誌上句会

 

第386回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  大塚 章子
岡田万壽美

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。


 

 

大塚 章子特選

おんでこの島の鬼百合まつさかり   吉沢ふう子

 新潟県佐渡島の金山が今年ユネスコ世界遺産に登録されました。〈おんでこ〉とは島の鬼太鼓のこと。厄払い、五穀豊穣、大漁を祈願し大人も子どもも太鼓を打って伝統芸能が継承されていきます。そして今オレンジの鬼百合がまっさかり。作者の心の高ぶりが思われます。

たまに飛ぶレコード針や秋うらら   上西美枝子

 音楽機器は、レコード、カセット、CDと進化してきましたが、今レコードのノイズを懐かしむ人たちがいます。作者もワインなど飲みながら音楽を楽しんでいます。どんな音楽でしょう?心地よい秋の夜が更けてゆきます。〈たまに飛ぶ〉が〈秋うらら〉の季語と響きあっています。



岡田万壽美特選

偶数は優しき数字さくらんぼ     川口 恭子

日本には七五三の祝や祝儀の金額など、奇数を吉と考える文化があります。けれど、作者は偶数を優しい数字だと詠みました。二で割り切れるからでしょうか。季語の〈さくらんぼ〉が効果的で、作者の視点を後押ししたと思います。私も偶数派です♪

花合歓やここは四国のど真ん中    片上 節子

 どかんとした大胆でユニークな句です。こう詠まれると気になって、少し調べましたら、四国中央市というところがあるのですね。作者は地元の方?それとも旅人かな?季語の〈花合歓〉が、強い中七下五を優しく一句に纏めたと思いました。私も行ってみたいな♪


大塚 章子入選

蟬時雨降る山寺に座禅組む      榎原 洋子
滴りや苔むす暗き間歩の跡      田中よりこ
鯉浮きて頻にあぎとふ大暑かな    松井 春雄
一閃を放ちさ走る瑠璃蜥蜴      香椎みつゑ
くつきりとピアスのあとや夏終る   青木 豊江
黒南風や十二神将湖睨む      コダマヒデキ
老鶯や山気満ちゐる三諸山      中谷恵美子
雲海に影富士浮かぶ日の出かな    板倉 年江
夕影にヨット煌めく鳰の海      杉浦 正夫
烏帽子岩染めて室戸の大夕焼     横田  恵


岡田万壽美入選

流星や五人育てし父のこと      春名あけみ
バルセロナのすこぶる大き夏至の月  新倉 眞理
少年の点てたる薄茶風薫る      松本 葉子
炎天や音のかそけくもの乾く     宇利 和代
一閃を放ちさ走る瑠璃蜥蜴      香椎みつゑ
夏蝶のもつれて沈む葉陰かな     浜野 明美
向日葵を駅地下に買ふ日曜日     山内 英子
つい長く夏の本屋に雨やどり     松本 英乃
切り岸のどこからとなく滴れり    小林伊久子
おんでこの島の鬼百合まつさかり   吉沢ふう子




朝妻 力推薦

露涼し角笛ひびく牧の朝       冨安トシ子
雲海に影富士浮かぶ日の出かな    板倉 年江
烏帽子岩染めて室戸の大夕焼     横田  恵
恙無く過ぎ行く日々や白芙蓉     佐々木慶子
連れだちて登校の子や青田風     原田千寿子
蹲踞に朱夏のもれ日の綺羅いくつ   小澤  巖
バルセロナのすこぶる大き夏至の月  新倉 眞理
天神祭道真公の太刀捧ぐ       井村 啓子
手の甲にふと置いてみる灸花     谷野由紀子
大人びたる鉛筆書きの夏見舞     金子 良子
少年の点てたる薄茶風薫る      松本 葉子
おんでこの島の鬼百合まつさかり   吉沢ふう子
客待ちの駱駝素風に立ちにけり    今村 雅史
夫用に晴雨兼用日傘選る       渡邊 房子
切り岸のどこからとなく滴れり    小林伊久子
くつきりとピアスのあとや夏終る   青木 豊江
たまに飛ぶレコード針や秋うらら   上西美枝子
邂逅のこゑ若返る鱧の夜       伊津野 均
八月や弾痕残る文学館        小薮 艶子
水馬の交尾みて水に逆らはず     木村てる代