課題 残暑・残る暑さ・秋暑し・秋暑・餞暑
立秋を過ぎてもなお残る暑さのこと。八月七日頃が立秋だが、八月から九月の中旬頃まではまだ厳しい暑さが続く。まして一度涼しさを感じた後にぶり返す暑さは、絶頂期を過ぎたとはいえ、疲労感や倦怠感を招く。 (高室有子)
新版角川俳句大歳時記より
口紅の玉虫いろに残暑かな 飯田 蛇笏
朝夕がどかとよろしき残暑かな 阿波野青畝
被爆の絵どれも残暑の赤と黒 鍵和田秞子
窯たいて残暑のまなこくぼみけり 新田 祐久
夕刊のぐつたり届く残暑かな 木野 泰男
辞書入れて残暑の重さ革鞄 山田真砂年
朝飯を食うてまた寝る残暑かな 小森 邦衞
シンバルの連打のやうな残暑かな 金子 敦
秋暑き汽車に必死の子守唄 中村 汀女
太陽はいつもまんまる秋暑し 三橋 敏雄
吊革に手首まで入れ秋暑し 神蔵 器
仏壇の秋暑の扉開けてあり 齊藤 美規
ひらきたる傘のうちなる秋暑かな 藤本美和子
紙切つて鋏おとろふ秋暑かな 片山由美子
特 選
万国の友と残暑を分かち合ふ 河原 まき
先日、盛況のうちに閉幕した大阪万博での一句かと読んだ。〈万国の〉は、あらゆる国々のという意味だが、今年だからこそ、博覧会を想起させる。関西勢は行かれた方も多いかな。行けなかった方も連日のテレビ放送で大屋根リングやiPS心臓などは目にされたと思う。猛暑の中でも入場者の方は何時間も並んだと聞く。作者も頑張って残暑の中を並んだのかもしれない。想像するだけで疲れそうなのだけど若さかな?いや、人柄だろう。海外からの観光客やパビリオンのスタッフの方達と〈残暑を〉〈分かち合ふ〉と詠んだ。敬服する。こういう物の捉え方をしたいものだと思う。きっと素敵な思い出が沢山出来ただろう♪
給餌台にパン屑残る残暑かな 杉浦 正夫
私は鳥の習性に詳しくないのだけれど、我が家の庭には、そこそこ鳥がやってくる。ブルーベリーが全部食べられてしまった年もあるけれど、今年は私が摘むのに疲れて残した後の実も暫くそのままだった。それが暑さのせいなのかは分からないけれど、昆虫もあまり見なかった気がするし、みみずが出てきて干からびていた。動物たちの動きに感じた〈残暑〉に作者の優しい視線を思う。
待合室に足す補助椅子や秋暑し 原 茂美
この〈待合室〉は病院かな。〈補助椅子〉が出されるくらいに患者さんが増えたのは、暑さ疲れでの不調なのかなと想像するのは季語〈秋暑し〉があるからで、とても効果的だと思う。〈補助椅子〉で、しっかり映像化も出来た。
洗濯物残暑もろとも取り込めり 吉村 征子
夏の盛りの洗濯物は、ほかほかだから、私は少し冷めてから畳むか、夕方になってから取り込むことが多い。作者は〈残暑もろとも〉取り込んだという。残暑も充分暑いのに、この句の暑さはなぜか気持よく感じる。不思議だなぁ。〈もろとも〉が暑さに負けていない元気さを感じさせるのかもと思う。この元気さに惹かれた!
