◆課題俳句◆   岡田万壽美選


課題 木槿・きはちす・もくげ・白木槿・紅木槿花木槿・底紅・木槿垣

 アオイ科の落葉低木。中国・インド原産。高さ二〜四メートルになり、生垣によく用いる。夏から秋にかけての長い日数を次々に咲き続ける。葉腋から短い花柄を伸ばし、直径七〜一〇センチの五弁花をつける。朝に開き、夜はしぼむため、「槿花一日の栄」という言葉があり、人の栄華のはかなさにたとえられる。園芸種には白、桃色から菫色まで花色は様々あり、八重咲きの種類もある。韓国では国花とされている。 (岩田由美)

新版角川俳句大歳時記より

白木槿夜明けの雨のいさぎよし      古賀まり子
逢へぬ日は逢ふ日を思ひ白木槿      木村 敏男
白木槿もの書く音の続きをり       藤本 夕衣
墓地越しに街裏見ゆる花木槿       富田 木歩
老後とは死ぬまでの日々花木槿      草間 時彦
底紅の咲く隣にもまなむすめ       後藤 夜半
底紅の底は少年には見えぬ        高野ムツオ
底紅や黙つてあがる母の家        千葉 皓史
底紅は井戸端の花母の花         藤本美和子



特 選

表札に真名とハングル花木槿       関口 ふじ

 解説にもありましたが、木槿は韓国の国花です。そこからの発想の句は、季語との距離感が近い句が多く、難しいなと思いました。その中で掲句は絶妙な距離感(ぎりぎり?)かと思いました。真名は漢字の楷書、仮名に対しての漢字のことです。ハングルは朝鮮語固有の表音文字。その両方の表記がある表札を見つけた作者。美しい木槿に足を止めて見つけたのかも知れませんね。木槿の花が咲いている家にお住まいということは、日本で仕事をされているのでしょうね。引っ越された時に植えた木槿なのか、木槿に惹かれて決めた家なのか。何れにしても日本での暮しに満足されているように窺え、嬉しくなりますね。韓国との交流は古い歴史があり、政治的には色々と問題もありますが、日本では昨今、ドラマや音楽、コスメやグルメなど韓国ブームで訪韓される方も増えました。両国の理解が進み、よき関係が続くことを願います。

木槿咲く山家に止まるバイク便      小林伊久子

 木槿の花は、少し古風な感じの花だと思います。〈山家〉にとても似合いますよね。きっと立派な木だろうなと想像します。せせらぎが聞こえたり、鳥も鳴いているかも知れません。日差しがきらめいていたり、そよ風に花が揺れているかも……。それらを詠み込んで一句成立します。そこをもう一歩も二歩も発想を飛ばした作者です。〈バイク便〉ですよ!宅配便でも良い句ですよね。二歩目を飛んで〈バイク便〉に至ったのは凄いです。普通バイク便は、お仕事で至急の届け物とかに使われるかと思います。掲句の場合も、そういうケースかも知れませんが、山間の道路事情も考えられますね。想像してみるのも楽しい。発想力の豊かさに感服しました。

底紅や時おほまかに過ぎゆきぬ      酒井多加子

 多くの方が、一日花である木槿に時の流れを思い、時間軸をさまざまに切り取って詠まれました。俳句は本来、目の前の景を表現するのにむき、時間経過を詠むのは難しいと思います。その難しさを作者は難なく越えて〈おほまかに過ぎゆきぬ〉と何とも、はんなりというか、ふんわりと表現しました。〈底紅〉の過ごす柔らかな時間、けれど必ず閉じゆく儚さ、その時間の流れを〈おほまかに過ぎゆきぬ〉とは……脱帽です。季語が木槿ではなく〈底紅〉としたことも、余韻の深さを増したと思います。

木槿咲く白よりあはき色持ちて      浅川加代子

 木槿の花びらの美しさ、特に白木槿の花びらの少し透明感のある感じを表現したい、どこに咲かせると引き立つかな、どの時間帯が映えるかなと悩むものです。そんな悩みをよそに〈白よりあはき色持ちて〉ですもの……なんてシンプル。且つ、どんぴしゃ!です。でもなかなか、この境地には辿り着けないのですよねぇ。もうちょっと何か一捻り……なんて思ってるうちは、まだ修行不足ですね。

