
丹頂の声の透きくる雪裡川   酒井多加子
 吟詠 井上 岳川
朝風の桜吹雪に暫し立つ     藤田 壽穂
 吟詠 牟田 白岳
浮彫の十二のポーズ秋うらら  髙木 哲也
 吟詠 辰巳 晃岳
城割りの跡に咲きゐる曼珠沙華 播广 義春

●月刊「俳句界」  俳句上達の結社選びより

 9月号
元号三つしかと生き抜き敬老日   伊藤たいら
金春流の里や稲穂の波の美し    瀧下しげり
うす闇を飛びかかりくるかまどうま 浅川 悦子
秋団扇大きく使ひ照れ隠す     神田しげこ
秋深し小さくひびく鈴一打     金子 良子
四人目の曽孫誕生待つ夜長     井上 妙子
新米の湯気沸き上がる茶碗かな   松島 知次
 10月号
二単位の俳句講座や秋暑し     播广 義春
秋麗メタセコイアの並木道     岡山 裕美
子等去んで雲の散りゐる十三夜   大塚 章子
久々のたたらの里の刈田道     藤原 俊朗
裾からげ野萩の藪に分け入りぬ   遠藤  玲
鰯雲の下凜然と平城宮       長尾眞知子
父に歩を合はせ子規忌の法隆寺   岡田  潤

アンジュ俳句会 社会福祉法人庄清会

 9月            指導 角野 京子
墓仕舞したとの電話蟬しぐれ  江草 孝子
珈琲のドリップ香る今朝の秋  芝池フランク
新涼や我が手作りのヨーグルト 高見 智子
蟋蟀のすだきに目覚め寝汗拭く 中谷 重美
秋暑し俳句並べる夢の中    西岡久仁子
水打ちて故郷の僧迎へけり   松本津裕子
白板に今日の兼題涼新た    角野 京子