誌上句会

 

第392回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  志々見久美
島津 康弘

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。

志々見久美特選

流麗なる水墨のごと鳥渡る      大塚 章子

 誰に見せるわけでもなく編隊を組んで空を飛ぶ鳥。微妙な曲線を描きながら翻る様子はまことに美しい。荒々しい風の抵抗を群れで受け止めている。個々が最小限に風の抵抗を受けるための本能的な動きが、そうさせている。中七によって創造を豊かに膨らませました。

松活けて床改まる冬座敷       松本すみえ

 その時の活花を眺めて、他人には格別と見えない出来映えでも、その折の感慨の全てを言い尽くしていることを痛感することがあるものです。松の存在が〈床改まる〉で言い尽くされています。きりりとした冬座敷に、松の香りが漂っているのです。


島津 康弘特選

椀の蓋とればほのぼの春隣      宇利 和代

椀の蓋を取ったときに中の具がよく見えるのはやはり「おすまし」です。春の具材としては、蛤や浅蜊、青物なら菜の花や三つ葉などがあります。季節はまだ冬なのでしょうが、〈ほのぼの〉という言葉からも春を感じ取っている作者の感動が伝わってきます。

日の色も昨日と違ふ初景色      小澤  巖

 不思議なもので、年が変わったと言うだけで、元旦はすべての物が違って見えます。特に陽の光は特別で、照らし出すものすべてを清々しく見せてくれます。色々と納得のいかない世の中になってきましたが、作者と共に夢に向かって進みたいものです。


 志々見久美入選

結界の丹の橋ちさし春の雪      香椎みつゑ
白嶺を背に近江の麦青む       櫻井眞砂子
いくばくか声の昂る初句会      福原 正司
初弓の晴れ着に掛くる白襷      吉井 陽子
静かなる雨の一日も松の内      上和田玲子
ゆつくりと足伸ばし入る初湯かな   宮田かず子
春立つや肺の隅まで大気吸ふ     宮永 順子
蹲踞の水を揺らせる落椿       田中よりこ
地下足袋は肌の感覚麦を踏む     越智 勝利
眠られぬ寒夜のラジオ深夜便     斎藤 摂子

 島津 康弘入選

人声とほどよき起伏梅探る      穂積 鈴女
晴れやかに伊吹嶺雪をかがやかす   志々見久美
薔薇芽吹くひそかに棘を育てつつ   伊藤たいら
絵手紙に夢の一文字春立てり     五味 和代
黄昏のバス停に吾と裸木と      渡邊 房子
初弓の晴れ着に掛くる白襷      吉井 陽子
寒ゆやけ京の七口もとほれば     小林伊久子
地下足袋は肌の感覚麦を踏む     越智 勝利
獅子舞にかまれ泣く子も笑ふ子も   杉浦 正夫
松活けて床改まる冬座敷       松本すみえ


朝妻 力推薦

椀の蓋とればほのぼの春隣      宇利 和代
薔薇芽吹くひそかに棘を育てつつ   伊藤たいら
松活けて床改まる冬座敷       松本すみえ
日の色も昨日と違ふ初景色      小澤  巖
園児の描くへびは笑顔や冬うらら   井村 啓子
山焼きしその夜の星のかがやけり   中田美智子
金鵄の碑立つ小阜を初鴉       北田 啓子
日脚伸ぶこれより斎庭てふ札に    上西美枝子
蹲踞の水を揺らせる落椿       田中よりこ
晴れやかに伊吹嶺雪をかがやかす   志々見久美
黄昏のバス停に吾と裸木と      渡邊 房子
晩節を約しく暮らす去年今年     西山 厚生
旧正や福のランタン赤赤と      福長 まり
地下足袋は肌の感覚麦を踏む     越智 勝利
人声とほどよき起伏梅探る      穂積 鈴女
とつおいつ俳句三昧春を待つ     田中 愛子
絵手紙に夢の一文字春立てり     五味 和代
奥多摩に残る古民家鳥総松      中村 克久
結界の丹の橋ちさし春の雪      香椎みつゑ
薄氷のすきとほる日やミント植う   岡田 寛子