切れ(句点)と句形 まとめ
何回か切れ(句点)と句形についてみてきました。今までに書いてきたこととかなり重複しますが、ここで切れと句形についての全体像をまとめてみます。なお一章とは一つの俳句のことです。
切れとは 文の終止する箇所。つまり句点(。)
一句一章 切れが一箇所の俳句
二句一章 切れが二箇所の俳句
三段切れ 切れが三箇所の俳句。三句一章
俳句を作り、鑑賞する上でも最も大事なのが、言葉のどこで切れているか、どこが繋がっているかということです。この切れを支配するのが言葉の使い方(文法)であることはいうまでもありません。
以下、できるだけ箇条書にしてまとめてゆきます。行き詰まったら、「俳句入門」の11~13を読み返して完全に理解して下さい。
●切れる条件
以下の条件のとき、文はそこで切れます。終止するということです。
1 活用語が終止形をとったとき
2 終止の役割をもつ助詞を使ったとき
3 体言に、続くべき助詞等の付かないとき
但し、体言の直後に述語(動詞・形容詞)が続く場合は助詞が省略されます。
4 文体が係り結びの形をとったとき
●切れのない俳句
一見して切れはありませんが述語と句点(。)を省略した句形です。四句目は「……に見える。」と助詞さえも省略した例です。
盆梅の満開となり酒買ひに 皆川 盤水
ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに 森 澄雄
見る者も見らるる猿も寒さうに 稲畑 汀子
摩天楼より新緑がパセリほど 鷹羽 狩行
●一句一章と三つの句形
1 一句言い切り
句点が一つで一つの俳句になっている句形。いわゆる一句言い切りの句形です。
いくたびも雪の深さを尋ねけり 正岡 子規
流れ行く大根の葉の早さかな 高浜 虚子
鶏頭を三尺離れもの思ふ 細見 綾子
月山に速力のある雲の峰 皆川 盤水
海に入るときも家長の鮑海士 宇多喜代子
正月の地べたを使ふ遊びかな 茨木 和生
2 上五に戻る句形
下五を言いさしにし、上五に戻る句形です。
うぐひすの啼くやちひさき口あいて 与謝 蕪村
山茶花やいくさに敗れたる国の 日野 草城
3 二句一章になる句形
句点は一つでありながら、一方の述語を省略し、句意は二句一章となる句形です。
夜桜やうらわかき月本郷に 石田 波郷
餅配大和の畝のうつくしく 大峯あきら
ひぐらしやどこからとなく星にじみ 鷹羽 狩行
●二句一章と三つの句形
二句一章とは二つのセンテンスからなりたっている俳句です。つまり句点が二つある俳句です。二句一章の俳句は三つの形に分類して考えることができます。
1 二物衝撃
二つの異質な物や情景を取合せ、新鮮な詩情を生みだそうという俳句です。ただし、完全な二物衝撃という作品は少なく、情景提示とも取れるという作品が多いようです。
蟾蜍長子家去る由もなし 中村草田男
鰯雲人に告ぐべきことならず 加藤 楸邨
算術の少年しのび泣けり夏 西東 三鬼
この国に恋の茂兵衛やほととぎす 松瀬 青々
秋風や屠られに行く牛の尻 夏目 漱石
秋風や模様のちがふ皿二つ 原 石鼎
中年や遠くみのれる夜の桃 西東 三鬼
雪はげし夫の手のほか知らず死す 橋本多佳子
春鰯いわき七浜潮曇 皆川 盤水
2 情景提示
二物衝撃と同じ句形ですが、衝撃させるような意図はありません。一方のセンテンスが他のセンテンスの情景や背景を提示しているかの印象があります。
芋の露連山影を正うす 飯田 蛇笏
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎
七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ 橋本多佳子
討入りの日や下町に小火騒ぎ 鷹羽 狩行
傷舐めて母は全能桃の花 茨木 和生
二物衝撃と情景提示の違いは主として読み手の感覚によります。従って明確な区別はありません。「少なくても二物衝撃ではない俳句を情景提示と呼ぶ」という程度に理解して下さい。
3 補完関係
句形は二句一章でありながら、二つのセンテンスが結びつき、意味は一句一章になる句形です。
石山の石より白し秋の風 松尾 芭蕉
神田川祭の中を流れけり 久保田万太郎
一月の川一月の谷の中 飯田 龍太
死や霜の六尺の土あれば足る 加藤 楸邨
きしきしと帯を纒きをり枯るる中 橋本多佳子
一方のセンテンスに主語や述語や目的語がなく、他方が主語や述語や目的語となりうるセンテンスであると、二つのセンテンスが結びつき、一つの意味をなした俳句となるのが補完関係型俳句です。
●三段切れ・三句一章
目には青葉山ほととぎす初鰹 山口 素堂
初蝶来何色と問ふ黄と答ふ 高浜 虚子
彼一語我一語秋深みかも 高浜 虚子
明日ありやあり外套のボロちぎる 秋元不死男
緑なす松や金欲し命欲し 石橋 秀野
三つの事柄を均衡をもたせつつ表現しています。
●切れと句形まとめ
句形と句意の全体像を表にまとめます。
切れの数 説明 句形 句意
0 述語を省略 〇句一章 一句一章
1 一句言い切り 一句一章 一句一章
1 上五に戻る 一句一章 一句一章
1 述語を省略 一句一章 二句一章
2 二物衝撃 二句一章 二句一章
2 情景提示 二句一章 二句一章
2 補完関係 二句一章 一句一章
3 三段切れ 三句一章 三句一章
小鳥来るの「来る」考察
・雲の峰では創刊以来、「小鳥来る」を何の疑いもなく文語終止形として使ってきました。
・しかし「小鳥来る」は明らかに口語活用です。
・角川、合本歳時記第五版では「小鳥来」として採録されています。
・角川、新版俳句大歳時記は、修正が間に合わず「小鳥来る」のままになっています。
来 未然 連用 終止 連体 已然 命令
文語 こ き く くる くれ こよ
用例 来ず 来ぬ 来 来る時 来れば 来よ
口語 来ない 来ます 来る 来る時 来れば 来い
上のように、文語終止形は「来」です。
口語の終止形は「来る」です。
文語の連体形は「来る」ですので、ややこしくなります。
例1
きらきらと朝の香具山色鳥来 ○ 確実に終止形
小鳥来る朝の六甲きらめきぬ ○ 小鳥来る朝の……連体形
山裾に万葉の歌碑小鳥来る × →口語活用
小鳥来る子ら歌ひつつ学校へ × 上五が口語終止形
例2 下五を次のようにすると……
四月来る 終止形で使っていれば ×
五月来る 終止形で使っていれば ×
燕来る 終止形で使っていれば ×
口語活用でも確実に×とは言い切れませんが、文語での作句を基本としておりますので、今後は極力避けましょう。
補足
来る(きたる)という動詞も存在します
来る 未然 連用 終止 連体 已然 命令
来(きた)らず 来(きた)りぬ 来(きた)る 来(きた)る時 来(きた)れども 来(きた)れよ
例3 年来る 「きたる」と読めれば、○
小鳥来 別件……
小鳥が渡って来るときは群れをなしてきます。従って、庭に小鳥来とか、小鳥来て窓に鳴く など、一、二羽の様子を詠むと、季語の本意を離れることになります。ご注意下さい。
少々やっかいですが、雲の峰でもじっくりと軌道修正して参りましょう。