◆課題俳句◆   岡田万壽美選


課題 朝寒・朝寒し・朝寒み
 よく晴れてはいるのに冷え込む晩秋の朝に感じる寒さのこと。今まで気持ちの良かった秋の朝も気温が下がって手足の指先に寒さを感じるようになると、もうじき冬が来るなと思う。そのような寒さをいう。「寒き朝」というと冬になる。  (中西夕紀)

新版角川俳句大歳時記より

朝寒やひとり墓前にうづくまる      正岡 子規
朝寒の人各々の職につく         高浜 虚子
朝寒や柱に映る竈の日          佐藤 紅緑
朝寒や花より赤き蓼の茎         内藤 吐天
くちびるを出て朝寒のこゑとなる     能村登四郎
朝寒の身に引き寄せて旅鞄        千原 草之
朝寒や牛の乳房のももいろに       塚原 静枝
朝寒や血の筋透ける犬の耳        仙田美津子



特 選

朝寒し魚鼓打ち鳴らす若き僧       乾  厚子

 〈魚鼓〉の読みは、ぎょく。「内部を刳った魚形の木製仏具。禅寺などで吊るし、諸事の知らせに打ち鳴らす」とあります。冬の到来が近い早朝の一景です。ひんやりとした空気の中に〈魚鼓〉の音が響きます。〈打ち鳴らす〉が力強く、〈若き僧〉に良く呼応していると思います。身の引き締まるような季節感がとても感じられました。

朝寒や夫に熱めの白湯供ふ        福長 まり

 変わりない日常になった朝の一齣の中にも、季節の移ろいがあり、その移ろいを亡くなられた御主人様と今も分かち合っておられるのだなと思いました。〈熱めの〉の一言に「今朝は随分冷え込みましたよ」とでも、心の中で話しかけているような暖かな情愛を感じました。

朝寒や駅の足湯のやや熱き        小澤  巖

 旅先の光景でしょうか。朝の散歩にでも出かけたのか、湯の町の駅前に設置された足湯を見つけました。どれどれと足を入れ〈やや熱き〉に少したじろぐ作者が見えました。手や足の指先が冷えていると余計に熱く感じますよね。季語の季節感が実感として読み手にも伝わりました。〈やや〉にぐっと堪えて我慢したのかなと想像しました♪

朝寒し湯気もうもうと中華街       酒井多加子

 横浜の中華街が有名ですね。関西圏では神戸の中華街も人気です。店の前で大きな蒸籠から上がる湯気に季節を感じた作者です。冷えた空気に〈湯気もうもうと〉が美味しそうです。年中売られていると思いますが、肌寒さを感じる季節の豚まん(関東では肉まん?)は格別ですよね♪
ちなみに季語の「湯気立て」は乾燥対策の為の湯気のことです。食べ物や飲み物の湯気は季語になりません。

朝寒や温めて嵌むる義歯ふたつ      伊津野 均

 何とも生活感がある句ですね。私はまだ義歯ではないので実感はわかりませんが、義歯の保管は水を入れた容器でしますから、やっぱり冷たいのかな。私でさえ妙にリアルに感じましたから、義歯の方は共感しますよね。その方法があったのか!と思った方は明日の朝から実行ですね♪



入 選

朝寒の庭に入りくる迷ひ猫        杉浦 正夫
鍬振ればばらばらと土朝寒し       島津 康弘
暁の星影まばら朝寒し          野添 優子
朝寒や石段にまだ夜の冷え        林  雅彦
朝寒や川の向かうに山羊の声       小林伊久子
鍛錬の子ら朝寒の声となる        田中 幸子
朝寒や二軍球場芝白む          髙木 哲也
朝寒や革砥の軋む理髪店         中尾 謙三
朝寒や玻璃越しの日の仄々と       藤田 壽穂
朝寒し犬が主人を引く散歩        中野 尚志
楽流し来る朝寒の集塵車         田中 愛子
袖口に拭く姿見や朝寒し         今村 雅史
朝寒し蛇腹の門を開くる音        谷野由紀子
朝寒や注射の後の絆創膏         新倉 眞理
朝寒の杜に鳴き合ふ鴉かな        原  茂美
朝寒やしつかと締まる血圧計       吉沢ふう子
朝寒や枯るる鉢にも水注ぐ        野村 絢子
朝寒や葉物に残る昨夜の雨        浅川加代子
朝寒み向き合ひて吹く熱き椀       香椎みつゑ
朝寒や厨に上がる粥の湯気        松井 春雄
朝寒にすり寄る猫の鈴の音        浅川 悦子
朝寒の川原を走る部活の子        大塚 章子
朝寒や身繕ひにも気合入る        上和田玲子
朝寒や今日は何日何曜日         中村 克久
人の波吸ひ込む工場朝寒し        春名あけみ
朝寒や山も校舎も靄の中         瀬崎こまち
朝寒のリュックを前にバスを待つ     河原 まき
朝寒や電車の遅延大幅に         井上 白兎
朝寒や束ねて髪の痩せしこと       志々見久美
朝寒の猫は散歩を控へ目に        水谷 道子
朝寒し上着増やしてウォーキング     米田 幸子
朝寒に負けぬ大声登校児         髙松眞知子
午前四時朝寒をもう一眠り        山地 高子
桟橋の揺るる天草朝寒し         岡山 裕美
田舎味噌溶かす小鍋や朝寒し       川口 恭子
旅先に夫倒るる朝寒し          木村てる代
朝寒し眼鏡曇らす汁の湯気        住田うしほ
朝寒やホットサンドとミルクティー    田中よりこ
朝寒の手を温めるカフェオーレ      冨土原康子
朝寒の寝床に手足曲げ伸ばす       宮永 順子
朝寒や古き厨に花一輪          榎原 洋子
朝寒し闇を貫く鶏の声          髙橋美智子
朝寒や粗茶一杯に身をほぐす       松浦 陽子
朝寒や箒持とふか持つまひか       三原 満江
愉しみの一つはココア朝寒し       山﨑 尚子
朝寒の庭を横切るまだら猫        角野 京子
朝寒のアッサムティーの湯気白し     岡田ひろ子


