シリウス宇宙句会 選評

 

 461回  主宰選

(9月15日更新)

 特選

鷺草の鉢を飾れる荷茶屋          谷野由紀子
鷺草に日のやはらかき五色沼        うすい明笛
鷺草の向きそれぞれに咲きにけり      上西美枝子
新涼の火壇に残る杉小枝          板倉 年江
昨夜の雨光る木末や涼新た         中川 晴美
新涼や水源巡る阿蘇の旅          原田千寿子
雨止みて小風吹きゐる今朝の秋       田中よりこ
コンクリの壁に掴まる蝉の殻        西岡みきを
新涼や畳のへりの菱模様          伊藤 月江
暮れどきのそぼ降る雨も秋の色       中川 晴美
よく伸ぶる犬のリードや夕涼し       三澤 福泉
宍道湖の風の高さを去ぬ燕         小澤  巖
星々の距離は光年蚯蚓鳴く         今村 雅史
をちこちの造花萎るる墓参         関口 ふじ

入選

翁笑み両手で抱く連鷺草          三澤 福泉
鷺草や手入れされたる苔の庭        原田千寿子
鷺草の翼広げる遭難碑           中村 克久
鷺草や舞へるが如し飛ぶ如し        五味 和代
鷺草や群れて今にも飛びさうに       大塚 章子
鷺草の揺れの際立つ夕間暮れ        西岡みきを
鷺草や優雅に飛びて舞ふごとく       渡邉 房子
鷺草や風に舞ひつつ一日暮る        小澤  巖
鷺草を優しく示す山ガール         角野 京子
ひとむらの鷺草揺るる湿地かな       松井 信弘
鷺草や書道を教へますの札         今村 雅史
鷺草や水銹の浮ける湿原に         板倉 年江
鷺草や遺跡に風が吹き渡る         島津 康弘
鷺草に数多のまなこ集まりぬ        中川 晴美
秋涼し連れたち巡る札所寺         三澤 福泉
新涼の浜に拾へる貝の殻          田中よりこ
新涼や布透きやすき小町針         伊藤 月江
心地よき朝の目覚めや涼新た        上西美枝子
新涼や日光彫りを店先で          今村 雅史
新涼やポニーテールの女の子        西岡みきを
新涼や流るる雲も吹く風も         浜野 明美
新涼や支柱を越えし蔓の先         角野 京子
新涼の風に身さらす風呂上り        中村 克久
涼新た大きく開くる六畳間         金子 良子
新涼や絵皿に泳ぐ鯉の鰭          木村てる代
街路樹の葉擦れの音も秋涼し        小澤  巖
新涼や寝間吹き抜くる朝の風        うすい明笛
入江ごとに分かるる字や盆の月       板倉 年江
古民家や庭に添水とささら川        斎藤 摂子
夕闇の迫る城下に踊の輪          原田千寿子
天の川万里の果てへ滔々と         住田うしほ
猿茸の裏の湿りや尺を超へ         木村てる代
和箪笥に忘れしままの香水瓶        谷野由紀子
健康を願ひ七夕鶴を折る          浜野 明美
日直の教師に貰ふ金魚かな         山内 英子
盆花の要に庭の槙を剪る          角野 京子
海原に一艘もなき夏座敷          島津 康弘
さまざまな思ひのこもる花火かな      山下 之久
炎天や部活の子らが朝練に         松井 信弘
中伏の畑に菜屑の嵩高し          髙松美智子
鍛錬の矢音響かす夜長かな         星私 虎亮

佳作

鷺草の側に目覚し時計かな         日澤 信行
鷺草や君への文を投函す          山下 之久
鷺草の可憐と品の摂理かな         斎藤 摂子
湿原に鷺草の群れあでやかに        春名あけみ
新涼や親しき友の文来たる         榎原 洋子
新涼や降下ボタンのルビー色        谷野由紀子
朝食のお数は四品土用前          日澤 信行
庫裏の奥蓮の花咲き昼に閉づ        渡邉 房子
友退院と良き知らせあり秋涼し       五味 和代



