沖 十月号 主宰 能村研三
昭和四五年、能村登四郎が市川で創刊。師系水原秋櫻子・能村登四郎。登四郎の美学を継承しルネッサンス「沖」をめざす。 [月刊] (俳句年鑑より)
今号は創刊55周年記念号となる。五年前の創刊50周年記念号の時もこの欄で紹介した。50周年記念号は「沖」出身で現代の俳壇で活躍されている多くの方々を紹介していたが、今号は現在の「沖」を中心の記念号となっている。
現在の副主宰の森岡正作氏、編集長の辻美奈子氏は著名な俳人だが、同人には広渡敬雄氏、荒井千佐代氏などの方々、そして若手ともいえる平松うさぎ氏、澤田英紀氏なども俳壇で活躍されている。
今号の特集は先師能村登四郎氏の蔵書「鷹の木文庫」から選ばれた55冊の俳書を55人の同人・会員の方々が紹介・評論している。
総数206頁の大部は結社の大きさを物語っているが、編集後記で辻美奈子編集長が「チーム能村」とも呼ぶ、能村研三主宰のご家族が労力を惜しまずに発行と運営に尽力されていることを述べている。
能村研三主宰作品「心あり」より
十薬にけふ荒涼の心あり
八月大名福耳を褒めらるる
貝殻の内の虹色晩夏光
炎帝が見る房総の逆さ地図
森岡正作副主宰作品「秋の風鈴」より
戦争を語り秋蟬高ぶらす
漁火に秋の風鈴応へけり
「濤声集」「蒼茫集」より
氷枕の中に山河や秋に入る 辻 美奈子
まづ耳がこの世を拾ふ昼寝覚 井原美鳥
波に聞く秋の言葉を聴くやうに 栗坪和子
萍やぽかんと開いた水面あり 広渡敬雄
一葉の旧居どんつき井戸涼し 平松うさぎ
桐は実に魂つねに波立ちて 荒井千佐代
「潮鳴集」より
秋立つや和紙に表と裏の白 鈴木基之
戦闘機彫りし手水舎青葉闇 古居芳恵
風鈴の音に破調の美学あり 澤田英紀
水羊羹どつちつかずの生返事 金光浩彰
向日葵や長生きできさうな予感 杉原かほる
新盆は寂しこんなに飾りても 坂下成紘
「沖作品」(能村研三主宰選)より
一日を茹でこぼしたる大夕立 松倉聖子
田植終ふ昨日とちがふ風生れ 小野寺東子
八月や何が何でもアカンこと 井上竜太
オルゴールの螺子巻く夕べ合歓の花 菅原ひろ子
蚊取線香歌ごゑ喫茶のマッチかな 田中数江
今後ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。