春耕及び受贈俳誌より編集部抄出・敬称略
菩提寺も少子化盆の僧一人 春 耕 蟇目 良雨
己が影一蹴したるあめんぼう 〃 池内けい吾
お囃子に合はす骨切り祭鱧 〃 柚口 満
登高や長期記憶を遡り 藍 花谷 清
登り来よ堂の階苔の花 藍 花 谷中 隆子
終戦日核廃絶の舵をとれ 天 塚 宮谷 昌代
退庁の長き影濃し柳散る 凧 永沢 達明
海鳥も山鳥も来よ翌は秋 泉 藤本美和子
帯取れば涼新たなる一書かな いには 村上喜代子
桔梗や石の鳥居に石の門 伊吹嶺 河原地英武
経本の傍線にじむ去ぬ燕 岩 戸 中川 靖子
名物と娘に教へられ鰹喰ふ 雨 月 大橋 一弘
くらがりに白波見ゆる厄日かな 運 河 谷口 智行
何事も食事が大事藤の花 〃 茨木 和生
貼替へて壁の白さも今朝の秋 繪硝子 和田 順子
三叉路の広場に集ふ地蔵盆 円 虹 山田 佳乃
夾竹桃捨身の色と肯へり 沖 能村 研三
秋刀魚焼く妻をらぬ日に少し慣れ 架け橋 二ノ宮一雄
祝詞あげ正行井戸を浚ゐたる 春日野 中久保白露
ひよんの笛はたして雲の垂れ来る 火 星 山尾 玉藻
滴りの中に高野の五輪塔 かつらぎ 森田純一郎
捨案山子鴉が夜を連れてくる 加里場 井上 論天
尼寺の尼の絶え果て薄紅葉 雉 田島 和生
七夕へ子らの祈りの人形劇 京鹿子 鈴鹿 呂仁
学園を城と成したる町涼し 銀 漢 伊藤伊那男
八十年の生命継ぎし敗戦忌 〃 武田 禪次
天からも地からも手足原爆忌 くぢら 中尾 公彦
朝涼の山彦を聞くはじめなり 雲 取 鈴木 太郎
しろたへの真珠の潜む泉かな 群 青 櫂 未知子
笛の音を耳に残して踊果つ 香 雨 片山由美子
汗のすぐ乾くてふシャツ喉渇く 好 日 髙橋 健文
何かある今宵は火取虫の来ず 辛 夷 中坪 達哉
早苗田を染め上げ滋賀の夕日かな 嵯峨野 才野 洋
不作とて穴場は穴場茸採 山茶花 三村 純也
白桃の水の中ゆくつもりかな 儒 艮 久保 純夫
五月雨や蔵の茶房の床軋む 春 月 戸恒 東人
秋澄むや五十鈴の水の神々し 松 籟 山本比呂也
袖の中へ白秋の風吹き入れり 獅 林 梶谷 予人
芍薬の花びらはらと落つる午後 しろはえ 佐々木潤子
駆け抜けて芙蓉の風となりにけり 深 花 大木 雪香
開くでもなく秋扇のなんとなく 青海波 本城 佐和
錦秋は来世の如し遠く見る 青 山 しなだしん
忘れゐし情熱もどる白桜忌 青 瓢 浅井 惇介
一日中涼風起こしゐる木かな 栴 檀 辻 恵美子
海鳥の巣立ちは崖を落つること 空 柴田佐知子
海風や浜昼顔の転げ咲き 対 岸 今瀬 剛一
先頭を切るや夏野の草の丈 太 陽 𠮷原 文音
月に墨流す雲ある鵜飼かな 鷹 小川 軽舟
芒原かすかに見ゆる獣道 たかんな 吉田千嘉子
かはせみの刹那の影を目の端に 鶴 鈴木しげを
涼しさや地より響ける水の音 天 為 天野 小石
昔小町たりしを隠し踊笠 天 衣 足立 賢治
車百合迷子の人が見たと言ふ 朱 鷺 赤塚 五行
しらびその森霧雫とめどなや 夏 潮 本井 英
庭守が過ぐ春筍につぶやきて 夏 爐 古田 紀一
鉾立の縄の微塵のただよへる 南 風 村上 鞆彦
箸置は泪のかたち夏終る 鳰の子 柴田多鶴子
猪の跡激しく乱れ一位の実 年 輪 坂口 緑志
白々と蓮田を雨の通りけり 濃 美 渡辺 純枝
炎帝や大聖堂の闇深し 俳句春秋 岡本炎弥子
まづ水を買うて残暑の苑めぐる 初 桜 山田 閏子
美しき孤高と言へば薔薇一輪 春 野 栗林 明弘
千草の花売らるる銀座ど真ん中 帆 浅井 民子
昼寝してゐたること知る昼寝覚 幡 富吉 浩
立秋の半紙に包む高野槇 ハンザキ 橋本 石火
屋久杉の卓を囲みて西瓜食ぶ 半 夜 外山 安龍
配られし団扇手に手に市巡る ひいらぎ 伊藤 瓔子
桃の香や旬をいそしむ選果場 ひこばえ 切建 昇
台風過庭にどこかの竹ぼうき ひまわり 西池 冬扇
一輪車裏向けにあり盆の家 氷 室 尾池 和夫
涼しさを分ち米寿の同期会 姫路青門 中嶋 常治
その中に生も死もあり百日紅 諷 詠 和田 華凜
喝采の如しテープの鳥威 風 土 南 うみを
自転車の風の涼しき午後八時 松の花 松尾 隆信
習さんと仰いだ夏の大三角 窓 坪内 稔典
十六夜の風つかさどる浮御堂 汀 井上 弘美
その下にパワースポット雲の峰 岬 手拝 裕任
木の実降る音のさ中の和合仏 萌 三田きえ子
老骨に鞭打つ芭蕉巻葉かな 黐の木 田宮 尚樹
瓜汁やゆくりなく陽をたてかけて 門 鳥居真里子
沼川に残る暑さや板の橋 湧 渡井 一峰
せせらぎに和する恋歌風の盆 遙 照 花房 柊林
山寺や蟻に遅れて磴上る ランブル 上田日差子
大夕立パラパラ漫画めきて去る 燎 佐藤 風
風光る浪こすりゆく海燕 聊 楽 董 振華
水位標立つ長堤や赤とんぼ 若 竹 加古 宗也