談話室 ≪総合誌・俳誌から≫

 

新年詠 作品十句   角川「俳句」新年号

 狐 福        朝妻  力(雲の峰・春耕)
指折りて余命読む友秋深し
逆夢であれと秋暁覚めにけり
冬日背にただばうぜんと手を合はす
暮れどきの雲むらさきや十二月
遅参詫び冬の冥土に着かれしか
極月の酒肆や誰かに逢へさうな
鱈汁を啜り銀漢亭偲ぶ
熱燗や伊那男井月思ひつつ
綿虫の残せし綿が吹かれをり
狐福伏せて年夜の座に着きぬ

喋らなければ……
 十一月五日、伊那男さんが余命を指折り数えている夢。事前投句の締切りだったので〈指折りて余命読む友秋深し〉と投句した。十二日の句会で「友人は誰?」と聞かれたが答えなかった。だが句会後の小酌の際、つい伊那男さんと喋ってしまった。十五日に禪次さんから昨日伊那男さん逝去と報。喋ってはいけなかったのだ。

四季の森         土肥あき子

          静岡新聞 一月二十四日(土)
火の帯が火をつつみゆくお山焼   朝妻  力
解説 奈良の冬の風物詩となっている若草山の山焼き行事。起源には諸説あるが、若草山の山頂にある古墳の霊魂を年に一度鎮めるための祭礼であったといわれる。山焼きで枯れ草を焼くことにより新芽をうながし、春になれば、その名の通りなだらかな山全体が青々とした芝に覆われる。火とは、けがれを払い、新たな始まりをもたらす神聖な力。まだ遠くにいる春に声を掛け、支度をせかすように、火の帯が走っていく。

季語 山焼く、山焼(春):早春の晴れて風のない日、野山の枯草を焼き払うこと。飼草や山菜類の発育を促し、害虫を駆除するためである。

感想 この欄、今シーズン初めて春の季語が登場しました。季節は移っていきます。山焼きの映像を見ると、赤い炎が帯となって山頂に向かって進んで行きます。その様子は少し怖くもあり爽快な感じもします。山全体が神聖な火に覆われる様子を「火の帯が火をつつむ」と表現していて、その壮大さが目に浮かびます。

他誌逍遥         梅原 妙子

          雨宮きぬよ代表「枻」2月号
「雲の峰」令和七年十月号(通巻四一二号)主宰=朝妻力
 平成元年、朝妻が富士ゼロックスの同好会誌「俳句通信」として創刊。師系・皆川盤水。
 平成十三年「雲の峰」と改題し結社化。季語を生かし日本語を正しく使うことを旨とし、「学習する結社」を標榜。月刊。(角川「俳句年鑑」より)
「先師の一句」自註現代俳句シリーズ『皆川盤水集』より
 父の忌の木槿を濡らす狐雨  皆川 盤水
主宰作品「異界の色」より
 秋夕焼異界の色を醸しつつ    朝妻  力
 銀河濃し何か跳ねたる水の音
「主宰の一句鑑賞1」前々月号より
 夕風や風より聡き青芒      朝妻  力
 青芒は秋の穂芒の景とは違い若々しく、どこか青雲の志を感じさせ、屹然として風を呼び込む風情が感じられる、と伊津野均は鑑賞する。
「主宰の一句鑑賞2」句集『伊吹嶺』より
 色鳥の入りこぼれつぐ一樹かな  朝妻  力
 中七の三つもの動詞がとても小気味好いリズムを醸しており、色鳥の鮮やかさと樹の緑を感じさせられる、と光本弥観は鑑賞する。
「常葉集」(力選)より
 健気にも今朝一輪の牽牛花    藤田 壽穂
 天高し褻にも晴にも伏見酒    浅川加代子
「照葉集」より
 初月夜和服姿の嫁と孫      岡山 裕実
 国境に霧笛の響く晩夏かな    角野 京子
「青葉集」より
 仁青の色絵香合秋涼し      松浦 陽子
 狩場決め網張りそむる女郎蜘蛛  越智 勝利
「若葉集」より
 深閑と西日まみれの廃校舎    壷井  貞
 穏やかに枕経聞く未草      倉本 明佳
常葉集・照葉集・青葉集・若葉集選後所感
 主宰による各集の選及び選後所感の評は作者一人ひとりの心に寄り添い、優しさに溢れた丁寧な鑑賞をされている。同様に、会員による前月号、前々月号の鑑賞文も作者への細やかな思いやりを感じると共に、結社のあたたかさが伝わってきた。
課題俳句「立秋」岡田万壽美選・特選
コックスの声が川面に今朝の秋   櫻井眞砂子
まだまだ暑い盛りですが立秋の川風に少し涼をもらい、青年たちに元気を貰った気がしたのではないでしょうかの評が優しい。
 他に他誌拝読・諸家近詠・句集・著作紹介・俳誌紹介・受贈誌管見。主宰による「俳句の肝どころ」には読み応えを感じた。