 感想と添削

 感想と添削1 添削特選

原句 鷺草や茶器となつめに見惚れたり
感想 茶室の鷺草、情景が抜群です。見惚れたり、要一考
特選 鷺草や茶器となつめに相和して       関口 ふじ

原句 新涼や貴船の床に茶の点前
感想 床、季重りになりましたが良い場面です
特選 新涼や貴船の水を聞く点前         斎藤 摂子

原句 カレンダーにシフト書き込む涼新た
感想 涼新た、形容動詞でもあるので切れが曖昧です
特選 新涼やシフト書き込むカレンダー      日澤 信行

原句 新涼や水琴窟に耳寄せて
感想 て(連用格)の行き所がありません。ここは澄ますと切ります
特選 新涼や水琴窟に耳澄ます          松井 信弘

 感想と添削2

原句 鷺草を揺らする子らのけんけんぱ
感想 揺らす、五段ですので揺らするは無し。命令形揺らせ+る
添削 鷺草を揺らせる子らのけんけんぱ      星私 虎亮

原句 鷺草の今飛びさうに咲き並び
感想 今があるので「の」が主格を取ってくれません
添削 鷺草の飛びたちさうに咲き並ぶ       浜野 明美

原句 咲き誇る鷺草風に舞ひ初むる
感想 誇る、擬人化が強すぎる印象です
添削 咲き揃ひ鷺草風に舞ひ初めぬ        髙松美智子

原句 鷺草の白際立つる古城かな
感想 立るつ(立てる)は他動詞、ここは立つと自動詞にします
添削 鷺草の白際立てる古城かな         山内 英子

原句 清水を享けて鷺草飛ぶばかり
感想 清水、曖昧です
添削 水飛沫受けて鷺草飛ぶばかり        榎原 洋子

原句 縁側で鷺草めでる夕餉あと
感想 文語は愛づるとなります。辞書を引きましょう
添削 縁側で鷺草めづる夕餉あと         金子 良子

原句 鷺草の風に誘はれいやいやす
感想 鷺草の、風が続いていますので主語になってくれません
添削 連鷺草風に誘はれいやいやす        伊藤 月江

原句 鷺草の舞い立つごとく風に揺る
感想 舞ふ、ハ行ですので舞ひとなります
添削 鷺草の舞ひ立つごとく風に揺る       住田うしほ

原句 鷺草の飛び立つ構へに風わたる
感想 何とか定型にします
添削 鷺草の飛べる構へに風わたる        木村てる代

原句 鷺草の飛ぶが如きに揺れにけり
感想 如き、連体形です。如くと連用形に
添削 鷺草の飛ぶが如くに揺れにけり       田中よりこ

原句 新涼や朝ひとときの安らぎを
感想 安らぎを、言いさしが弱くなります
添削 新涼や朝のひととき安らぎぬ        大塚 章子

原句 新涼や出航まぢかの停泊船
感想 定型にします
添削 新涼や出航まぢかの貨物船         山下 之久

原句 新涼に篠笛習ふ七十かな
感想 下五不安定。作者のことにします
添削 新涼の縁に篠笛復習ひけり         山内 英子

原句 新涼の書き味も良し行書かな
感想 良し、終止形です。連体形にして行書に繋げます
添削 新涼の書き味も良き行書かな        関口 ふじ

原句 墨堂に暫し筆置く涼新た
感想 涼新たが形容動詞であるだけに切れが曖昧です。筆で切りましょう
添削 墨堂に暫し置く筆涼新た          髙松美智子

原句 朝勤行修する堂や秋涼し
感想 勤行と修する、意味が重なります
添削 勤行の聞ゆる堂や秋涼し          五味 和代

原句 新涼の青きサイロは点々と
感想 切れがありません。やで切りましょう
添削 新涼や青きサイロは点々と         春名あけみ

原句 朝取りの菜に新涼の水浴びす
感想 水浴びは作者。浴びさせるでは字余りですので
添削 朝取りの菜を新涼の水に浸く        島津 康弘

原句 とき忘れ思索に耽る涼新た
感想 涼新たは形容動詞。秋涼しなどとはっきり切れる季語を
添削 とき忘れ思索に耽る秋涼し         住田うしほ

原句 刈り取りの済みし菅田に涼新た
感想 菅田、意味が通じません
添削 刈り取りの済みたる棚田涼新た       渡邉 房子

原句 新涼や寄り来る波のしゆわしゆわと
感想 泡の印象がでてしまいます
添削 新涼や寄り来る波のしさはさはと      星私 虎亮

原句 鳳仙花弾け稚子の後退り
感想 稚子はチシ。字足らずになります。ややこと……
添削 鳳仙花弾けて稚児後退り          うすい明笛

原句 露天湯やデザイン知れる日焼女子
感想 中七、意味通りません
添削 露天湯に水着の跡の著き女子        榎原 洋子

原句 道畑へ堂々と這ふカボチャかな
感想 日本語はひらがなか漢字。道畑意味通りません
添削 堂々と道に太れる南瓜かな         春名あけみ

原句 青空にきりり鮮やぐ百日紅
感想 きりりと。とを省けないところです
添削 青空に鮮やぎてゐる百日紅         大塚 章子

原句 熟したる葡萄選びて茎を切る
感想 茎は実の生っている細い枝。本来は軸とか果軸かな……
添削 熟したる葡萄選びて切りとりぬ       金子 良子

原句 昼寝してコーチの怒声に目を覚ます
感想 字余りを直します
添削 怒りたるコーチに覚むる昼寝かな      中村 克久

原句 暑き日にシネマに流す涙かな
感想 に……にが気になります
添削 暑き日のシネマに流す涙かな        上西美枝子