佳 作

朝寒や改札出づる人の息         青木 豊江
朝寒や笑顔で児童迎へをり        越智千代子
背に鞄朝寒の中学び舎へ         近藤登美子
朝寒し鳥の鳴き声枝先に         髙橋 保博
朝寒の厨で急ぎ味噌をとぐ        村川美智子
窓開けて仰ぐ青空朝寒し         板倉 年江
朝寒や小犬も服を着せらるる       小山 禎子
朝寒し市場出荷の野菜積む        深川 隆正
朝寒し路地に重なる水の音        船木小夜美
老い集ふラジオ体操朝寒し        三澤 福泉
朝寒や視線そらさず急ぐ道        渡邉眞知子
線香の燃え残り捨つ朝寒し        小見 千穂
朝寒や一枚羽織りごみ出しに       高橋 佳子
朝寒や猫の体に手を添へり        松本 葉子
朝寒し新聞受けへ急ぎ足         山本 創一
朝寒や未だ野の景整はず         吉村 征子
朝寒し厨の窓の青き空          宇利 和代
朝寒やポストに重き朝刊紙        中尾 光子
朝寒や夜明けの星に背を押さる      平橋 道子
朝寒やマイナカードを捜しをり      松本 英乃
朝寒しまづは声出し手足出す       片上 信子
火伏札剝がるる厨朝寒し         今村美智子
朝寒し犬も服着る散歩道         うすい明笛
朝寒や静けさ誘ふ鐘の音         中谷恵美子
朝寒の札所に早やも人の影        西岡みきを
朝寒や禰宜の衣擦れ一段と        播广 義春
早足で月報配る朝寒し          糟谷 倫子
朝寒や日当たる道を選る散歩       小薮 艶子
朝寒し満員のバス通過せり        光本 弥観
朝寒の庭にさしゐる日ざしかな      宮田かず子
明けやらぬ駅へと急ぐ朝寒し       渡邊 房子
硝子戸に曇る六甲朝寒し         奥本 七朗
朝寒し乙女ヶ池に靄伝ふ         河井 浩志
朝寒に負けず水やり心地よし       森田 明男
朝寒の血圧を見る二度三度        武田 風雲
朝寒や小花を供花におとなりへ      片上 節子
朝寒や小学生の丸き背な         竹内美登里
朝寒や足にこぼるる手水かな       田中せつ子
朝寒や鈍くなりたる床離れ        土屋 順子
山並の常より近し朝寒し         穂積 鈴女
朝寒し隣の寝息たしかめて        井上 妙子
朝寒に目醒め静寂の明くを待つ      中尾 礼子
朝寒に頼りげのなき首周り        五味 和代
朝寒の味噌汁浸むる五臓かな       櫻井眞砂子
朝寒や首をすくめて塵だしに       冨安トシ子
朝寒にまづ確かむる温度計        松本すみえ
朝寒し取る朝刊のひんやりと       山内 英子
ゆつくりと動き出す村朝寒し       宇野 晴美
朝寒や思はず猫を抱きしむる       太田美代子
朝寒や一枚増やしウォーキング      鎌田 利弘
朝寒や一段高き鳥の声          児玉ひでき
朝寒しアラーム音を手探りて       斎藤 摂子
朝寒のアラームの音響きけり       関口 ふじ
朝寒し目覚まし押さへ二度寝せり     中田美智子
朝寒し出掛けの衣服迷ひけり       浜野 明美
朝寒や自転車をこぐ通学路        川尻 節子
久々に空気入換へ朝寒し         杉山  昇
朝寒や寝乱れ髪を湯でもどす       西山 厚生
朝寒しお悔み欄に知人の名        長岡 静子
朝寒や高嶺の色をまづ見遣る       佐々木一夫
朝寒し今日もみどりのおばさんに     寿栄松富美
朝刊に外気も届きて朝寒し        長浜 保夫
朝寒や小百合の歌に励まされ       寺岡 青甫
朝寒の登校の子の足早に         原田千寿子
カンバスの重なる窓辺朝寒し       大澤 朝子
朝寒や着信音に目覚めけり        北田 啓子
朝寒に患部に湿布貼りにけり       竹村とく子
朝寒やここが勝負の朝散歩        大木雄二郎
朝寒や犬の散歩の定時間         佐々木慶子
朝寒のバスに乗客五六人         野村よし子
朝寒し味噌汁の香の仄かな        本田  伝
体操の長袖増へり朝寒み         溝田 又男
朝寒し今日の一日を何としよ       布谷 仁美
朝寒し吐息を白く身をすくむ       古谷 清子
朝寒や突っかけはきてポストまで     金子 良子
朝寒し脳天の髪摩るたび         福原 正司





次回課題
初湯・初風呂・若風呂・若湯・湯殿初初湯殿

締  切
1月末日必着

巻末の投句用紙又はメールで、二句迄。編集室宛
メール touku-kumonomine@energy.ocn.ne.jp