若葉集選後所感           朝妻 力

 

大寒や皆に囲まれ逝きたまふ       児島 昌子

 同時発表に〈駅伝を二人で見ゐる三日かな〉〈粛々と在宅介護寒に入る〉があります。在宅治療か……と思うと次に〈在宅の介護敢え無し一月尽〉となり、そして掲句。驚いて同じ友人の糟谷さんに電話をしてしまいました。作者のご主人が一月に亡くなられたとのこと。しばし絶句してしまいました。二月号に〈金婚を二人で祝ふ小春かな〉を発表されたばかり。ご冥福をお祈りします。

風強しお菊の井戸に浮く枯葉       布谷 仁美

 同時発表に姫路城がありますので、播州皿屋敷に登場するお菊の井戸と分かります。家宝の皿十枚のうち一枚を無くした罪を着せられ、殺されて井戸に投げ込まれたお菊。井戸の中から「いちまい……にまい……」という声が聞こえたと言われます。正月休みで姫路に来られたのでしょうか。新居浜だけでなくあちこち吟行しておられる作者。吟行は見聞を広めてくれます。

初詣二礼二拍手三献吟          溝田 又男

 二礼二拍手は分かりますが、〈三献吟〉と締めたところが吟詠のプロと言える作者。ここは献吟を三回繰り返したともとれますが、同行の三人で吟詠を奉納したとも受け取れます。後に並んでいる人も居ない……ということでご自分で三回繰り返したのでしょうね。

山茶花の溜り場に吹く煽ち風       佐々木慶子

 〈溜り場〉と言いますと仲間がいつも集まる飲屋という印象ですが、山茶花の溜り場という把握に驚きました。散った山茶花が溜まる場所というニュアンスですね。咲き続けながら散り続ける山茶花だけに納得です。

怪我の妻支へて共に初湯殿        西山 厚生

 転倒して怪我をされたのでしょうか。在宅のご様子ですので不幸中の幸いというあたりでしょうね。奥様をかばいつつ初湯。作者の優しさが思われます。

ちいかわの綿あめふたつ初戎       野村よし子

 ちいさくてかわいいやつ……。漫画のタイトルの一部が日本語として成立したという印象があります。小さな綿飴を買った初戎。平仮名表記が多いのはお孫さんか曽孫さんを連れて出かけたからでしょうか。

坪庭に日だまりほのと春近し       井上 白兎

 太陽の位置が高くなってきますと、それまで影しかなかった場所にも日があたるようになります。まさに春近し。

練切の色もめでたき初茶湯        安齋 行夫

 和菓子の中でも、特に芸術性の高い上生菓子である練切。菓子匠・菓子職人の手作りであるだけに存在感抜群です。良い茶席だったことでしょうね。

句集手に背筋を正し読初めぬ       村川美智子

 読初と意識するだけで背筋の伸びる思いがしますが、知っている人の句集となると尚更ですね。句集は作者の生活実録という印象もありますので尚更です。

大潮に映ゆる鳥居の淑気かな       福原 正司

 広島にお住まいですので厳島の大鳥居でしょうね。三十年近く前になりますが、満月の夜に能「松風」を見たことを思い出します。海の上の舞台で松風・村雨姉妹が潮を汲む場面などに息を呑んだものでした。

にほどりの交互に潜る川面かな      杉本 綾子

 鳰、搔いつ潜りつということでカイツブリとも呼ばれます。交互に潜る……。残る一羽は外敵への見張りかも知れませんね。

春着きて見所に並ぶ顔なじみ       長尾眞知子

 演能を趣味としている作者。新年の能でありましょう。見所(けんじょ)は能を鑑賞する観客席。友人たちに励まされての仕舞です。

公園のそぞろ歩きや春近し        竹中 敏子

 寒の内と言われる季節でも、日差しが濃く、風の無い日があるものです。そんな時のそぞろ歩き、〈春近し〉を感じるものですね。

大つごもり凜とたたずむ常夜灯      古谷 清子

 大晦日、近くの神社に参詣したのでしょう。多くの石灯籠の火袋部分には、蠟燭がないのに円と三日月が彫られています。円は太陽、三日月は月。太陽と月で昼も夜も明るい、つまり常夜灯であるという標ですね。

