<俳誌紹介>    伊津野 均

氷室  十二月号  主宰 尾池和夫

 平成四年一一月、金久美智子が京都にて創刊。師系石田波郷、小林康治。俳句は一人称。人生の重みをかけ、声調を張って詠え。  [月刊]   (俳句年鑑より)
 京都を中心に関西各地、北陸、広島、高知、長崎、関東まで会員が広がる大結社。尾池和夫主宰は平成三十年に主宰を継承されたが、京都大学の第二十四代総長を務められ自然科学(地震学)の泰斗。京大名物の「総長カレー」は尾池総長監修という、学生にも親しまれたお人柄。
連載読み物ではその尾池和夫主宰の『京都の地球科学』(380)、自然人類学者大石高典氏の『河童のアフリカ研究』(90)、愛媛大学教授の青木亮人氏の『季節と追憶』(83)とアカデミックな論稿が目を惹くが、一方会員同士の俳句鑑賞の頁も充実している。「氷室」は有季定型、歴史的仮名遣の表現形式でしっかりと俳句の伝統を守るが、作品の世界にはどこかナチュラルで大らかな気風がある。
表紙絵には妙心寺退蔵院の「瓢鮎図」がデザインされ、ここからも「氷室」の俳風が窺える。
 尾池和夫主宰作品「瓢鮎抄」より
冬波の打つ砂岩泥岩互層
震源は沖縄トラフ冬の波
小面の翳かすかなる冬灯し
確かめて正解この樹にこの落葉
 「霞袂集」より
恙なしと言へば嘘めく残暑かな   尾池 葉子
乱れ咲くものに迷へる秋の蝶    大島 幸男
業平道西へ西へと夕蜻蛉      古川 邑秋
次々に湧くクラムボン秋の水    大口 彰子
 「氷凌集」(尾池和夫選)より
塀のなき村の学校秋の空      大野 邦夫
そぞろ寒熊が出たぞと広報車    羽鳥 正子
母の家あきつが居間を通り抜け   鴻坂 佳子
今朝の秋見つけしと言ひ二度寝せり 西村みゑ子
 「氷壺集」(尾池和夫選)より
くきやかなる月の模様に月の出て  齋藤 亜矢
蜩や机に本をどかと置き      加藤  剛
阿弗利加に送る泡盛六十度     大石 高典
白むくげ少女の刻は短くて     田崎セイ子
新藁に腰かけ食ぶる小昼かな    前田 鈴子
 「氷室集」(尾池和夫選)より
客の夜具つぎつぎ干すや晩夏光   朝田 玲子
謂れなどなき町内の秋祭      有岡 萃生
まつたけ飯ブータン産とカナダ産  小嶌  和
そうろりと祖母の差し出す熟柿かな 鳥居 裕子