青葉・若葉抄 前月号より      原茂美・島津康弘

 

 原  茂美選

幾度と出でて拝せる寒満月     平橋 道子
手の脂抜けて注連縄完成す     松本 葉子
楮蒸す煙に紛れ龍馬道       越智 勝利
義父の書の掛軸出すも年用意    金子 良子
北山の杉をけぶらせ時雨来ぬ    田中せつ子
年詰まる老いに叶へる用意して   行竹 公子
と見かう見八十路の顔を初鏡    扇谷 竹美
散る前に赤を尽くせる冬紅葉    岡田  潤
初日記五年前にも同じ言      奥本 七朗
あの日から時止めゐしか古暦    越智加奈子
日の濃さや子らが並びて毛糸編む  河井 浩志
鬼ごとの子らの散りゆく寒風裡   神田しげこ
小春日の住持の笑める御影かな   倉本 明佳
小春日や糸の通らぬ針の穴     神出不二子
重たげに浮かんでをりぬ冬の雲   髙橋 保博
孤独なる闘ひと思ふ冬の朝     中村 和風
朝寒や火災報知器鳴り止まず    野村よし子
食み跡に勢ひ見ゆる落葉かな    星私 虎亮
冬紅葉のあはひの空の暮れゆけり  村川美智子


 島津 康弘選

湯上がりの指柔らかく蜜柑むく   浜野 明美
湯たんぽに一夜一夜の深眠り    遠藤  玲
榾を焚く山懐に古き宿       竹内美登里
オリオンを懐かしと見る旅の夜   德山八重子
鎖垂る冬青空の切所かな      野添 優子
下がりたる義士討入の日の気温   山﨑 尚子
色めよき帽子を思ひ毛糸編む    伊丹 弘子
朝市に波の花飛ぶ能登の海     井上 信明
花札が居間に残れる五日かな    扇谷 竹美
かぎ針で編目数へて年を越す    越智加奈子
杉香る八瀬の細道冬浅し      小見 千穂
石段に紅葉を辿る瑞鳳殿      河井 浩志
風呂吹や家族揃へる長き卓     川尻 節子
雑踏を抜け小走りに年の暮     神出不二子
青春のつなぐ襷や息白く      高岡たま子
余生なほ愛しむ日々や根深汁    竹中 敏子
仏にもケーキ切り分けクリスマス  西山 厚生
はやばやと灯る街灯冬めける    布谷 仁美
這へば立て立てば歩めと毛糸編む  廣田 静子