残りものの福をいただく五日かな 三澤 福泉
正月前はあれもこれもと用意をしてしまう「節料理」。時には一、二品が予想と違い、残ったりすることがある。処分出来ない僅かなものも縁起物として捨てられず、暫くは食卓を飾ることになる。果ては五日以降も……。「残り物には福がある」の新年版ですね。(今村 雅史)
雨水今日待ちに待ちたる荷物着く 松本すみえ

通販で何か商品を注文したのでしょう。早く届かないかなと首を長くして待っていたところ、雨水である今日、ようやく届きました。気になるのは、この商品が何だということです。そこで作者にお尋ねしたところ、化粧品だそうです。これは意外であり、俄然楽しくなりました。私はお菓子のような食品か、春物の衣服などを想像していましたから。へぇー化粧品が届くのを待ちに待ち、それを早く使用したいのですね。ぜひ次はこの化粧品を使っての一句をお願いします。(松井 春雄)
春遅々と二日続きの小鍋立て 伊津野 均
立春を過ぎても寒い日が続いたので奥様と鍋料理を楽しまれたのでしょうね。一日目の具材は海鮮、二日目の具材は肉だったのかな……など湯気の立つ鍋を囲んでの温かな景を思い起こしながら、ふと我が家の現実が蘇りました。前日作った水炊き風の鍋の残りを小さめの鍋に移し、豆腐などありあわせの具材を追加して食べる。二日続きとは言え、そのギャップに苦笑。(三澤 福泉)
さへづりや輪投げなど置く陶器市 堀いちろう
陶器市に輪投げ?!と意外性が面白いと思いました。郊外の公園かも知れません。陶器が並び、家族連れで賑わっている様子が感じられます。輪投げなど、とあるので他にもけん玉とかもあるのかも。囀りが聞こえ、のどかな春日和を想像しました。(北田 啓子)
寒鯉のぼやきとも見る気泡かな 鎌田 利弘
寒鯉は餌もほとんど取らずに池底で潜っている。だけども上目づかいにプカプカと泡を立てている。「べらんめえ、寒いじゃないか。この寒さいったいどうしてくれるんだい!」と言わんばかりのぼやきと捉えたところが、この作者らしい面白さだと思います。ちょっと違うかもしれませんが永田耕衣の〈泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む〉の句を彷彿とさせました。(高橋 佳子)
大岩に四方を眺むる四温かな 福長 まり
高い所より見渡して春の気配を感じている様子がよく表わされていると思いました。四方と四温より、足元から柔らかく上がってくる暖かな春の空気に徐々に体全体が包み込まれる、、、そんな感覚を持ちました。「四」の字が重なっているのも楽しいです。(山﨑 尚子)
あつかんべしつる観音御開帳 大木雄二郎
作者によれば、掲句の仏像は斑鳩の法輪寺の観音菩薩で、化仏(頭上の小型の仏像)の一つ(後ろ正面)が、あっかんべしているそうです。この法輪寺の観音仏は十一面観音でしょう。十一面観音の後一面の化仏は通常、大笑面となっていますが、仏師が単なる「大笑い」でなく、「あっかんべ」にしたのですよね。そう言えば、子どもたちの「あっかんべ」は可愛いし、されてもカチンときませよね。あっかんべ≒笑いです。(松井 春雄)
体温のまるめられたるコート抱く 小山 愛子
一読、深い思いやりとある種の安堵感を覚えながら想像力をかきたてられた一句。コートの主とコートを抱く人との人間関係は、夫婦、姉弟、親子?抱く場所は自宅、その他?時は朝、昼、晩?コートの主の外出目的、外出先は?職業は?などなど物語を幾つも書ける素材の詰まった宝庫のような楽しい一句です。(山下 之久)
