春耕及び受贈俳誌より編集部抄出・敬称略
俳号の良雨を散らし夏書かな 春 耕 蟇目 良雨
ひと雨に田水のにほふ半夏生 〃 池内けい吾
暗転につぐ暗転の夏芝居 〃 柚口 満
パレットに海鳴りのいろ鱗雲 藍 花谷 清
秋日影江戸の続きの日本橋 藍 花 大高 翔
藤の実の長短が呼ぶ雨の粒 泉 藤本美和子
八月や寄する波音引く波音 いには 村上喜代子
英霊に洩れたる御魂天の川 伊吹嶺 河原地英武
秋日傘閉ぢ野仏へ一礼す 岩 戸 中川 靖子
盆休み古き運動靴を捨つ 雨 月 大橋 一弘
笛方はキルギスの嫁秋祭 運 河 谷口 智行
落鮎を食べほがらかに辻桃子 〃 茨木 和生
父と子の闘志重ねて雲の峰 繪硝子 和田 順子
不可解な青き地球へ星流れ 円 虹 山田 佳乃
太白の空に残暑のちぎれ雲 斧 はりまだいすけ
滝水や西行杖を冷しけむ 海 棠 矢野 景一
開き切りなにはともあれ水中花 火 星 山尾 玉藻
存分に白南風浴ぶる高御座 かつらぎ 森田純一郎
加里場てふ花野に憩ふ人と影 加里場 井上 論天
耳打ちの扇はつかに風送る 甘 藍 渡井 恵子
刻々と日は端山過ぎ百日紅 雉 田島 和生
風を聴く耳持ち夏のど真ん中 響 焔 松村 五月
鬼灯をもう鳴らせない片想ひ 京鹿子 鈴鹿 呂仁
白南風や島の教会開け放つ 銀 漢 伊藤伊那男
大夏野銀河鉄道始発駅 〃 武田 禪次
しがらみを捨つれば開く蓮の花 くぢら 中尾 公彦
風待の港に置ける走馬灯 雲 取 鈴木 太郎
鏡より泉への径はじまりぬ 群 青 櫂 未知子
新涼や色ふんだんに百味菓子 香 雨 片山由美子
月山を宙に浮かべて青田風 好 日 髙橋 健文
一文をこころに蔵し立秋忌 辛 夷 中坪 達哉
緑蔭や時折うごく犬の耳 嵯峨野 才野 洋
甲子園目指す円陣大夕焼 砂 丘 樽谷 青濤
納戸まで日射し届きて柿日和 山茶花 三村 純也
鎌倉の大路小路や秋の風 栞 松岡 隆子
刈草の流れてきたる分水嶺 秀 染谷 秀雄
南座のにぎはひ呼ばむ扇売 春 月 戸恒 東人
片蔭を食み出して行く若き人 松 籟 山本比呂也
打水の乾き始むる古本屋 白魚火 檜林 弘一
虫のこゑ未だに聞かず草哀し 獅 林 梶谷 予人
金魚鉢に声かけ夕餉支度かな しろはえ 佐々木潤子
枝先の熟柿の重さ軽さかな 深 花 大木 雪香
秋高しみづうみへ向き開く窓 朱 雀 田中 春生
風そよぐ音に吹かるる萩の夕 青海波 本城 佐和
水鏡して対岸の色葉かな 青 山 しなだしん
暗算のはたまた狂ふ汗の目に 青 瓢 浅井 惇介
峰雲や山いただきにもう一度 栴 檀 辻 恵美子
人通りまばらな道の春の風 草 樹 宇多喜代子
人間に九つの穴秋の海 対 岸 今瀬 剛一
炎天やスカイツリーは龍の骨 太 陽 𠮷原 文音
離れまで網代天井雨涼し 鷹 小川 軽舟
まどろみの中を雨降る夜長かな たかんな 吉田千嘉子
海底の昏さいぶかる昼寝覚 多摩青門 西村 睦子
俳人来息をひそめて蟻地獄 鶴 鈴木しげを
花はちすこの心臓の一個分 天 為 対馬 康子
色変へぬ松の下なる誓子の碑 天 衣 足立 賢治
峰雲へ水中翼が波を切る 朱 鷺 赤塚 五行
大岩魚が蛇を引きずり込む話 夏 潮 本井 英
明易し宿出て男さまよへる 夏 爐 古田 紀一
小諸なる城址にかがみ蟻地獄 南 風 村上 鞆彦
秋暑し黒礼服の値下札 鳰の子 柴田多鶴子
山門に玉虫拾ふ長崎忌 年 輪 坂口 緑志
猫の毛をつけ来し母が月の客 濃 美 渡辺 純枝
視界ゼロ霧の摩周湖深眠り 俳句春秋 岡本炎弥子
構へたる大阪城の大蟷螂 初 桜 山田 閏子
海見えてきし片蔭の男坂 春 野 栗林 明弘
山辺の道の柿とぞ獺祭忌 帆 浅井 民子
一身にこもり足裏まで残暑 幡 富吉 浩
雨傘の中まで雨や夏木立 ハンザキ 橋本 石火
抱一の一幅涼をいただきぬ 半 夜 外山 安龍
天辺に双子並びの木守柿 ひいらぎ 伊藤 瓔子
川干して漢四人の高笑ひ ひこばえ 切建 昇
珍しい小鳥の声よ盆の入り ひまわり 西池 冬扇
天空の郷に稲刈る声のして 氷 室 尾池 和夫
炎昼や象舎に象はおりませぬ 姫路青門 中嶋 常治
母がよく話す夜なり江戸切子 諷 詠 和田 華凜
初秋のひかり放てり塩むすび 風 土 南 うみを
汗の玉一粒眉の中にあり 松の花 松尾 隆信
ふらふらと薄暑を歩き親子丼 窓 坪内 稔典
こゑに出て碑をよむ実紫 汀 井上 弘美
工作に祖父も加はり夏休み 岬 手拝 裕任
夜は夜の波のとよもす新松子 萌 三田きえ子
山沿ひに夕立ありし濁川 黐の木 田宮 尚樹
庭師来て仲秋の寺刈り尽す 湧 渡井 一峰
うしろ姿人生語る秋遍路 遙 照 花房 柊林
伝言はいつもここから冷蔵庫 ランブル 上田日差子
ひとりには美しすぎる盆の月 燎 佐藤 風
大津絵の鬼の牙折れ土用干 若 竹 加古 宗也