原 茂美選
草雲雀鳴く神鈴に応ふかに コダマヒデキ
夕涼み父母兄と猫もゐて 瀬崎こまち
みづからを励ます暮し夏燕 瀧本 和子
掛軸の山水を替へ秋に入る 中尾 光子
八月や記憶新たに十五日 松山美眞子
オーデコロン散らしあつ湯に身を沈む 長尾眞知子
格調の高き判決秋はじめ 中村 和風
砂浜に読経の揃ふ夕月夜 野添 優子
緑蔭の糺の森で古書選ぶ 林 雅彦
蟬時雨に負けずに泣けと囃しけり 平井 高子
掛軸は紫式部秋の宵 井上 浩世
酒旨し妻の料れる秋なすび 扇谷 竹美
棒すべて占領したり赤蜻蛉 大澤 朝子
生兵法なれど実れる隼人瓜 奥本 七朗
星増ゆるなかきはやかに秋北斗 越智加奈子
遠き縁ある乱歩の書秋涼し 加納 聡子
日時計にあしらはれゐる日輪草 河井 浩志
松風の涼しき兼六園の朝 倉本 明佳
朝顔の色水採りて子らはしやぐ 小谷 愛
島津 康弘選
慰むる言葉失ふ花火の夜 関口 ふじ
介護せる子どもも白髪敬老日 中尾 光子
穴太衆の万の石積み苔の花 新倉 眞理
休業の貼り紙褪せて百日紅 穂積 鈴女
練切の器となりぬ蓮青葉 遠藤 玲
原爆忌かの川粛と流れをり 高橋 佳子
亡き人とタンゴを踊る夏の夢 中尾 礼子
灯のともり初めて始まる盆踊 野添 優子
宣伝カー行く路地裏の溽暑かな 福原 正司
張り替へし網戸を抜くる風やさし 松谷 忠則
はや三年七夕竹を呉れし友 伊丹 弘子
とんばうに先を越さるる朝歩き 井上 妙子
長考となりたる碁盤秋扇 扇谷 竹美
棒すべて占領したり赤蜻蛉 大澤 朝子
友からの梨と礼とがつなぐ縁 大前 繁雄
秒針を聞くかに動かざる金魚 岡田 寛子
梅雨明やキャンバスに書く白き雲 河井 浩志
夏シャツの少年白き歯で笑ふ 倉本 明佳
球審の天突くこぶし夏終る 佐々木一夫