第398回 披講 特選・入選・推薦作品
輪番特別選者 中尾 謙三
長岡 静子
誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。
中尾 謙三特選
花火果つ静寂と闇と残像と 片上 信子
夏の夜空を彩る打上げ花火。掲句は、その花火が終わった後の景を、流れるような映像のように鮮明に浮かび上がらせてくれます。花火を打ち終えた後には、静寂が戻り、暗闇が広がり、眼裏に焼き付いた光や音が蘇り、感動と余韻に浸っているのでしょう。寂しさも入り混じりながら。
まん丸を三角に切る西瓜かな 青木 豊江
西瓜は中心部分が一番甘いそうです。西瓜を三角に切り分けることで、どの西瓜を食べても、甘さがほぼ均等になるため、思いやりカットと言われています。掲句は、上五のまん丸が、思いやりカットの平等感を引き立て、子供らの和気藹藹とした雰囲気が伝わってきます。
長岡 静子特選
英霊は行年二十草茂る 小澤 巌
戦死された方は〈行年二十〉と成年されたばかりで痛ましい。戦争がなければ百歳を迎えられたかもしれない。墓碑の周辺の草を引きながら亡き人に思いを馳せる作者。命の尊さを考えさせられる一句。戦争のことを忘れてはならない。
日盛を子ら打つ走る滑り込む 田中まさ惠
暑い日の子どもたちの行動だけを詠んで野球の試合であることが分かる。今年の甲子園は熱中症を避けるため時間をずらしたとのこと。観客の目線で暑さをも忘れ、喚声の上がる球場の雰囲気が伝わり、応援歌のようです。
中尾 謙三入選
磯舟の底に残れる昆布片 角野 京子
青梅雨や岩間を白き水一縷 吉沢ふう子
仏前の吾が背に母の団扇風 溝田 又男
滴りや四角き顔の摩崖仏 木村てる代
夏の夜や七つの星を目で繋ぐ 深川 隆正
腰のなき風となりたる古団扇 三代川次郎
夕涼やあをく鎮まる茅渟海 うすい明笛
土間に入りたたむ日傘の日のぬくみ 穂積 鈴女
潮風も潮騒も入れ夏座敷 原 茂美
醤油屋の匂染み入る渋団扇 木原 圭子
長岡 静子入選
噴水にもうこれまでといふ高さ 宇野 晴美
烏瓜闇にもつれて咲きにけり 田中 幸子
夏燕軒に住まはせ小商ひ 吉村 征子
打水や引戸の響く裏小路 福原 正司
閉鎖する坑口覆ふ葛盛り 髙橋美智子
犬抱きて茅の輪を潜る翁かな 佐々木慶子
夏の夜や七つの星を目で繋ぐ 深川 隆正
腰のなき風となりたる古団扇 三代川次郎
雲海の次第に晴れて阿蘇五岳 原田千寿子
幸せは家族のそろふ夏休み 髙橋 保博
朝妻 力推薦
秋高し駅に自転車組立て所 浅川加代子
緑蔭に入りて人みな穏やかに 武田 風雲
木の晩に凜としづもる孔子廟 中川 晴美
夏の夜や七つの星を目で繋ぐ 深川 隆正
噴水にもうこれまでといふ高さ 宇野 晴美
滴りが濡らす草より風生まる 春名あけみ
夕焼けて薄墨色に町暮るる 松本すみえ
郵便物配れり指も日焼して 井村 啓子
歳時記を伏せてひねたる梅酒割る 谷野由紀子
仏前の吾が背に母の団扇風 溝田 又男
灼けゐたる擬宝珠に残る刀傷 小林伊久子
屋久杉を万年育て滴れり 冨安トシ子
履歴書く夢に目覚むる熱帯夜 児島 昌子
西日より二点鐘打ち消防車 大澤 朝子
父の日や吾を親父と呼ぶ子ゐて 三澤 福泉
現役の丸きポストや炎天下 板倉 年江
川合ひの逆巻く渦や梅雨あがる 鎌田 利弘
姉往きて見送る帰路に夜半の月 長浜 保夫
曲技飛行に万博の夏湧き立ちぬ 寿栄松富美
何時となく別れて久し竹婦人 佐々木一夫