◆課題俳句◆   岡田万壽美選


課題 初湯初風呂・若風呂・若湯・湯殿初・初湯殿
 新年になってから初めて風呂を立てて入ること。江戸時代から銭湯は二日が初湯とされた。かつて平安貴族たちは湯殿初といって新生児に産湯を使わせた後、三日目に入る風習があった。初湯はまた若湯ともよばれ、若返りの願いも込められている。 (長嶺千晶)

新版角川俳句大歳時記より

これやこの初湯の蓋をまだとらず    久保田万太郎
庭の松焚きかぐはしき初湯かな      山口 青邨
一人にも湯気たちのぼる初湯かな     鈴木真砂女
玉の緒を珠とあたためゐる初湯      大橋 敦子
初湯出て山の茜と向き合ひぬ       福田甲子雄
夕星のひとつが高き初湯かな       大嶽 青児
雫して夫から妻へ初湯の子        長田 群青
石鹼の新しくなる初湯かな        仁平  勝
家中を濡らしてゆけり初湯の子      岡田 耕治
天井に声のあつまる初湯かな       津川絵里子
初風呂をすこし賢くなりて出づ      能村登四郎
初風呂や花束のごと吾子を抱き      稲田 眸子
玉のごとき稚を浮かせて初湯殿      茨木 和生



特 選

手のひらに包む初湯の膝頭        宇利 和代

 一つ一つの言葉が平明でありながら、とても効果的だと思いました。静かにゆったりと浸かりながら、〈膝頭〉を撫でているのでしょう。ちゃぷんと優しい音や湯の温度を感じます。年齢を重ねると誰しも膝に不安が出てくるものです。〈手のひらに包む〉という慈しむような表現によって、頑張ってくれている膝に感謝し、今年もよろしくねと祈りにも似た作者の願いを思いました。

子のパジャマ借りて熱目の初湯かな    野添 優子

 帰省されたであろう、お子さんやお孫さんとの賑やかな句が沢山あった中で、掲句は〈子のパジャマ借りて〉ですから、娘さんのお宅での初湯だとわかります。こういう表現があったのですね!事実を詠んだのでしょうが、なるほど~と感服しました。うまい!〈熱目〉ですから、一番風呂を頂いたのかな。素敵な母娘関係ですね。私まで、ほっこりさせて頂きました♪

初湯出づ新居のにほひ身に纏ひ      児玉ひでき

 年末に引っ越されたのでしょうか。新居で迎えた新年です。中七下五に心の弾みが感じられます。心身も共に佳き年をお迎えになられたのだと思います。上五を〈初湯出づ〉と言い切ったことも、新しき年への意気込みが感じられる表現になったと思いました。

初風呂や珈琲牛乳売り切れぬ       関口 ふじ

 銭湯か日帰り温泉での初風呂ですね。〈珈琲牛乳〉が売切れとは……。予想より人が多かったのか、いつも飲まない人が正月だからと張り込んだのか。いずれにしても、少し残念な筈なのです。が、不思議と楽しく感じられるのはなぜでしょう?きっと賑わいが感じられるからですね。久しぶりに大きなお風呂に入りたくなりました♪

若風呂や小皺も少しはなやぎぬ      小林伊久子

 うふふ……拍手♪しみじみとした句も多かったですが、掲句は〈小皺〉が〈少し〉はなやいだ!ですよ。季語も、ちゃんと〈若風呂〉です。でもね、〈少し〉ですよ~と、〈はなやぎぬ〉も平仮名ですよ~と。これがポイントです。これくらいなら言い過ぎてなくて現実感がある。本当に?とも言われない。なんて良い塩梅でポジティブなんでしょう。新年の季語は、こう詠みたい!