古書店に全集あまた秋暑し 田中まさ惠
着眼点が面白い!〈古書店〉のありふれた光景が季語〈秋暑し〉の力で実感を帯びる。暑さに疲れて覗いてみた店の何年前から並んでいるのだろうという全集が目に浮かび、独特の匂も感じさせる。あのぎゅっと詰まった空間が季語と響く気もした。
入 選
信号の赤の連なり秋暑し 上和田玲子
雑魚死して湖に漂ふ残暑かな 小澤 巖
秋暑し波止に富士壺びつしりと 角野 京子
自販機の売切れランプ秋暑し 小林伊久子
病む人を思ひ残暑を口にせず 田中 幸子
大堰川の残る暑さに屋形船 冨安トシ子
いつかうに開かぬ遮断機秋暑し 中尾 謙三
刃こぼれの刈込鋏秋暑し 吉沢ふう子
リハビリは行きつ戻りつ秋暑し 渡邉眞知子
歯ごたへのよきもの噛むや秋暑し 越智千代子
手拭を頭に野風呂残暑なほ 浅川加代子
秋暑し夕をいさかふひもすどり 酒井多加子
又変はる隣の住人秋暑し 木村てる代
隣人の姿みかけぬ秋暑かな 島津 康弘
投網打つ舳先の揺れや秋暑し 髙橋美智子
パトカーに列なす子らや秋暑し 光本 弥観
秋暑し影といふ影拾ひ行く 中尾 光子
二上にまだ暮れ残る秋暑かな 今村美智子
バスクリン買ひ忘れたる残暑かな 岡山 裕美
塩飴の包べたつく残暑かな 川口 恭子
残暑なほ硝子張りなる昇降機 田中よりこ
会へば皆残暑の話題皆元気 宮永 順子
無念にも途中下山や秋暑し 髙木 哲也
観光も残暑に耐ふる気力戦 松浦 陽子
朝撒きし鳥の餌のこる残暑かな 山本 創一
数多重の鴉の声や秋暑し 青木 豊江
奪衣婆の乳房垂れゐる秋暑かな 香椎みつゑ
秋暑しひびの入りたる電子辞書 櫻井眞砂子
入浴剤入れてほどくる残暑かな 谷野由紀子
境内の銀杏の匂ふ残暑かな 深川 隆正
西部屋に残る熱気や秋暑し 横田 恵
記憶力頓に失せ行く残暑かな 浜野 明美
明け方に窯出しするも残暑なり 松本 葉子
一呼吸して立ち上がる残暑かな 三原 満江
ぐづる子を車中にあやす母秋暑 西山 厚生
秋暑し木下離れぬホルスタイン 福原 正司
言ひ分をこらへ残暑の皿洗ふ 宇利 和代
宇宙から火球飛び来る秋暑し 松本 英乃
十七の文字紡ぎゐる残暑かな 村川美智子
時刻通りに来ぬバスを待つ残暑かな 藤田 壽穂
秋暑し広告塔の太き文字 伊津野 均
中華そば残暑に啜る早さかな 今村 雅史
そこそこに立ち話置く残暑かな 西岡みきを
溜息が癖となりゐる残暑かな 春名あけみ
食欲の衰へのこる残暑かな 浅川 悦子
さよなら負けのテレビすぐ消す秋暑かな 北田 啓子
秋暑し喫水域は緑なす コダマヒデキ
散水のホースの先の残暑かな 高橋 佳子
散歩の犬未だ靴履く秋暑かな 野添 優子
鉄棒にのこる張り紙秋暑し 奥本 七朗
佳 作
黒牛が隣の車線秋暑し 小見 千穂
残暑なほ城の園地に箒鳴る 林 雅彦
午後三時残暑を凌ぐハーブティー 山﨑 尚子
突堤に釣り人ひとり残暑光 木原 圭子
残暑なほ錆を深むる駒繋ぎ 田中 愛子
秋暑しひねもすスパム消しをりぬ 播广 義春
秋暑いよよ草丈著き奥津城に 福長 まり
鈍色の露座仏の背も残暑かな 冨土原康子
追伸に残暑厳しと太き文字 船木小夜美
レンチンでコンビニ弁当秋暑し 三澤 福泉
大入りの子ども縁日秋暑し 糟谷 倫子
