シリウス宇宙句会 選評

 

 444回  主宰選

(4月15日更新)

 

 特選

日差し来て風よき春野いよよ濃し     平井 紀夫
春の野に上目遣ひの山羊を撫づ      田中よりこ
春の野の起伏に遊ぶ黄の帽子       上西美枝子
春の野に健脚自慢の翁人         山下 之久
日当りて蕾膨らむ西行忌         吉村 征子
姿よき尉を一句に西行忌         山内 英子
円位忌や島発つ子らへ銅鑼高く      小澤  巖
スコップではがす路肩のざらめ雪     日澤 信行
雪加鳴く武蔵の国の尼坊址        中村 克久
焙炉場の昼を灯せる太格子        角野 京子

 入選

少女らの声清かなる春野かな       三澤 福泉
春の野に立杭焼の煙立つ         角野 京子
春の野や幼馴染の笑ひ声         藤原 俊朗
ウォーキングの靴にやさしき春野かな   小澤  巖
春の野に青空映るにはたづみ       原田千寿子
穏やかなる気配ただよふ春野かな     日澤 信行
パラグライダー春野へとんと降りにけり  今村 雅史
万葉人のつもりで巡る春の野辺      吉村 征子
知り人に会うて別れて春の野辺      伊藤 月江
春郊や新羅より来し石仏         島津 康弘
春の野にゆるりと足を伸ばしけり     谷口智恵己
主婦なるを忘るる一日春の野に      浜野 明美
春野にてホップステップジャンプかな   関口 ふじ
外つ国の子らの声ある春野かな      山内 英子
山裾へ春野横切るハイウェー       瀧下しげり
春の野に食べらるる草学びけり      谷野由紀子
春の野や深きところに弁財天       春名あけみ
春の野の四方に聞こゆる水の声      大塚 章子
花の香にぼんぼり灯る西行忌       谷野由紀子
降り続き明日は晴れとか西行忌      伊藤 月江
世評高き映画見に行く西行忌       板倉 年江
はなむけに花束贈る西行忌        関口 ふじ
香の高き抹茶いただく西行忌       上西美枝子
花巡る老いのひと日や西行忌       三澤 福泉
たたなづく吉野の山や西行忌       大塚 章子
西行忌吉野の山に風の鳴る        住田うしほ
西行忌硬貨の光る庵の屋根        斎藤 摂子
野に臥せば風音ばかり西行忌       中村 克久
濡れ縁に鳥声を聞く西行忌        角野 京子
春の野に大の字になる子犬かな      星私 虎亮
戌の日の宮の手水に春日燦        平井 紀夫
潮風や花菜の色に身を融かす       島津 康弘
梅東風やハート型なる絵馬ゆれて     松井 信弘
瓦礫背に少女はミモザ抱いてをり     山内 英子
浅春の日差しに凛と竹矢来        藤田 壽穂
結願へ踏み出す一歩山笑ふ        板倉 年江
椿落つ何に抗ふこともなく        吉村 征子
手水舎の龍凛と笑み水温む        谷野由紀子
冴返る山頭火碑の字の薄れ        原田千寿子
七輪を並べ賑はふ梅見茶屋        中川 晴美
手の甲にメモするナースあたたかし    浜野 明美
吾ひとり囀の野を歩きけり        星私 虎亮
春北風や雨戸を三晩打ちつづけ      今村 雅史
まほろばの風に色ふる春の野辺      伊藤 月江
傘寿きて卒寿を目指す弥生かな      山下 之久
告白し初恋を終へ卒業す         関口 ふじ
真白なる着物の男雛女雛かな       上西美枝子

 佳作

春の野に師らと楽しむ抹茶かな      金子 良子
春の野の脇に清けき水の音        木村てる代
つぎつぎと野鳥飛び来る春野かな     松井 信弘
春の野や焜炉に煙匂ひ立つ        斎藤 摂子
剣山にブラシ掛けたる西行忌       星私 虎亮
西行忌見頃迎へて梅真白         藤田 壽穂
西行忌辞書から消えぬ恋と愛       山下 之久
嵯峨野路を巡る夕暮西行忌        平井 紀夫
西行忌会ひたき人に会ひに行く      田中よりこ
西行忌ほこりを払ふ旅鞄         うすい明笛
ポイント券を人に譲れる西行忌      五味 和代
竹内峠の往来今も西行忌         瀧下しげり
峰々に風音はしる西行忌         島津 康弘
足弱くなりし散歩や西行忌        藤原 俊朗
菜園は祖母の生き甲斐花苺        田中よりこ
梵字ある槍の矛先冴返る         五味 和代
造り渓の春の小川の苑そぞろ       斎藤 摂子
あれこれの薬の儀式春の宵        住田うしほ
手に余る春キャベツ置く厨かな      金子 良子
春耕や土の息吹も掘り上げて       瀧下しげり
寒明や夜明けの鴉かしましき       大塚 章子
 