謡曲を復習ふ夫の初湯かな        吉村 征子

 謡曲とは、能楽の詞章のこと。 演劇における脚本に相当する。本来、「謡」と言われていたものが、大正・昭和初期から「謡曲」とも称するようになった。とあります。その〈謡曲〉を〈初湯〉で復習っておられる御主人。きっと鼻歌では歌えないですよね?お腹に力が入る気がします。演目は不明ですが、お目出度い四海波かな、老松とかかな?ご夫婦のお人柄やお暮しぶりが偲ばれるような句です。




入 選

初湯出て稚桃色に笑ひけり        浜野 明美
みどり児を珠と抱きとる初湯かな     香椎みつゑ
初風呂や株の値上がりなど知らず     うすい明笛
初風呂や目の高さなる水平線       吉沢ふう子
傘寿てふを迎ふる年の初湯殿       酒井多加子
初風呂や湯船溢るる湯量もて       藤田 壽穂
黒潮の浜の露天の初湯かな        杉浦 正夫
満天の星を仰げる初湯かな        中谷恵美子
初湯出て石鎚山をまのあたり       深川 隆正
窓際に鳥影揺るる初湯かな        渡邉眞知子
初湯して初髭剃りて初散歩        林  雅彦
下駄鳴らし共同風呂の初湯かな      高橋 佳子
いつもより鼻唄長き初湯かな       井上 白兎
幼子とタオルで遊ぶ初湯かな       原  茂美
湯屋の戸の開くをまちて初湯かな     島津 康弘
越天楽流るる宿の初湯殿         田中 幸子
脱衣所の母が抱き受く初湯の子      志々見久美
喉だめし初湯の湯気を震はせて      土屋 順子
母の背をゆつくり流す初湯殿       櫻井眞砂子
キティちやんぷかぷか浮かぶ初湯殿    伊津野 均
術跡を愛しむごとく初湯かな       谷野由紀子
富士の絵に朝日さしゐる初湯殿      冨安トシ子
振舞ひ酒賜ばりて後の初湯かな      播广 義春
初風呂や金泉もあり銀泉も        春名あけみ
新たなる湯槽に初湯溢れしむ       瀬崎こまち
初湯殿エコーのかかる若き声       竹村とく子
磨き上げし床をそろりと初湯殿      松浦 陽子
初風呂や宝物のごと稚抱いて       小澤  巖
凪の海ながむる窓の初湯かな       青木 豊江
初風呂や逢ひたき人の名を数ふ      上和田玲子
初湯殿ほのと潮の香硫黄の香       浅川加代子
孫と入れば初湯溢るる朝かな       板倉 年江
新しきタオル馴染まぬ初湯かな      今村 雅史
寄せ植ゑの鉢を窓辺に初湯かな      角野 京子
新しき下着整へ初湯汲む         住田うしほ
新品の下着を提げて初湯殿        西岡みきを
五千歩余歩きし後の初湯殿        松本すみえ
追ひだきを重ね長めの初湯かな      榎原 洋子
身の芯の解くる余生の初湯かな      髙松美智子
初風呂や作り立てなるふどし締む     光本 弥観
病みたれど痩せは目立たず初湯殿     野村 絢子