秋暑し口内炎の長引きぬ 斎藤 摂子
健診日決まらぬままに残暑かな 関口 ふじ
渡月橋の端から端へ残暑かな 瀬崎こまち
薬草の滾るやかんに秋暑し 竹村とく子
新幹線を降りて秋暑の街に立つ 渡邊 房子
シーソーの螺子の軋みや秋暑し 岡田 寛子
優しさも解さず老ゆる残暑かな 杉山 昇
湯上りに風のよろしき残暑かな 溝田 又男
閉幕の近き万博秋暑し 平橋 道子
見納めの大屋根リング秋暑し 穂積 鈴女
農作業一途に励む秋暑し 水谷 道子
秋暑し雑草どもに腕まくり 古谷 清子
秋暑し主の居ぬ家に草生ひて 小山 禎子
池の面に鯉のあぎとふ秋暑かな 中谷恵美子
迂回路で城を巡るや秋暑し 原田千寿子
秋暑し片イヤリング探しつつ 乾 厚子
朝刊に残る暑さやけだるさや 宇野 晴美
秋暑しブラームス聞く夕間暮れ 金子 良子
再検査の結果待ち侘ぶ残暑かな 鎌田 利弘
右肩に残る疼きや秋暑し 五味 和代
マラソンの帽子も替ふる残暑かな 小薮 艶子
遣り水の日課欠かせぬ残暑かな 髙松美智子
秋暑し所在無さげに鹿ねまる 竹内美登里
空調を止めて実感秋暑し 大木雄二郎
秋暑し介護申請提出す 児島 昌子
焼肉の脂身多き残暑かな 野村よし子
補聴器の調子ととのふ残暑かな 中尾 礼子
残暑なほ朝の一刻のみ歩き 中野 尚志
眠りてもまだまだ眠き残暑かな うすい明笛
後回しにする事多き残暑かな 武田 風雲
この年は記録づくめの残暑かな 松井 春雄
秋暑し垢離取り不動は暗渠沿ひ 大澤 朝子
秋暑し買物に出る短時間 中田美智子
酒の助け借りても寝ねぬ残暑かな 中村 克久
秋暑し京都盆地の端に住み 新倉 眞理
秋暑しコンビニに買ふドリンク剤 山内 英子
蛇口より微温き水出る残暑かな 川尻 節子
グランドの砂を袋に秋暑し 長岡 静子
鳴る前の鐘の大きく秋暑し 志々見久美
秋暑しバス待つベンチ満席で 片上 節子
何もかも中途半端や秋暑し 田中せつ子
蒼天の日差し眩しき残暑かな 土屋 順子
特別なる残暑に疲れ残る日々 近藤登美子
踏み場なく畑の蔓伸び秋暑し 佐々木一夫
夜も窓を開けたままなる残暑かな 髙橋 保博
秋暑し発酵ジェラート到着す 寺岡 青甫
連日の残る暑さにやる気失す 板倉 年江
秋暑し終へるに難きいくさかな 大塚 章子
秋暑し眠気を誘ふ縁の風 住田うしほ
傾聴に残る暑さをものとせず 榎原 洋子
朝刊を開けば残暑とびだしぬ 遠藤 玲
残暑厳し三十五度の日の続く 太田美代子
喉元を過ぎても覚ふ残暑かな 越智 勝利
秋暑し草の伸びゐる畑かな 宮田かず子
秋暑し去年の暦めくります 河井 浩志
水やりの後にノンアル秋暑し 森田 明男
秋暑し屋根と自販機人集む 野村 絢子
雨降らず残暑ますますきびしくて 井上 妙子
秋暑し異常気象にあたふたす 竹中 敏子
秋暑なり傘寿の吾は傘杖に 片上 信子
老幼を苛めつけるやこの残暑 長浜 保夫
校庭の草引き奉仕秋暑し 米田 幸子
熱中症対策続く残暑かな 佐々木慶子
捕虫網揚げ走る子秋暑し 髙松眞知子
次回課題 朝寒・朝寒し・朝寒み
締 切 11月末日必着
巻末の投句用紙又はメールで、二句迄。編集室宛
メール touku-kumonomine@energy.ocn.ne.jp