誌上句会

 

第390回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  木村てる代
小林伊久子

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。

木村てる代特選

子ほめてふ落語聴き居る冬座敷    山内 英子

 どのような話なのか一度聞きたいです。子育てをしていた時は無我夢中で過ごしていましたが、今になってああすれば良かったとか後悔すること頻りです。この落語を知っておればもう少し上手にほめて育てることができたかもしれません。

冬来る老いもいよいよ難儀やな    斎藤 摂子

 老いも後半に入ると今まで出来ていたことが、一つずつ上手くこなせなくなり、又それもままならず、人に頼らなくてはなりません。苛立つがそれでも〈難儀やな〉と思いながらも頑張っている作者に共感を覚えました。

小林伊久子特選

初氷煌めき合へる千枚田       杉浦 正夫

奥能登の水田開発の歴史的遺産といえる白米千枚田が思われます。千枚田に月や日が映る光景を詠んだ句はありますが、掲句は〈初氷〉が煌めいていると詠みました。彼の地は今、厳しい冬の最中なのだと改めて祈りにも似た思いに至ります。

寒晴の水さらさらと河童淵      糟谷 倫子

 『遠野物語』の河童淵でしょう。釣竿が置かれ、胡瓜を餌にして「頭の皿を傷つけず、皿の中の水をこぼさないで捕まえること」などの「捕獲七カ条」があるそうです。淀である〈淵〉と流れの〈さらさら〉の言葉の矛盾に、妖怪と人間の区別が曖昧だった頃の郷愁が漂います。


 木村てる代入選

牡丹鍋陛下の写真ある座敷      光本 弥観
耳塚に鴉鳴きゐる寒さかな      五味 和代
地球儀の埃を拭ふ文化の日      吉井 陽子
荒々と瀬頭とがる冬の川       小林伊久子
親鸞忌雲のゆたけき京街道      田中 愛子
寒晴の水さらさらと河童淵      糟谷 倫子
垂直に走る断層石蕗の花       福原 正司
書きかけの文に文鎮律の風      川口 恭子
館寒し回天見詰めゐればなほ     井村 啓子
異国語の歓声混じる紅葉狩      櫻井眞砂子


小林伊久子入選

牡丹鍋陛下の写真ある座敷      光本 弥観
耳塚に鴉鳴きゐる寒さかな      五味 和代
白菜を桶にしきつめ石一つ      冨士原康子
地球儀の埃を拭ふ文化の日      吉井 陽子
井然と近江平野や冬日和       浅川 悦子
ぼやきつつ話の尽きぬおでん酒    土屋 順子
親鸞忌雲のゆたけき京街道      田中 愛子
子ほめてふ落語聴き居る冬座敷    山内 英子
冬めくや畝傍に低き雲流る      今村美智子
静けさに紅葉且つ散る寂光院     福長 まり


朝妻 力推薦

横たへし杖も憩へる小春かな     船木小夜美
大原女の現れさうな冬桜       岡山 裕美
地球儀の埃を拭ふ文化の日      吉井 陽子
雲に友の面影浮かぶ阪神忌      奥本 七朗
館寒し回天見詰めゐればなほ     井村 啓子
静けさに紅葉且つ散る寂光院     福長 まり
明日来るよく笑ふ子の蒲団干す    上西美枝子
濃淡をまとひて山の眠りけり     浜野 明美
石積みの明治の埠頭海しぐれ     原田千寿子
石垣に猫の居座る四温かな     コダマヒデキ
羽衣のシテの摺り足冬めきぬ     田中 幸子
布団出せばパリの貧しきキュリーふと 小見 千穂
ぼやきつつ話の尽きぬおでん酒    土屋 順子
一人来て墓石に語る小春かな     中尾 礼子
異国語の歓声混じる紅葉狩      櫻井眞砂子
病む妻と手を取り合ひて日向ぼこ   うすい明笛
耳塚に鴉鳴きゐる寒さかな      五味 和代
とりどりの落葉掃きゐる夕ごころ   谷野由紀子
牡丹鍋陛下の写真ある座敷      光本 弥観
欲絶てば心にゆとり吾亦紅      深川 隆正