  感想と添削

   感想と添削
原句 春の野にけふピカピカの滑り台
感想 ここは平仮名の方がいいです
添削 春の野にけふぴかぴかの滑り台       中川 晴美

原句 春の野に耳吹き抜ける風を聴く
感想 抜ける→抜く。文語連体形は抜くるです
添削 春の野に耳吹き抜くる風を聴く       住田うしほ

原句 春の野の朱雀門より始まれり
感想 朱雀門より何が始まったのか?春の野が始まったのであれば「の」誤用です
添削 朱雀門より春の野の始まれり        藤田 壽穂

原句 幼子の犬と戯る春野かな
感想 戯るは終止形。ここで切れてしまいます。戯(ざ)れゐるとしましょう
添削 幼子の犬と戯れゐる春野かな        西岡みきを

原句 春の野に保母の掛け声子らの声
感想 今、保母は多くの人が使いません
添削 春の野に保育士の声子らの声        うすい明笛

原句 春の野行き山行き寺を巡りけり
感想 打込みミスか……
添削 春野行き山行き寺を巡りけり        板倉 年江

原句 春の野や田畔のものも香りけり
感想 ……や……けり になりました
添削 春の野の田畔のものも香りけり       大野 照幸

原句 春の野に子らは走りて散り散りに
感想 一句に一箇所、切れをいれます
添削 春の野や子らは走りて散り散りに      五味 和代

原句 春の野の百花の香りに咽せにけり
感想 中七は極力定型に……
添削 春の野の息吹く香りに咽せにけり      中村 克久

原句 寝ねかて葛湯吹きゐうる西行忌
感想 寝ねかてに で成語とします。葛湯は冬にて要一考
添削 寝ねかてに白湯を吹きゐる西行忌      木村てる代

原句 満開の桜にもたれ西行忌
感想 もたれ……連用形ですが受ける用言がありません
添削 満開の花にもたるる西行忌         浜野 明美

原句 東山の庵尋ねぬ西行忌
感想 活用は合っているのですがあまり見ない形です
添削 東山の庵尋ぬる西行忌           松井 信弘

原句スタッフに手を合はす母西行忌
感想 母と西行忌の取合せになりました。切らずに繋げます
添削 スタッフに母手を合はす西行忌       金子 良子

原句 弘川の万の花を訪ふ西行忌
感想 定型に……
添削弘川の万の花訪ふ西行忌          中川 晴美

原句 大カバンの中身片付く西行忌
感想 かばんは日本語ですので、かばん又は鞄
添削 大鞄の中身片付く西行忌          日澤 信行

原句 深吉野のやはらかき雨西行忌
感想 深吉野は多くの人が東吉野と思ってしまいます。→石鼎の影響
添削 吉野路の雨やはらかき西行忌        今村 雅史

原句 望む時死に入る人や西行忌
感想 中七要一考です
添削 望み通りの忌日と言へり西行忌       大野 照幸

原句 松山の波穏やかに西行忌
感想 波が浮いています
添削 松山の風穏やかに西行忌          谷口智恵己

原句 波音も寄せくる波や西行忌
感想 上五~中七、要一考です
添削 波音も寄せくる波も西行忌         春名あけみ

原句 雨後の古刹しづもる西行忌
感想 ふつうにはウゴと読みます。読者を迷わせないように
添削 雨止みて古刹しづもる西行忌        原田千寿子

原句 白峯寺に妻ともとほる西行忌
感想 ここは白峯寺を でしょうね
添削 白峯寺を妻ともとほる西行忌        西岡みきを

原句 空家の庭手つかずの蕗の薹
感想 アキヤと読まれてしまいます。言葉を選び直します
添削 人住まぬ庭手つかずの蕗の薹        小澤  巖

原句 縁台に小花散らすや沈丁花
感想 散らすや 疑問形かと思われてしまいます
添削 縁台に小花散らせる沈丁花         谷口智恵己

原句 クリスタルに浮かべ艶やか冬すみれ
感想 水晶・結晶などの意もあります。また春季に……
添削 艶やかに硝子器に浮く菫かな        西岡みきを

原句 剪定の切口冴ゆる跡二つ
感想 冴ゆ、冬の季語です
添削 剪定の切口が早乾きゆく          大野 照幸

原句 浅春や「ああ上野駅」の碑ぽつん
感想 おもむきを変えてみます
添削 ああ上野駅の碑包む春日差し        三澤 福泉

原句 花は葉に土の匂ひの百葉箱
感想 土匂ふ、春の季語です
添削 雨止みて百葉箱に土匂ふ          春名あけみ

原句 受験子の身体気遣ひ一日過ぐ
感想 身体はシンタイ。カラダであれば体
添削 受験子の体気遣ひ一日過ぐ         木村てる代

原句 不揃に伸びし土筆や児童達
感想 子どもたちが不揃いと言いたいのかな……
添削 不揃ひに伸びたる土筆子らが駆く      藤原 俊朗

原句 ショパン曲奏づるごとく雪解水
感想 ショパン曲、読者が鑑賞できません
添削 ノクターン奏づるごとく雪解水       うすい明笛