課題 梯梧の花 海紅豆・海豇豆・梯姑
梯梧はマメ科の落葉高木。インド原産。沖縄や小笠原に見られ、高さ一〇メートルを超す。三、四月頃から夏にかけて、枝先から長い総状花序を出し、緋赤色の蝶形の花を多数つける。南国的な情熱を感じさせる花である。近年、公園や庭園などには、別種ではあるがアメリカデイコ(海紅豆)や珊瑚刺桐(さんごしとう)なども見られる。(佐怒賀正美)
新版角川俳句大歳時記より
デイゴ咲き口中赤き魔除獅子 中嶋 秀子
南国の空の青さよ花梯梧 栗田やすし
海彦とふた夜寝ねたり花でいご 小林 貴子
海紅豆さつま隼人の血汐なり 百合山羽公
海紅豆海の涯を見るごとし 森 澄雄
噴煙の湧けば燃えたつ海紅豆 福田甲子雄
海紅豆咲き安房の子の声太し 大嶽 青児
落日に力ありけり海紅豆 佐藤 博美
潮騒や戦火の色の花デイゴ 十時千恵子
絣織る窓くれなゐに花梯梧 西銘順二郎
特 選
梧咲く島をゆるりとゆいレール 浅川加代子
沖縄都市モノレール線の愛称が〈ゆいレール〉で、「ゆい」は琉球方言の「ゆいまーる」から取られ、助け合いや結びつきを意味するそうです。力まず、ごく自然に詠まれた季語が美しい。重ねられた〈ゆ〉の音に、穏やかで、のんびりと流れる島時間を感じました。この季語が持つ明るく伸びやかな側面を活かした句だと思いました。
梯梧咲く若き血潮の色に咲く 川口 恭子
〈咲く〉のリフレインで、二句一章という形に惹かれました。とても力強く季語が咲きます。上五の〈梯梧〉は戦禍を思わせるかもしれません。尊く散った〈若き血潮〉もありました。けれど、今、この梯梧は日本の未来を背負う〈若き血潮の色〉に咲いていると私は読みました。過去を繰り返さず、平和な未来にも咲いて欲しい。これは二句一章と言って良いのかしら。
海紅豆島に赴任の若き女医 春名あけみ
季語を花梯梧とせず、〈海紅豆〉としたことで、島に赴任することを選んだ医師のそれも〈若き女医〉の情熱と覚悟をより深く表現出来たと思います。発想が偏りがちな季語だと思いますが、新鮮で、かつリアリティーのある素材が、しっかりとドラマを感じさせてくれました。勝手に応援したくなります!
民謡の地声ゆたかや梯梧咲く 酒井多加子
沖縄かな。慶良間かな。民謡も島によって色々と特徴があるようですが、三線で歌い踊る楽しい場面が浮かびます。〈地声ゆたかや〉が、季語に背中を押され、より豊かに大空へと響き、風に乗ってゆくようです。島唄って、聞くだけで元気が出ます。あ、寂しい唄もありますが。
花でいご蛇皮線借りて津軽弾く 佐々木一夫
こちらの句は島唄ではなく、なんと〈蛇皮線借りて〉〈津軽弾く〉ですよ!津軽じょんがらを披露したという句ですよね?対バン?コラボ?なんて、そんな大げさでは無く、旅先での一コマでしょうか。少々、腕に覚えのある作者が、一曲ご披露したのでしょう。拍手喝采を浴び、三線談義に花が咲いたかもしれませんね。季語の効果絶大です♪
ガマに眠る遺物数多や海紅豆 板倉 年江
