458回 主宰選
(6月15日更新)
特選
木洩れ日に楚々とさ揺らぐほくりかな 中川 晴美
春蘭や尾根を越ゆれば有馬の湯 うすい明笛
本膳に春蘭添ふる喜寿祝 関口 ふじ
未練なく古きを捨つる更衣 中村 克久
前髪を少しく切りて更衣 中川 晴美
軽やかに色鮮やかに更衣 渡邉 房子
衣更へて肩のあたりの頼り無し 藤田 壽穂
ほくり咲き時代めきたる地蔵堂 伊藤 月江
側転を教へあふ子ら若葉風 松井 信弘
伏してなほ夢に散りくる滝桜 大塚 章子
花は葉に参道に選る陀羅尼助 中谷恵美子
鬼ノ城を遠に吉備路の麦の秋 小澤 巖
レコードの音色に浸る昭和の日 上西美枝子
入選
受付に春蘭香る歯科医院 上西美枝子
春蘭や木々に囲まれひつそりと 松井 信弘
春蘭や届かぬ崖に二輪ほど 板倉 年江
春蘭や母の遺せし鉢五つ 五味 和代
木漏れ日の中に根を張るほくりかな 瀧下しげり
春蘭の紫ゆるる和菓子店 大塚 章子
春蘭や庭の真上は薄曇 日澤 信行
春蘭や柴を刈りゐる母をふと 木村てる代
春蘭や風のかたちに立ちならび 星私 虎亮
家中の窓開け放し更衣 上西美枝子
今しばし急かすな急くな更衣 山下 之久
衣更序でに箪笥預金出す 板倉 年江
衿白きセーラー服へ更衣 瀧下しげり
半袖を箪笥に移す更衣 日澤 信行
今時の収納箱に衣更ふ 関口 ふじ
老けてよりルーズになりぬ更衣 斎藤 摂子
長き髪束ね少女の更衣 五味 和代
年毎に遅れ遅れて更衣 松井 信弘
衣更ひねもす回はす洗濯機 →回す 三澤 福泉
職辞して夫手慣れたる更衣 うすい明笛
更衣風花やげる通学路 →はなやげる 中谷恵美子
野良着にもささやかなれど更衣 島津 康弘
制服の白の眩しき更衣 原田千寿子
あれこれと記憶ひもとき更衣 伊藤 月江
師の句碑に降り注ぎゐる新樹光 藤田 壽穂
洋館の窓辺溢るるゼラニューム 三澤 福泉
青空を埋め尽くしたる樟若葉 うすい明笛
五百体の観音像や風薫る 原田千寿子
夏立ちて焼拉麺の焦げ旨し 関口 ふじ
老木の梢にちさく若葉見ゆ 斎藤 摂子
奈良町の鍾馗瓦や飛花落花 谷野由紀子
金印のちさきに見入る夏始 角野 京子
古きとて脇へやらるる種袋 瀧下しげり
母の日やおほきリボンの鉢の花 田中よりこ
朝上がり若葉萌へ立つ檀那寺 西岡みきを
日に照りて風のまにまに若楓 中川 晴美
谷若葉水百選の流れ染む 板倉 年江
住職が由来を語る春法会 金子 良子
吹かれゐる若葉に空の見え隠れ 浜野 明美
軽やかに薔薇園に押す車椅子 山内 英子
佳作
庭石の影に春蘭みつけたり 金子 良子
春蘭の在りし所に今はなし 山下 之久
春蘭やおとと二人と縁を切り 山内 英子
春蘭の気ままに増えて鉢の数 斎藤 摂子
一株を貰ひし春蘭咲き匂ふ 田中よりこ
じじばばの花の山路も遊びの場 角野 京子
先駆けて庭に春蘭咲きにけり 浜野 明美
碕風や春蘭香る古茶房 小澤 巖
春蘭や山の傾りの日溜りに 原田千寿子
春蘭の土の記憶の野山かな 榎原 洋子
更衣言葉飾らぬ人とゐて 春名あけみ
ハンガーの位置をどかして更衣 角野 京子
更衣鏡に常の顔のあり 浜野 明美
更衣普段通りの顔をして 星私 虎亮
吾の身過ぎ余生簡素と更衣 髙松美智子
更衣買ひ足すシャツのLサイズ 田中よりこ
姿見に余すサイズの衣更 木村てる代
衣更へて風かぐはしき野のホーム 小澤 巖
泣きながら傷を洗ふ子子供の日 島津 康弘
夏めくや窓少し開けJR 中村 克久
髪靡く浜の潮風春惜しむ 住田うしほ
感想と添削
原句 春蘭や朝日に花芽の色淡し
感想 何とか定型にします
添削 朝の日に春蘭の花色淡し 髙松美智子
原句 春蘭や吾なりの連休タイム
感想 何とか定型にします
