年輪 四月号 代表 坂口緑志
昭和三二年一月、橋本鶏二が名古屋で創刊。師系高浜虚子。自然の写生が、そのまま作者のいのちの立ち姿でありたい。[月刊] (俳句年鑑より)
今号で通巻八二〇号となる「年輪」は中京地区での歴史ある結社だ。終生、虚子に師事し、「ホトトギス」の巻頭句を取った鷹の句から「鷹の鶏二」とも評される独自の写生句の世界を構築した鶏二の「年輪」は、平成二六年に坂口緑志代表が継承し現在に至る。坂口代表は平成二八年に三重県文化奨励賞を受賞され、地域の俳句文化に貢献されている。会員の方々は中京地区(愛知、三重、岐阜)に広がり、十五を超える定例句会で切磋琢磨されているのが誌面からうかがえる。
坂口緑志代表作品「梅花黄蓮」より
猟夫小屋鎖し寒明の懸巣鳴く
美男葛池畔に萌えて白腹引く
梅花黄蓮日を恋ひ咲けり風の中
踊子のごとく舞ふ鶺鴒麦靑む
白腹は〈しない〉、鶺鴒は〈つつ〉と読む。実景を詠むなかでの自由な景物の取合せが新鮮に響く。
「汝鷹集」より
藁砧打つや土竜の寝を覚ます 西田 誠
弁財天開扉綿虫ももいろに 永井みよ
とれさうな釦を千切る開戦日 山口南海子
「山塊集」より
冴ゆる屍にわが衣着せかけ柩閉づ 坂倉 公子
随身門に吹く風に鳴る蓮の骨 三浦 葵水
行者仏横の穴より狐の香 鈴木 幸代
「雑詠」(坂口緑志選)より
大年の焼鯛を売る魚の棚 野原 由紀
山門の小餅に亀裂寒に入る 下村 哲朗
もも色の抗癌剤や暖炉燃ゆ 小木曽みえ子
塔頭のどこも年縄法隆寺 日比 孝子
野島守磯馴の松に巣箱架く 駒木 逸歩
泉涸れ朽葉に蟹の屍を拾ふ 中上 淑子
梅擬の実の弾けたるリースかな 森岡 秀美
年の火に運ぶ消火器法被着て 千石三千絵
神饌の塩真白なる寒さかな 伊藤 純子
ホテルへと変はる監獄小春空 山中智恵美
聖夜祝ふ一人暮しの友招き 石井 郁代
酔ひつぶれ婿欠けてゐる初写真 平野よね子
毛糸編む椅子に正座の癖解かず 中西 定子
落ち鮎となりて流れに従へり 山下 隆展
手のひらの大綿に息かけてみる 伊藤 敏子
どう置いても傾いでしまふ榠樝の実 島井 節
空よりの便り風花手に受くる 稲垣 桂
秋の野の匂ひの中に橋のあり 古賀 町子
今後ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。