〈ガマ〉は、沖縄で、洞窟や鍾乳洞のことをいい、沖縄戦で陣地・避難場所・野戦病院として使用した。とあります。〈ガマ〉のインパクトが大!この言葉を上五に据えた事が秀逸!この〈遺物数多〉が、どのような物かは具体的にはわかりませんが、〈眠る〉と表現し、梯梧とせず、〈海紅豆〉とした作者の思いが深く響く一句となりました。
入 選
血の色に咲ける座間味の花梯梧 伊津野 均
梯梧咲く樹下にやすらふ神の牛 田中 幸子
島人の濃き眉梯梧花盛り 福長 まり
海紅豆陸軍墓地に影落とす 髙橋美智子
梯梧咲く島の小さきCD屋 小見 千穂
王宮の空の真青や梯梧咲く 中尾 礼子
一碧の珊瑚の海や海紅豆 杉浦 正夫
六角の白灯台や梯梧咲く 小林伊久子
岩を嚙む走り根太き花でいご 田中 愛子
南洲の潜居の地なり海紅豆 野添 優子
この海をあなたにあげる花梯梧 松本 葉子
潮風や朱の鮮らけき海紅豆 原 茂美
三味線に和す歌声や花梯梧 うすい明笛
花梯梧雨は沖にも海辺にも コダマヒデキ
海紅豆西郷像に並みて咲く 瀬崎こまち
間歩近き亀甲墓に梯梧散る 松本すみえ
花梯梧四竹鳴らす手の揃ふ 野村よし子
公園に万葉歌碑や梯梧咲く 髙橋 保博
落暉海へ梯梧の花の鮮やげる 瀧下しげり
美ら海は晴れて梯梧の花紅し 大塚 章子
かなしみを刻むいしぶみ梯梧咲く 香椎みつゑ
海苔の網干しゐる浜や梯梧咲く 木村てる代
如己堂にふるふ歌声花梯梧 櫻井眞砂子
防人の島てふ丘に梯梧散る 原田千寿子
空穏し摩文仁の丘に海紅豆 三澤 福泉
道形に行けば岬や花梯梧 宇野 晴美
南蛮の風情堺に梯梧咲く 大木雄二郎
日が差して梯姑ぽつぽつ咲いてゆく 河井 浩志
蛇皮線を囲む老いどち梯梧咲く 寺岡 青甫
檀一雄住みし島なり海紅豆 岡山 裕美
海紅豆くぐりて島のレストラン 小山 禎子
共学となりし女子高海紅豆 角野 京子
梯姑燃ゆ白梅隊の手記をふと 河原 まき
亀甲墓に響く三線梯梧咲く 田中よりこ
はじめての梯梧の花にみとれゐる 近藤登美子
柳川の水に触れゐる海紅豆 村川美智子
血の色とも見ゆる慶良間の梯梧かな 島津 康弘
梯梧咲く牛の馬車ゆく島の午後 谷野由紀子
星の砂探す砂浜梯姑咲く 北田 啓子
梯梧咲くビーチバレーの声高し 小薮 艶子
散り敷ける梯梧の花のなほ赤し 榎原 洋子
余所人に梯梧の花名問はれけり 越智千代子
大阪の出会ひはジルバ花梯梧 渡邊 房子
四歳のベールガールや花梯梧 関口 ふじ
梯梧咲く摩文仁の丘に佇めり 髙橋 佳子
潮の香や墳墓の丘に梯姑咲く 髙松美智子
二人して梯梧の花に触れてをり 光本 弥観
梯梧咲く向かうに海と空のあを 山本 創一
Tシャツになんくるないさ花梯梧 片上 節子
花梯梧まぶしきほどに海青し 松井 春雄
佳 作
梯梧咲く浜へと続く草の道 住田うしほ
街路樹は梯梧の花や船着き場 松本 英乃
花梯梧海の青さを深めたり 中野 尚志
太陽と色を競ひて海紅豆 藤田 壽穂
かの島の哀史を今に梯梧咲く 今村美智子