諸家風韻         田口  耕

          檜林 弘一主宰「白魚火」2月号
小気味好き音を散らせる松手入
どの家も捥がざるままに柿たわわ
            朝妻  力(雲の峰 十一月号)
 一句目。要は「散らせる」である。余分の枝を切り捨てる情景を「音を散らす」と表現しておられる。切った枝を散らしているようで、すっと落ち着く。「音を鳴らして」から一歩も二歩も踏み込まれた写生句である。
 二句目。全くその通りとうなずく。たわわに実った柿の木が里の角々に見られる。晩秋の風情が漂う里の秋である。違う見方をすると、地域の人口動態が、この句から浮かび上がってくる。うちの町でも家々の柿が収穫されることなくたわわにある。また、先日、松江から山間地の方へ訪れた。そのときにもあちこちに美しい柿の木を見ることができた。見る分には、情緒があり嬉しいのである。しかし、その裏には収穫もしない、できない高齢世帯の実情があるように思う。ものさびしい豊かな秋を見るのである。

結社誌を訪ねて      安田 青葉

          今瀬 剛一主宰「対岸」2月号
指折りて余命読む友秋深し   朝妻  力
                「雲の峰」十二月号
 「指折りて」とあると思わず五七五の字数を数えるところを連想する。ところが、この作品には朝妻氏の(十一月五日夢にて) の添書があり、夢の中で余命を数える友に驚きと心配を隠せない作品となっている。「秋深し」が重く響いてくる。この作品に続いて、〈逆夢であれと秋暁覚めにけり〉と、生き延びて欲しいと願う作品がある。そして続けて〈冬日背にただばうぜんと手を合はす〉の作品が(十四日伊那男さん逝去)の添書と共にある。掲出句の「余命読む友」は、十一月十四日に逝去された伊藤伊那男氏のことであった。惜しんでも惜しみ切れない作者の思いの伝わってくる、胸を打たれる作品である。

俳句鑑賞「お酒の句」   橋本 石火

          橋本 石火主宰「ハンザキ」2月号
酒うまし胡桃つまみに一人の夜   朝妻  力
          「雲の峰」(令和七年十二月号)より
 酒の肴にも人によって好みがある。昔、うどんで一杯という人がいたが、肴は刺身が主流だろう。この句、胡桃をつまみにして酒を飲んでいるという。肴ではなく「つまみ」なのである。軽く一杯というところか。また、日本酒ではなく、洋酒なのかもしれない。かしこまって飲む酒ではなく、応接間かどこかで飲む酒。一人になった時間、ちょいと気軽に酒を飲むリラックスした作者が見える。
 作者は皆川盤水に師事。「雲の峰」主宰。「春耕」顧問。俳人協会評議員。

俳書紹介         三野宮照枝

          吉田千嘉子主宰「たかんな」2月号
浅川加代子句集『笈摺』
 宝塚の大ファンであり、かなりの酒豪とか。「世界で最も短い詩」と言われる俳句の魅力と奥深さに惹かれているという。俳諧味もあり、さらりとした読後感である。
 鷽替へて早あたらしき嘘ひとつ
 良妻となりきつて注ぐビールかな
 美人湯の効能少し天高し
 笈摺をかけ如月の棺閉づ
 昭和二八年生れ。平成二五年「雲の峰」入会、同人。令和四年雲の峰賞受賞。俳人協会会員他。
           〔本阿弥書店刊・三、○八〇円〕