佳 作

ほろ酔ひの気分のままの初湯かな     中尾 謙三
庄助の如き初風呂夢の夢         片上 信子
初風呂は少しぬるめに祖父長湯      髙松眞知子
久々に姉といただく若湯かな       竹中 敏子
湯気越しに挨拶交はす初湯かな      中野 尚志
早朝の湯桶が響く初湯かな        乾  厚子
赤子抱き入るたまゆらの初湯かな     大塚 章子
初風呂に長湯の親子声高し        岡山 裕美
初湯とて日のあるうちに浸りけり     小山 禎子
仕舞ひ湯にバスクリン足す我が初湯    川口 恭子
健康を謝してのんびり初湯殿       船木小夜美
老躯にも力湧きけり初湯浴み       松井 春雄
初湯張る赤き箱から石鹼を        山内 英子
賑はひの余韻に浸る初湯かな       北田 啓子
初風呂や鄙の暮しもめでたけれ      宇野 晴美
長々と肩までつかる初湯かな       今村美智子
新しきシャボンの匂ふ初湯殿       田中せつ子
支度終へ心和むる初湯かな        原田千寿子
うから来て児ら戯るる若湯殿       三澤 福泉
覚めやらぬ初湯に夫の音のせり      岡田ひろ子
子ら燥ぎ初風呂の湯の溢れけり      山﨑 尚子
孫達が入る若風呂湯気のぼる       中田美智子
太平洋望む宿舎の初湯かな        長岡 静子
初湯して赤子のびのび大あくび      竹内美登里
初湯殿米寿の四肢を拡げけり       長浜 保夫
初風呂の帰りに絶へぬ笑ひ声       人見 洋子
大浴場に母と娘の初湯かな        穂積 鈴女
初風呂やでき得ることをやる努力     米田 幸子
賑はしき孫らのあとの若湯かな      村川美智子
明けて日の高きに使ふ初湯かな      福長 まり
星影に来し方重ね初湯かな        冨土原康子
一から百数えて終へる初湯かな      浅川 悦子
介護受くる母の初湯の笑顔かな      金子 良子
初風呂や子等で賑はふ大浴場       髙木 哲也
初風呂にハーブの香るバスソルト     新倉 眞理
疲れゐる手足を伸ばす初湯かな      宮田かず子
初風呂や健やかなるを感謝して      天野 和男
暮れ方の一番乗りの初湯かな       加納 聡子
初風呂も常と変わらぬ夕べかな      本田  伝
家中に子の声響く初湯かな        山本 創一
初風呂や波音聞きてゆつたりと      太田美代子
養生訓や香り手触りよき初湯       越智千代子
山路来て独り初湯の木挽唄        佐々木一夫
初湯の窓白くちらちら秘境宿       中尾 光子
窓に富士見渡す宿の初湯殿        平橋 道子
威勢良く掛湯をしたる初湯かな      松本 英乃
伸びをして感謝感謝の初湯かな      中尾 礼子
初風呂や老の二人の家静か        布谷 仁美
初湯にと迷ひ決まらぬ入浴剤       山地 高子
残照に窓辺の映ゆる初湯殿        木村てる代
初湯して狭井の神水賜りけり       五味 和代
日の光に初湯の湯気のもうもうと     武田 風雲
声合はせ十までの数初湯殿        田中よりこ
しみじみと初湯の出湯を痩身に      遠藤  玲
煙突に淡き煙の初湯かな         大澤 朝子
せつかくのバブを忘れて初湯殿      小見 千穂
子等帰りひと息ついて初湯殿       小薮 艶子
初風呂の最初は息子夫の順        斎藤 摂子
初風呂や足を延ばして道後の湯      髙橋美智子
湯殿から響く桶音初湯かな        中村 克久
初風呂や湯上がりの足ぽかぽかと     渡邊 房子
八十路かと深呼吸する初湯殿       大木雄二郎
溜まりたる鬱憤流せる若湯かな      奥本 七朗
湯中りに妻の肩借る初湯かな       西山 厚生
外国の人あまた居る初湯かな       野村よし子
初風呂に心身癒やす満足に        水谷 道子
行く末をしみじみ想ふ初湯にて      佐々木慶子
どつぷりと肩までつかる初湯かな     髙橋 保博
忘帰洞浸かりて拝む初湯かな       鎌田 利弘
溢れしむざばと初湯の目出度さよ     三原 満江
初風呂や鐘の音沁みる夜のしじま     川尻 節子
ひ孫らもにこにこ入る初湯なり      井上 妙子
責め来たる身を許しやる初湯かな     糟谷 倫子
溶けてゆく痺れた手足湯殿初       松本 葉子
初風呂の後急に夜深みゆく        杉山  昇
せがまれて孫と銭湯初湯かな       溝田 又男
風呂温度四十度にし初湯かな       森田 明男
湯気の立つ川辺の縁ち若湯入る      河井 浩志
初風呂や夫の風邪気味長引いて      片上 節子
初風呂でいただく温もり布団まで     近藤登美子
初風呂にアゴまで浸る外は雪       古谷 清子
隧道を抜けお降りの銀世界        田中 愛子
朝寒の夢の時間の中に居る        越智 勝利
大いなる涙袋も春立ちぬ         河原 まき





次回課題
春日・春の日・春日影・春の朝日・春入日・春の入日・春陽・春日向……



締  切
3月末日必着

巻末の投句用紙又はメールで、二句迄。編集室宛
メール touku-kumonomine@energy.ocn.ne.jp