460回 主宰選
(8月15日更新)
特選
標高差五百余段の麦畑 板倉 年江
大麦の揺れて煌めく棚田かな 上西美枝子
麦の穂や卑弥呼伝説彷彿と 中川 晴美
熟れ麦やゆつくり移る雲の影 伊藤 月江
夏の霧帝蜂起の山隠す 小澤 巖
夏霧やながながとゆく貨車の列 伊藤 月江
夏霧の濃き蓼科に獣の目 中村 克久
暮れなずむ翠微彩る合歓の花 瀧下しげり
煎餅手に子らが寄りくる鹿子だまり 中川 晴美
梅雨明けて満艦飾の庭清し 髙松美智子
龍のごとき噴煙上がる梅雨晴間 島津 康弘
入選
麦熟るるうどん県てふ友の里 田中よりこ
夏霧の晴れてくつきり利尻富士 角野 京子
麦は穂に河童の住める筑後川 島津 康弘
近江線の車窓に揺るる穂麦かな 松井 信弘
麦の穂の供へられたる神の前 原田千寿子
三輪山の麓に光る麦畑 谷野由紀子
麦畑の畦に広ぐる小き茣蓙 三澤 福泉
雨粒に跳ねては揺るる麦畑 星私 虎亮
俺といふ五歳の声や麦畑 瀧下しげり
麦の穂の見えて故郷近づきぬ 榎原 洋子
麦畑押し相撲取る昔ふと 西岡みきを
夏霧のかかる港をフェリー出づ 斎藤 摂子
ほんのりと夏霧残る瀬戸の海 西岡みきを
夏霧や高雄の渓の音澄みぬ 髙松美智子
夏霧から千木立つ社あれにけり 島津 康弘
夏霧の中をゆるりとロープウエー 松井 信弘
夏霧をぬけてホテルに到着す 金子 良子
切岸を湧き上がりくる夏の霧 木村てる代
けふもまた山嶺かくす夏の霧 瀧下しげり
摩耶山の中腹覆ふ夏の霧 上西美枝子
夏霧に溶岩ドーム隠れけり 板倉 年江
夏の霧前行く人の靴の音 五味 和代
夏霧の仄漂へる阿蘇五岳 原田千寿子
夏霧の中へゆつくりケーブルカー 田中よりこ
麦畑の先は断崖空青し 角野 京子
夏霧のまとふ丘より鐘の音 中川 晴美
白鳥の化身のごとき半夏生 大塚 章子
鮎釣りや膝に跳ねゐる水の綺羅 小澤 巖
正夢の続く母の忌水を打つ 関口 ふじ
梔子の花の香閨の闇に濃し 板倉 年江
待ちくるるバスへ駆け行く梅雨晴間 上西美枝子
炎昼の怪しく動く恐竜像 田中よりこ
灼熱に挑むが如く夾竹桃 うすい明笛
麦噛むや少年の日のガム代り 中村 克久
向日葵の並ぶ投票期日前 谷野由紀子
古着市に若人集ふ梅雨晴間 松井 信弘
耳成を見晴らす陵墓麦の波 五味 和代
掘割に亀の顔出す梅雨晴間 西岡みきを
夏の園樹下に寄り来る鳩しづか 榎原 洋子
透き通る裏見の滝のしぶき浴ぶ 原田千寿子
山の日や川瀬に魚を追ふ猿 三澤 福泉
佳作
一面に麦の穂揺るる黄金波 住田うしほ
麦の穂の出揃ふ丹波父帰る 春名あけみ
夕日差ぎゅうぎゅう詰めの麦畑 日澤 信行
ハーモニカ途切れとぎれに麦畑 うすい明笛
熟れ麦や瓦まぶしき石見窯 小澤 巖
きのふけふ細波染むる穂麦かな 関口 ふじ
夏霧や急いて急かされツーショット 山下 之久
陽光の乱反射して夏の霧 星私 虎亮
夏霧や生駒の山を登り行く 渡邉 房子
夏霧の鳥居の奥に社あり 大塚 章子
凌霄や暗渠の水の密やかに 伊藤 月江
サングラス外せぬ晴の小買物 斎藤 摂子
ハルカスの膝下に響く作り滝 角野 京子
海開き清掃作業に高齢者 山下 之久
感想と添削
原句 よばし麦炊きたるころの過ぎりけり
感想 歳時記になし。また季節も幾通りかあり添削できません。再考して下さい
原句 麦畑シャラシャラと風通り過ぐ
感想 日本語はひらがなで……。ただし他の擬音語が合うようです