シーサーに梯梧の花の零れ落つ 三原 満江
シーサーに揺れて梯梧の花明り 宮永 順子
大島に梯梧の花の鮮やげり 髙木 哲也
夕映えの沖に白帆や海紅豆 窪田 季男
南国の海のあをさや海紅豆 青木 豊江
神の島見ゆる砂浜花梯梧 上和田玲子
梯梧咲く空の青さと白波と 竹内美登里
深呼吸梯梧の花の木陰にて 片上 信子
南国の空ふかぶかと海紅豆 吉村 征子
梯梧咲く戦火を浴びしこの島に 田中まさ惠
波音に色極めゐる海紅豆 冨安トシ子
港へと続く並木の梯梧咲く 中尾 謙三
下り立ちぬ梯梧の花に迎へられ 中谷恵美子
潮風を受けてさ揺らぐ海紅豆 西岡みきを
散りてなほ色を極むる梯梧かな 播广 義春
小夜風に魔性めきたる花梯梧 横田 恵
梯梧燃ゆ遠流の島の白灯台 吉沢ふう子
沖縄の海の沈黙梯梧咲く 渡邉眞知子
将来を語るひと日や花梯梧 浅川 悦子
余念なく漁具の手入れや花梯梧 中村 克久
三線の出だししづかや花梯梧 渡部 芋丸
梯梧咲く沖縄の地の燃ゆる色 川尻 節子
電線より高き空き家の海紅豆 佐々木慶子
花梯梧その赤を目に焼き付けて 山﨑 尚子
祈ること多き尼僧や梯姑燃ゆ 志々見久美
浜風を受くる真赤の花梯梧 乾 厚子
海青し燃ゆるばかりに海紅豆 五味 和代
悲しみを秘むる真紅の花梯梧 斎藤 摂子
まつたきの青き空より散る梯梧 新倉 眞理
早朝のラインに届く花梯梧 山内 英子
紺碧の空へ燃え立つ海紅豆 山下 之久
アイス売り梯梧の影でひと休み 林 雅彦
足早に行く学生へ梯梧咲く 福原 正司
海碧し砂浜白し花梯梧 溝田 又男
岬鼻の風に応へて海紅豆 木原 圭子
梯梧の花わが青春の一頁 寿栄松富美
舟唄や梯梧の花に友偲ぶ 長浜 保夫
花梯梧散りて海へと流れ行く 水谷 道子
梯梧の花陽の照り付くる島の海 武田 風雲
酌み交はす泡盛弾む海紅豆 深川 隆正
燃え尽きるまで鎮魂の梯姑かな 冨士原康子
海紅豆ま青なる空盛り上げて 船木小夜美
海紅豆の赤暗がりに映ゆるなり 宮田かず子
近代へ動きし浜の海紅豆 杉山 昇
海紅豆深紅に染まる沖の空 中尾 光子
日を燦と風に揺れゐる花梯梧 穂積 鈴女
真赤なるバナナの如き海紅豆 奥本 七朗
青空に燃え立つ梯梧島の唄 田中せつ子
咲き満ちて真紅鮮やか花梯梧 土屋 順子
梯梧の花通りに人の湧くごとく 野村 絢子
海紅豆飛行機雲を塗り広げ 星私 虎亮
校門に見上ぐる梯姑立志の碑 長岡 静子
海紅豆吹く海風のうなりかな 人見 洋子
沖縄の街路を赤く染む梯姑 平橋 道子
梯梧の花名前知れども花知らず 井上 妙子
悲しみの歴史見つめし海紅豆 髙松眞知子
キリシタンの哀史を燃やす梯梧かな 岡田 寛子
雨上がり梯梧の落花艶やかし 鎌田 利弘
陽の赤く梯梧赤赤南の島 竹村とく子
花梯梧散りしく街は祭りとも 遠藤 玲
次回課題 滴り・滴る・岩滴る・崖滴る
締 切 7月末日必着
巻末の投句用紙又はメールで、二句迄。編集室宛
メール touku-kumonomine@energy.ocn.ne.jp