添削 吾なりの連休タイムほくり見る 渡邉 房子
原句 春蘭の里山深くひそと咲く
感想 春蘭がとあるべき所。「の」誤用。添削例のように……
添削 里山の道春蘭のひそと咲く 住田うしほ
原句 春蘭咲く平家ゆかりの碑を仰ぎ
感想 春蘭が仰いでいることになります。少し離して……
添削 春蘭や平家たたふる碑を仰ぐ 藤田 壽穂
原句 粗朶拾ひし里の裏山ほくり咲く
感想 極力定型におさめます
添削 ほくり咲く粗朶拾ひたる裏の山 三澤 福泉
原句 春蘭の美し元興寺塔跡に
感想 詰め込み過ぎ。さりげなく読めるように……
添削 春蘭や塔跡広き元興寺 中谷恵美子
原句 鉄塔の下に春蘭埋めつくし
感想 下をとあるべき所。にを取りましょう
添削 鉄塔の下春蘭が埋めつくす 春名あけみ
原句 春蘭のぽつと咲ゐる大柳生
感想 動詞にて送りが要ります
添削 春蘭のぽつと咲きゐる大柳生 谷野由紀子
原句 春蘭の地植へ自慢す友をふと
感想 地植ゑ。自慢す、で切れます。切らずに続けます
添削 春蘭の地植ゑ得手なる友をふと 西岡みきを
原句 春蘭の杉の根方に色を秘す
感想 春蘭の杉という意味不明の語が成立します。「の」誤用です
添削 春蘭や杉の根方に色を秘し 島津 康弘
原句 春蘭や木理の美しき道標
感想 木理、余り疲れません。多くの人に分かるように……
添削 春蘭や木目の美しき道標 伊藤 月江
原句 春蘭が埋め尽くしけりビル狭庭
感想 ビル狭庭、要一考です
添削 春蘭が埋め尽くしけりビルの庭 中村 克久
原句 更衣断捨離などと考へて
感想 ここは「なども」でしょうね
添削 更衣断捨離なども考へて 谷野由紀子
原句 風に聞き空を見上げて更衣う
感想 更衣ふ となります
添削 風に聞き空を見上げて更衣ふ 山内 英子
原句 通学路白さ眩しき更衣
感想 通学路で切れます。切らずに一句一章で……
添削 通学の白さ眩しき更衣 住田うしほ
原句 更衣待ちかぬるやう街の熱
感想 表現を工夫してみます
添削 更衣商店街も熱気帯ぶ 大塚 章子
原句 行きつ戻りつ先にすすまぬ更衣
感想 極力定型に……
添削 行き戻り先に進まぬ更衣 金子 良子
原句 軽やかな自分に出会ふ更衣
感想 中七少し工夫してみます
添削 更衣済み軽やかにスーパーへ 榎原 洋子
原句 身も心もどつと若やぐ更衣
感想 極力定型に……
添削 心身のどつと若やぐ更衣 西岡みきを
原句 膝の癒え緩り卯の花腐しかな
感想 表現・季語を変えてみます
添削 膝癒えて緩り物干す夏の朝 髙松美智子
原句 山藤や車窓に房の連なりぬ
感想 中七以降要一考です
添削 車窓より山藤の房愛であひぬ 渡邉 房子
原句 信徒らの寺の奉仕は土用干
感想 ここは「寺の奉仕の」でしょうね
添削 信徒らの寺の奉仕の土用干 春名あけみ
原句 初節句らし先に葉付きの幟竿
感想 季重りになりました
添削 男の子でき先に葉付きの幟竿 五味 和代
原句 泣きずもうすべて引き分け風薫る
感想 すもう→すまふ となります
添削 泣きずまふすべて引き分け風薫る 木村てる代
原句 蚊蜻蛉が信号待ちをしてゐたる
感想 断定がきつい印象です
添削 蚊蜻蛉が信号待ちのごと浮きぬ 星私 虎亮
原句 晩酌のもつと飲みたいめかり時
感想 中七、口語になりました。夏の季語にしましょう
添削 晩酌のも少し欲しき夏の宵 日澤 信行
原句 諍ひの妻の目がゆく風車
感想 諍いをしている妻、動詞を「の」には出来ません。「の」誤用です
添削 諍へる妻の目がゆく風車 山下 之久
原句 矢狭間より一本桜真っ盛り
感想 真つ盛り。促音・拗音は大きく表記します
添削 矢狭間より一本桜真つ盛り 榎原 洋子