累累と木槿の花の散りどころ       野村よし子

 木槿は一日で萎んで落ちてしまいますが、次々に咲くので、結構いつ見ても満開な気がします。儚さと華やかさの両方を感じます。歩いていても目を引く花です。作者は見事な木槿を見つけたのでしょう。ひととき鑑賞し、足下の落花にも目をとめた、そこが俳人ですね!積もった落花も美しくいとしいですよね。〈散りどころ〉と表現したことで一気に映像が浮かび、余韻が生まれました。



入 選

千秋楽の一日の長し白木槿        河原 まき
木槿散る昨夜の雨粒含ませて       木村てる代
底紅の紅に雨粒集めけり        コダマヒデキ
白木槿廓町抜け寺町へ          伊津野 均
夜を継いで日々新しき花木槿       福長 まり
稲荷社はビルの谷間や白木槿       春名あけみ
屋上の稲荷神社や紅木槿         三澤 福泉
底紅の盛りはどこも真正面        中野 尚志
花木槿登校の列ゆるみなし        小澤  巖
こぼれ落つ木槿踏みつつ天守跡      杉浦 正夫
木槿咲く池のほとりに屋敷神       角野 京子
雨の日の木槿窄める昼下り        播广 義春
煉瓦造りの北海道庁木槿群る       髙木 哲也
木槿垣の未だ残れる武家屋敷       西岡みきを
底紅や閂堅き比丘尼寺          藤田 壽穂
鍵の手を行けば湖岸へ木槿垣       櫻井眞砂子
朝明けの空を咲き継ぐ白木槿       中谷恵美子
母のゐぬ母里遠し白木槿         瀬崎こまち
底紅の紅をくるんで落ちにけり      志々見久美
鉛色の路地に木槿の咲き残る       板倉 年江
閑寂に絶え間なく咲く木槿かな      乾  厚子
幹折れてなほも咲き継ぐ木槿かな     五味 和代
底紅のその色に似るルージュ選る     浅川 悦子
あはあはと童に木槿ほどな恋       宇野 晴美
一つ落つ明日は三つか紅むくげ      髙橋美智子
石段に自転車二台花木槿         福原 正司
花木槿葉色微かに透かしをり       本田  伝
斜交ひの家の賑はひ木槿垣        山本 創一
礼服にポケット多し白木槿        松本 英乃
ぱらぱらと雀降り来る木槿垣       今村 雅史
天守なき城下の町や木槿咲く       今村美智子
木槿揺る子らがそろそろ帰る頃      大塚 章子
土産物届くる家の花木槿         岡山 裕美
訪ね来る人待つ門の白木槿        香椎みつゑ
山の辺に伽藍の跡や花木槿        中尾 謙三
花木槿乾燥させて薬用に         深川 隆正
花木槿古き想ひを今さらに        榎原 洋子
寝化粧を映す鏡に木槿かな        岡田 寛子
朝空に八重のきはちす紅広ぐ       野添 優子
畑にと急く道の辺の白木槿        宮田かず子
デイケアの庭に穏しきもくげかな     児島 昌子
月詣づる無住寺に継ぐ白木槿       佐々木慶子
信号が変はれば揺るる花木槿       上和田玲子
木槿咲く大河のやうな都道かな      野村 絢子


