<俳誌紹介>    伊津野 均

栴檀  十月号   主宰 辻 恵美子

 平成一四年五月、辻恵美子が各務原市で創刊。師系沢木欣一、細見綾子。「俳句のまこと」を根底に即物具象、写生を重視。     [月刊] (俳句年鑑より)
 辻恵美子主宰は「風」同人としてその終刊まで沢木欣一、細見綾子両氏に師事し、その間、昭和六二年に角川俳句賞を受賞された。「栴檀」を創刊したのは、「風」が終刊となった平成十四年で強い師系を感じる結社だ。今号の巻頭の「今月の句」にも両師と辻恵美子主宰の句が並ぶ。
 「栴檀」は拠点の岐阜県各務原市から、愛知、三重の中京地域が中心だが、辻恵美子主宰を慕う会員は全国に広がっている。
誌面では「蕪村の手紙」(古田徹生氏)、は連載五十一回目で蕪村の書簡からその人となりを推察する論考で興味深い。会員の作品鑑賞は「いぶき」共同代表の中岡毅雄氏。
辻恵美子主宰作品「蟬」より
一日中涼風起こしゐる木かな 
初蟬を昨日に骸一つある 
やはらかな波動に遠き蟬しぐれ 
またここに待つアカトンボ黄トンボ 
 「深林集」(自選)より
人の世を遥かに星の涼しさよ    市堀玉宗
夏蝶の影の揺らぎや男坂      古田徹生
 「緑樹集」(辻恵美子選)より
己より長きもの曳く子かまきり   後藤和朗
じつとしてをれば涼しと祖母言へり 古川照子
地下深きエスカレーター我鬼忌かな 清水雅子
泥土と同じ色して燕の子      藤田佑美子
板の間に猫の腹這ふ朝曇      鈴木和香
ズーム句会東京の蟬岐阜の蟬    野村かおり
泳ぎ着きついと振り向く蛇の首   岩田恵子
四万六千日あをあをと通り雨    佐々木光枝
ねころぶ子あぐらをかく子夏座敷  小高麻理
美容師に首筋の汗知られたり    安藤亮子
朝刊の少しおもたし文字摺草    古西謙佑
「栴檀集」(辻恵美子選)より
沢蟹や休耕田の崩れ道       杉原敏治
水中花聞かぬふりして聞いてゐる  永田良子
老いてなほ大きリボンの夏帽子   日下部久美香
ゆつたりと山中節や夏の月     松井栄子
踏ん張つて流されてゐるあめんぼう 藤原文枝
田植機の残せし角の手植ゑかな   梅田次郎
登校はいつも駆足夏旺ん      恩田紀世
白南風やどこから来たのと猫に問ふ 谷口洋子
梅雨寒やぐいぐい進む内視鏡    長谷部髙久
透き通る稚魚に影あり夏初め    金子多重美
イグアナのやうな這ひはひ天花粉  荒木則子
 今後ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。