常葉・照葉集前々月号鑑賞      三代川次郎


 今月から新たに乾さん、五味さん、松本さん、山内さんを照葉集前々月号鑑賞にお迎えします。これからもご一緒に学んでまいりましょう。

灯台の白き岬や鳥渡る          乾  厚子

 四方を海に囲まれている日本の灯台は全国で約三二〇〇基。最北端は北海道の宗谷岬。最西端は与那国島の西埼灯台です。北海道から日本に入り本州へと南下してくる冬の渡り鳥。それらの群れが海から陸の方にわたってくる姿をみて、作者はその群れが岬の先端に立っている灯台に導かれていると感じたのでしょう。

縁石に翅を畳める秋の蝶         松本すみえ

 蝶の成虫の寿命はオスで一週間、メスで約九日間だそうです。それから考えると秋の蝶は夏から秋まで生きていて寿命が尽きるという事ではないようです。秋の蝶が力なく飛んでいるように見えたりするのは、見る側が秋という季節に感じる寂しさなどが影響しているのかも知れません。秋の蝶が縁石に翅を休めている姿に作者はあわれさを感じているのでしょう。

喜寿となる姉は健脚秋うらら       五味 和代

 二〇二五年に戦後の団塊世代が一斉に七十五歳以上になり超高齢化社会になりました。子どもの頃、七十歳はすごく年寄に見えましたが現代の高齢者はお元気な方が多いようです。作者のお姉様も元気で且つ健脚。ウォーキングや登山などを楽しんでいらっしゃるのでしょう。超高齢化社会を元気で過ごしたいものです。

黒黒と諸手に重き葡萄かな        山内 英子

 葡萄を色で分類すると黒系、赤系、黄緑系に分類されます。掲句の葡萄は巨峰やピオーネ等の黒系でしょう。その大粒の葡萄の重さを両手で感じている作者。〈黒黒と〉の詠み出しが読者にその姿を強くイメージさせてくれます。

椋鳥の陣騒がしき腰曲輪         小澤  巖

 曲輪は城の防御を強化するために設けられた場所で、土塁、石垣、堀などで区画されている所のこと。曲輪の出入口には虎口が設けられ、それを封鎖する門や最前線の塀や攻撃用の櫓が設けられています。掲句は作者の地元の松江城の曲輪の様子でしょうか。曲輪の周囲に植えられている大きな木に椋鳥が集まって姦しい声を上げているのでしょう。作者にはその声が城を守る兵たちの騒がしい声に聞こえたのかも知れません。

鑑真に月を残して寺を辞す        吉村 征子

 唐招提寺の観月讃仏会は毎年中秋の名月の日に行われています。観月讃仏会では鑑真和上坐像を奉安する御影堂の庭園が特別に開放され、鑑真和上とお月様への献茶式も行われます。作者はそれに参加したのでしょう。〈鑑真に月を残して〉の措辞が和上に対しての作者の思いを凝縮しているように感じます。

洋梨の凹み影濃き灯下かな        川口 恭子

 和梨はほぼ球形なのに対して洋梨はやや縦に長く、いびつで独特な形をしています。掲句はそのいびつな姿を詠んだもの。その表面の凹みに現れた影に着目した作者。その影を詠んだことで読者は洋梨の姿を立体的にイメージできたように感じます。

天界の使者の来さうな月の夜       小林伊久子

 昔の人々にとって月は不思議なものとして映った事でしょう。その様な不思議さの中からかぐや姫伝説もうまれました。掲句の天界の使者はかぐや姫を迎えに来た使者の事でしょうか。作者は月の光を見ているうちに光に乗って地上へ降りてくる迎えの使者の姿が見えたのかも知れません。

鷹渡る送るとは立ちつくすこと      志々見久美

 鷹の渡りは北方で繁殖を終えた鷹たちが南下し、山の稜線や岬に集まって飛ぶため、数百から数千羽規模の群れを見ることができます。掲句はその渡りを見送る人々の姿を詠んだ一句。〈立ちつくす〉という表現がこの景の雄大さを雄弁に語っています。

未だ青き数珠玉朝の日を撥ねぬ      住田うしほ

 数珠玉は湿地や河川敷などでよく見かけるイネ科の植物。昔から子どもの玩具としてネックレスやお手玉などに利用されていました。数珠玉の色は白や灰色、黒など多くありますが、数珠玉の出来はじめは鮮やかな緑色をしています。掲句は数珠玉が朝の光を受けている様子。きっと朝の風に吹かれて光を散らしていたのでしょう。

名を知りてあはれままこのしりぬぐひ   田中 幸子

 植物の名前には「こんな名前をつけなくても」と思うものが多くあります。代表的なものには「いぬふぐり」「へくそかづら」「豚の饅頭」など。
掲句の〈ままこのしりぬぐひ〉は枝先に薄いピンクの小さな花が固まって咲く可愛らしいものですが、葉や茎の裏に小さなとげがあり、憎い継子の尻をこれで拭くというところからこの名がついたといわれています。〈あはれ〉という色々な意味を持つ表現に作者の優しさが出ていると感じます。

パビリオンのアトムガンダム天高し    中村ちづる

 昨年の大阪万博の中での日本らしい展示の一つにアニメキャラクターを使ったものがありました。その代表的なものが鉄腕アトムでありガンダム。日本のアニメーションのキャラクターの一つ一つが「ソフトウェア産業」の代表的な製品であり、日本の文化を語る上でも欠かせないもの。斡旋された季語がそれらを称えているように感じます。