添削 麦畑風さらさらと通り過ぐ 渡邉 房子
原句 麦畑に隠れ小便している子
感想 いる→ゐる となります
添削 麦畑に小用を足すをとこの子 中村 克久
原句 焼魚ですます昼餉や麦の飯
感想 報告調から脱出します
添削 麦飯やこんがり香る焼魚 浜野 明美
原句 近在に麦畑消えし令和かな
感想 場所の説明になりました
添削 世は令和いよよ消えゆく麦畑 山下 之久
原句 雨止んで麦の穂揺るる湖の夕べ
感想 定型に……
添削 雨止んで麦の穂揺るる夕べかな 大塚 章子
原句 日輪に琥珀の穂麦揺蕩ふり
感想 揺蕩ふの命令形 揺蕩へ なら「り」がつきます
添削 日輪に琥珀の穂麦揺蕩へり 髙松美智子
原句 麦飯の匂ひと色の記憶かな
感想 匂ひ → 匂
添削 麦飯の匂と色の記憶かな 斎藤 摂子
原句 一陣の風にゆれいる麦畑
感想 いる→ゐる
添削 一陣の風にゆれゐる麦畑 金子 良子
原句 篠笛の音色に染むる麦の風
感想 五段なので染まる。ただ意味がややこしいです
添削 篠笛の音を乗せ来る麦の風 五味 和代
原句 夏の霧湖面の揺らぎや風渡る
感想 三段切れになりました。霧のときは無風か、弱風です
添削 夏霧や湖面に小き風渡る 榎原 洋子
原句 夏霧に橋の登りの浮き上がる
感想 登りのがややこしくしてしまいました
添削 夏霧に宮の朱の橋浮き上がる 日澤 信行
原句 国後は隠れまた出づ夏の霧
感想 主語を明確にします
添削 国後をまた隠したる夏の霧 住田うしほ
原句 廃屋の旅館に深く夏の霧
感想 廃屋の旅館、違和感があります
添削 廃屋となりたる旅館夏の霧 うすい明笛
原句 ロープウエイ夏の霧となりにけり
感想 語調を整えます
添削 夏霧のなかゴンドラの登りゆく 浜野 明美
原句 山近き大和平野や夏の霧
感想 一歩踏み込んで把握します
添削 山四囲に大和平野や夏の霧 谷野由紀子
原句 鐘の音を包む夏霧塩くれ場
感想 少し表現を変えてみます
添削 夏霧や鐘の聞ゆる塩くれ場 三澤 福泉
原句 吊橋の途中佇み夏の霧
感想 中七違和感があります
添削 吊橋に立ち夏霧に受く心地 関口 ふじ
原句 大阿蘇の草千里てふ夏の霧
感想 夏霧の名が草千里となってしまいました
添削 夏霧の覆へる阿蘇の草千里 春名あけみ
原句 青紫蘇や笊いつぱいに小走りに
感想 主語がはっきりしません
添削 青紫蘇を摘みたる笊を抱へくる 星私 虎亮
原句 丹念に袋掛けやるぶどう棚
感想 袋掛・葡萄棚、季重りです
添削 丹念に袋掛けゐる老夫婦 金子 良子
原句 登り来てお花畑の出現す
感想 主語が不明確です
添削 登り来てお花畑のなかに立つ 住田うしほ
原句 休み田の草深々と夏の虫
感想 冬の季語に休め田がありますのでややこし
添削 休耕の田の草深し夏の虫 木村てる代
原句 朝一にゆっくり煮出す麦茶かな
感想 促音・拗音も大きく表記します
添削 朝一にゆつくり煮出す麦茶かな 日澤 信行
原句 花合歓の色濃き朝やつづら折り
感想 二句一章でなく一句一章の内容です
添削 花合歓の色濃き朝のつづら折り 春名あけみ
原句 水打って暖簾の藍を匂わする
感想 促音・拗音も大きく表記します。匂はする、連体形
添削 水打って暖簾の藍を匂はしぬ 浜野 明美
原句 炎昼の万博の列延々と
感想 ここはやで切ります
添削 炎昼や万博の列延々と 渡邉 房子