手毬唄娘もやがて母親に         髙橋 保博

 歌を歌いつつ手毬であそんだ娘も、いまや母親……。特に子どもの遊びや歌はいつまでも幼時を思い出させてくれるものです。

白味噌か醤油かを聞き雑煮注ぐ      岡田  潤

 丸餅か切餅か、出汁は白味噌か醤油か……。雑煮のありようも様々ですが兄弟姉妹がそれぞれ所帯をもち、その連合いの生育地が違ってくる。その好みに合わせるのもまた楽しいものですね。

参道に白衣の小き竜の玉         天野 和男

 白衣と表現していますが、花の咲くとき蕾を覆っていた萼弁の残りでしょうね。見逃し易い萼片に目を付けるのも発見です。

淑気満つ神馬のおはす丹生の宮      中谷 房代

 丹生川上神社でしょうね。数年前から神馬が登場し、正月気分を盛り上げてくれます。今年は午年であるだけにぴったりの光景ですね。

大鍋に茶粥を炊ける小正月        松谷 忠則

 奈良では「おかいさん」と呼んで朝食の定番。小正月、お子たちも集まるのでしょうね。元日は雑煮膳でも小正月はおかいさん。郷土色豊かな作品です。

弾ませて子らの遊べる竜の玉       秋山富美子

 弾み玉とも呼ばれるように、竜の玉はよく弾みます。今のようにゲームなどの遊び道具がない時代、子たちは何でも遊び道具にしていました。

初夢や白馬に乗りて疾走す        磯野 洋子

 午年にふさわしい初夢。ただ乗っているのではなく、疾走しているのが凄い。良い年になるでしょうね。

懐かしや炬燵に入りてドロップス     井上 妙子

 缶入りのサクマドロップス。懐かしいですね。その佐久間製菓も一昨年に廃業。時代の流れを感じます。

福寿草仏のお慈悲あらはなり       宇塚 弘教

 福寿草に仏の慈悲を見る作者。智慧と慈悲は仏教の根幹。物の見えることが智慧に繋がり、仏前には明かりを灯します。慈悲は優しさ、思いやりで、その象徴として花を供えます。仏教者としてのごく自然な感慨が一句になりました。

葉を捨てて咲く力得る冬薔薇       神田しげこ

 枯れたり、弱っている所を風に吹き千切られている薔薇の葉。それを薔薇の木の意思であると感じたのが凄い。言われてみると、そんな気がしてきますね。

 



 ~以下、選評を書けなかった作品、当月抄候補作品から~

野仏に弾み遊べる寒雀          高岡たま子
一族の笑顔の揃ふ雑煮膳         平井 高子
初春を新居で祝ふめでたさよ       森田 明男
元日や熱出たる子を病院に        伊丹 弘子
春遅し地震の傷痕そのままに       扇谷 竹美
こんな夜は出合へさうなる雪女郎     大木雄二郎
初景色鳶高らかに舞奏づ         壷井  貞
初夢やある日の夫と二人の子       中尾 礼子
大寒の薄き陽を追ふ夕散歩        中野 尚志
判例の束を綴ぢゐる十二月        中村 和風
厚着して駒響かする将棋の日       野田 千惠
到着後タイヤハウスの雪を蹴る      日澤 信行
冬の日に二尺の蜂の巣が映ゆる      本田  伝
しんしんと降る夜に舞へる雪女      山本 創一
技決めて胸張る猿や春近し        井上 浩世
九坪なら苦にならぬ庭春近し       奥本 七朗
フォグランプに映る峠の冬の靄      越智加奈子
五分ほど夫を待たせて初化粧       加納 聡子
初芝居黄泉の帝王艶やかに        倉本 明佳
御降りに無骨なる庭潤へり        杉山  昇