第400回 披講 特選・入選・推薦作品
輪番特別選者 中村ちづる
西岡みきを
誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。
中村ちづる特選
新酒酌む和らぎ水も注ぎ足して 上西美枝子
お酒の深酔いを防ぐために、横のグラスの水を飲む。洋酒ですとチェイサーですね。お酒に弱い私も合間に水を飲み、ひと呼吸を置いたりします。そうすることで、次の一杯や料理をより美味しく味わうことができます。素敵な日本語と情景に惹かれて、いただきました。
杼の走る音の軽さや藍の花 櫻井眞砂子
〈杼〉は、機織用具の一つ。機織の音は「トントン、カラリ」と表現され、「トントン」とは筬で叩く音、「カラリ」とは杼を通す音。その音を〈走る〉と表現され、またその音を軽く感じられた作者の発見。軽快なリズムが聞こえて来るようで、季語の〈藍の花〉にも風情を感じました。
西岡みきを特選
黄菅花けふを限りと咲き競ふ 中野 尚志
黄菅はユリ科の多年草で、高さ一メートルぐらいの茎に百合に似た花を咲かす。夕方開花し、翌日午前中には萎む。〈けふを限り〉と咲いている黄菅を見て、一瞬の美しさとその儚さに心を奪われる。さらに、花が咲き競うようだとみとれている作者。
順縁を願ふ白寿の敬老日 田中まさ惠
白寿は九十九歳を迎えたことを祝う長寿のお祝で、百から一をひくと、白という字になることに由来するらしい。高齢者を敬う敬老の日に、白寿の人は願う。順縁、つまり老いた者から年齢順に死にたい、逆縁は好まないと……。
中村ちづる入選
脱ぐ笠に潮の香ほのと秋遍路 伊藤たいら
みちのくの素木の塔や秋高し 小林伊久子
爽やかや眉の凜々しき修行僧 原 茂美
びりの児にわれの重なる運動会 青木 豊江
角打ちの戸口に近き残暑かな 今村 雅史
少年に給はる俳句敬老日 岡山 裕美
秋蝶を前に後ろに磴二百 冨安トシ子
設へも終へて二人の月見かな 三原 満江
順縁を願ふ白寿の敬老日 田中まさ惠
魚捌く白露の水を惜しみなく 髙松美智子
西岡みきを入選
生き死には神仏まかせ虫の闇 島津 康弘
子の無きを案じし母の墓洗ふ 片上 信子
ちちろ鳴く物置に妣の文机 うすい明笛
戻られぬ道をひたすら秋の風 斎藤 摂子
年々に寂しさ募る秋の暮 横田 恵
秋の夜や八十路なりしも母恋し 中尾 礼子
爽やかや眉の凜々しき修行僧 原 茂美
びりの児にわれの重なる運動会 青木 豊江
頼られし日は遠くなり秋夕焼 米田 幸子
設へも終へて二人の月見かな 三原 満江
朝妻 力推薦
稲刈られ風の見えなくなりにけり 宇利 和代
颯爽と力車駆けゆく竹の春 中川 晴美
街角にジャズを聞きゐる良夜かな 松井 春雄
杼の走る音の軽さや藍の花 櫻井眞砂子
碑に刻む浦上崩れ秋深し 井村 啓子
ちちろ鳴く物置に妣の文机 うすい明笛
幼子の目に送り火の灯の揺らぎ 山本 創一
六道の辻に迷へる秋の蝶 浅川加代子
虫の音にしばし佇む草の原 福長 まり
秋深しビルの谷間に朱の鳥居 田中よりこ
新酒酌む和らぎ水も注ぎ足して 上西美枝子
桃吹いて風の生まるる弓ヶ浜 小澤 巖
木造の島の教会花蜜柑 深川 隆正
ぼうたんの根分日和や叺敷く 角野 京子
淡海に浮かぶ鳥居や天高し 関口 ふじ
流木にかけて眺むる秋の海 三代川次郎
子の無きを案じし母の墓洗ふ 片上 信子
秋気澄む夜明けの空に星ひとつ 山内 英子
エメラルド婚祝ふ夕べや野紺菊 三澤 福泉
設へも終へて二人の月見かな 三原 満江