佳 作

底紅の底まで見ゆるくだり道       人見 洋子
花木槿空き家の増えし母の里       原  茂美
花木槿茶室に憩ふ小半時         うすい明笛
底紅の紅の鮮やぐ今朝の晴        川口 恭子
砂糖菓子のごとく底紅蘂立てる      島津 康弘
白木槿けふのひと日を使ひきり      田中よりこ
日の辻の光みなぎる白木槿        冨安トシ子
炊出し訓練の小き公園白木槿       横田  恵
いちにちをたたむ宗旦木槿かな      吉沢ふう子
二坪に足らぬ公園花木槿         大澤 朝子
木槿描く花芯に紅を少し足し       三原 満江
公園の内輪話や花木槿          渡邊 房子
底紅や半透明の護美袋          奥本 七朗
雨に落つ木槿の花の尚白し        山﨑 尚子
白木槿濡緑までの杖の客         宇利 和代
不可もなく可もなき一日木槿閉ず     越智千代子
花木槿咲かせる庭に三輪車        竹内美登里
床間に底紅凜と茶事を待つ        穂積 鈴女
茶事の設ひ準備万端花木槿        髙松眞知子
木槿垣右に曲つて友の家         布谷 仁美
晴るる朝庭の木槿が満開に        山地 高子
この辺り往時のままや木槿咲く      松井 春雄
思ひ出の萎む如くに木槿かな       越智 勝利
もくげ咲くローカル線の小さき駅     高橋 佳子
正客となれる茶席の白木槿        光本 弥観
それぞれに尊きひと日花木槿       青木 豊江
人気なき庭に木槿の濃紫         片上 節子
我が庭に五十余年の白木槿        木原 圭子
老後とはまだまだ長し花木槿       近藤登美子
陽射し受け静寂深むる紅木槿       住田うしほ
奈良町の寺院に揺るる白木槿       谷野由紀子
石橋の石工の里の木槿かな        原田千寿子
塀越しに褒むる隣家の木槿かな      船木小夜美
幾度も木槿の咲いて主亡し        松本すみえ
空港に向ふ国道白木槿          山内 英子
教会の裏の小路や木槿咲く        渡邉眞知子
底紅の一株凜と遊歩道          小見 千穂
枝拡げ無住の庭に木槿咲く        小薮 艶子
入院棟の日陰日向の白木槿        中村 克久
木槿咲く高市総理祝ふやに        井上 白兎
大輪のむくげ際立つ日射しかな      杉山  昇
ひた歩く街道処処に木槿咲く       西山 厚生
花木槿ひと日恙なく暮るる        長岡 静子
二階まで届き咲きゐる花木槿       小山 禎子
木槿垣となりも一人住ひなる       平橋 道子
木槿咲く広場に朝の体操す        米田 幸子
休日の朝に開きし白木槿         髙橋 保博
ひそと色たたみて木槿咲き替はり     田中 幸子
仲良しのお隣さんよ花木槿        宮永 順子
いつからか零れぬ涙白木槿        太田美代子
白木槿一歩下がつて見上げけり      糟谷 倫子
明日へのバトンを渡し木槿閉づ      北田 啓子
花木槿落つを毎日集めをり        中田美智子
木槿咲く赤きポストにより添うて     林  雅彦
田舎家の木槿豪華に咲き継げり      松本 葉子
過ぎ行きて振り返り見る木槿かな     大木雄二郎
白木槿蕊あざやかに一日終ふ       川尻 節子
信号を待つ傍らに花木槿         溝田 又男
幼子の泣いて笑つて花木槿        土屋 順子
もくげ咲く遊女の墓の供花とせる     中尾 光子
水盤に落つる木槿の花一輪        中尾 礼子
朝咲きて夕には儚き木槿かな       古谷 清子
通り雨のあとの陽が射し木槿垣      田中 愛子
白むくげ最後の一花となりにけり     金子 良子
一刻をそぞろの二人夕木槿        斎藤 摂子
塀超えて木槿迂闊の吾に迫る       髙松美智子
朝戸明け新聞取るに白木槿        竹村とく子
恙なき日日夕暮の白木槿         浜野 明美
登校の子らを迎ふる花木槿        松浦 陽子
白木槿咲く房総湾をめざすなり      河井 浩志
花木槿遠き故郷思ひ出す         寺岡 青甫
たをやかに幾鉢並ぶ白むくげ       村川美智子
一日の早くも過ぎて花木槿        武田 風雲
朝散歩木槿の花に励まされ        冨土原康子
雨模様開花ためらふ木槿かな       鎌田 利弘
傘とぢていたるごとくに木槿散る     新倉 眞理
はんこ押すラジオ体操花木槿       佐々木一夫
三本の木槿切株生兆す          片上 信子
掃き好むいつも清潔木槿垣        水谷 道子
木槿咲く籬の上に三上山         田中せつ子
 11月遺漏分
御座船のお堀り巡りや秋暑し       寿栄松富美
永らへて前例のなき残暑かな       松本すみえ





次回課題  蒲団・布団・掛蒲団・敷蒲団・藁蒲団羽蒲団・絹蒲団・蒲団干す・干蒲団肩蒲団

締  切  12月末日必着
巻末の投句用紙又はメールで、二句迄。編集室宛
メール touku-kumonomine@energy.ocn.ne.jp