句集の扉         天野れい子

          加古 宗也主宰「若竹」2月号
句集『笈摺』  浅川加代子
「雲の峰」同人の第一句集。平成二五年から令和六年までの三五○句を収録。
 序文、帯文・朝妻力氏。
 笈摺をかけ如月の棺閉づ
「『一人息子に先立たれ優しい夫も亡くした姉』が亡き子、亡き夫に会う旅に出る。そこで背が摺れないように笈摺を掛けて送った」「句集名は姉恋の思いの極まった〈笈摺〉にした」と序文に。
 颯爽とタカラジェンヌや春の風
 ぬばたまの闇にも慣れて蛍追ふ
 訪ふ姉に癒ゆる兆しや花柊
 火の恋し姉思ひつつ酌む夜は
 ゆくりなく送る逮夜の灯の朧
 あたたかやセルフレジにも返事して
 芝浜を聞きつつ春の夢の中
「多様な句材を詩の世界へ昇華させた」との師の言葉、「姉の墓前に句集を」との著者の言葉に、心打たれる句集である。一九五三年 大阪府生れ
     (二○二五年七月 本阿弥書店 二八〇〇円)

寄贈図書         工藤 泰子

          佐藤 宗生顧問「遙照」二月号
信楽の狸の首に黄のマフラー  朝妻  力
表裏ほぼ同じ数なる散紅葉    〃
造反のごとく落葉に朱が二三   〃
しのびては酌みて偲べる年忘   〃
怨讐の国境を越え初鴨来    高野 清風
句読点なき人生や柿紅葉    長岡 静子
影向の松葉に宿る初時雨    中川 晴美
鑑真が請来の舎利居開帳    吉村 征子
冬日濃し赤き瓦に白壁に    浅川加代子

俳句「共鳴」       星野  勝

          大垣 奥の細道むすびの地記念館
信楽の狸の首に黄のマフラー   朝妻  力

一誌一句         岩佐  久

          松村 五月主宰「響焔」2月号
指折りて余命読む友秋深し    朝妻  力

拝受俳誌・諸家近詠    徳重 三恵

          外山 安龍主宰「半夜」1月号
夜上がりの庭にふくらむ虫時雨   中川 晴美

令和俳壇     角川書店「俳句」2月号

 鳥居真里子選 佳作
秋色をがたんとゆらし電車発つ   小林伊久子
 森田純一郎選 佳作
石鎚の仕込み水なり新走      深川 隆正
葛の雨信太の森のほの暗し     小林伊久子

セクト・ポクリット コンゲツノハイク

          堀切克洋氏ホームページ 1月
天高し加齢といへる良き言葉    浅川加代子
秋澄むや呉春の描く拾得図     香椎みつゑ
月高し一湖一舟隈もなく      田中 幸子
妻と手を取り合ふ土手に蛍草    うすい明笛
行く秋や時のあはひをつなぐ雨   新倉 眞理
補聴器をはづせばもとの小春かな  浜野 明美
正倉院曝涼に見る瑠璃の坏     本田  伝

●月刊「俳句界」  俳句上達の結社選びより

 3月号
春の野や落ち合ふと云ふときめきに 宇利 和代
料峭や五体投地の音響き      中谷恵美子
一輪に次ぎて群れ咲くクロッカス  乾  厚子
春の風邪一と日神学復習ひけり   進藤  正
依羅池跡のグランド春疾風     徳山八重子
雛の日や男の子の客の靴三つ    扇谷 竹美
出港のドラ鳴る波止場鳥雲に    榎原 洋子
 4月号
木簡に渤海てふ名春深し      井村 啓子
欄干に第九の楽譜うららけし    中村ちづる
亀鳴くや森ふところの静もりに   上和田玲子
紙袋で遊ぶ子猫や見て飽かず    中尾 光子
春霖や読書家多き喫茶店      大野 照幸
春寒や自治会の長引き当てて    三原 満江
梅が香や瀬音ゆかしき高瀬川    井上 信明