おもいだしてごらんと園児木の芽吹く 朝妻 力
「おもいだしてごらん」は卒園式で歌われる定番の「おもいでのアルバム」に繰り返し出てくるフレーズ。それだけで9文字を占め、あとは「園児」と季語。そんなシンプルな19文字から鮮やかな景が浮かび余韻が膨らんできます。そして勢いのある季語により子どもたちの元気な歌声や明るい未来をも感じられとても楽しい一句と思います♪(上西美枝子)
虎が雨同じ夢見の続く朝 植田 耕士

「虎が雨」が季語。陰暦五月二八日は曾我兄弟が討たれた日で、この日は毎年雨になることが多い。この日の雨は、十郎祐成の愛人虎御前の涙が雨になったという。陰暦五月二八日は、今年は六月二三日であるが、建久四年(一一九三)から八三二年目の今年、果たして雨は降るのだろうか。また、母想い、嫁想い、弟想いの作者が続けて見る夢とはどんな夢だろう。真相はご本人に聞くしか無いが、色々と想像してしまうのです。(播广 義春)
未熟児の吾も育ちて喜寿の春 渡邊 房子
戦後まだ日も浅く、食料難や配給の言葉も残っていた時代に未熟児で生まれた作者。寒い日暑い日、又ミルクや離乳食などに、ご両親はどれ程ご苦労されたことでしょうか。今春、お元気に喜寿を迎えられ、なんとおめでたいこと!人生百年時代これからも益々俳句を楽しまれお元気でお過ごし下さい。因みに私は出生時九六〇匁。笑(平橋 道子)
とんとんと守宮起こして椅子畳む 河原 まき
守宮と書いて読みは「やもり」。夜行性で足の裏に無数の吸盤があり硝子窓や壁、天井を自由に移動します。門灯にじっと張り付いている姿は門番のようです。蚊や蛾などの害虫を捕食するので家の守り神とされ、白蟻やごきぶりも好物とか。椅子を畳もうとするとこんなところに隠れている(眠っている)守宮君を発見。心優しい作者は、指や棒でなくとんとんと振動を与えて起床の合図を送ります。(角野 京子)
根掛りと思へば眼張尺近し 朝妻 力
眼張は障害物に付きやすい魚で、海藻や岩などの地形変化に寄り添うことを好み、そこでプランクトンや小魚、甲殻類がやってくるのを待っている。サイズは20センチ前後がアベレージで、30センチを超えると尺眼張と呼ばれる。掲句は今まさに鉤(つりばり)が水底の障害物に引っ掛かったと思って苦労の末にあげたところ、何と30センチ前後の眼張がかかっていた、というのだ。これだから、釣りは止められない。(播广 義春)
晩鐘に尺取虫が頭上ぐ 朝妻 力
どこか楽しい光景です。尺取虫と晩鐘の取合せに意表を突かれ、この句が頭から離れなくなりました。(渡邉眞知子)
鮒投げて泥つけあつて田植待つ 小山 禎子
鮒取り神事は投げられた泥に当たると無病息災になるとのこと。始まる田仕事への祝、五穀豊穣を祈る……そんな思いの神事なのですね。(原 茂美)
珍しい鮒取り神事。楽しそうです。田植に先立ち用水路や池のメンテナンスをするのが祭の発端らしい。この池には通常は鮒はいないとのこと。用水路から捕まえてきて祭のために池に放つという。裏方さんのご苦労が偲ばれます。(島津 康弘)
ありのままに鮒取り神事の様子を詠まれ感心です。観客に鮒と泥を投げ付ける男衆とその泥に逃げ惑う子ども達の声が聞こえてくるようです。(岡山 裕美)
のんどりと売れ残りたる陶狸 河原 まき
すぐに信楽焼の大きな愛らしい狸を思いました。信楽の狸は「他を抜く」ということで、商売繁盛や縁起物として知られています。季語〈のんどり〉が良いですね。陶の狸は売れ残って、ホッとしているのか残念がっているのか?春ののどかさに陶の狸もうたたねをしているのでしょうか。いろんな事を想像しながら楽しく拝見しました。こちらまで、のんびりとした気持になりました。(浅川加代子)
深吉野に探す自販機蛙鳴く 伊津野 均
都会では三歩あるけば自販機、コンビニにあたると思うほど沢山あり、飲物など手にすることは、いともたやすい事なのですが……。美しい清流と深い山々に囲まれた自然あふれる東吉野村に、自販機は見つかったのでしょうね。主宰の句碑開きの折の景と思い浮かべながらも、〈深吉野に〉とうち出し、自販機のミスマッチ感のおかしさ、蛙の恋の季節を背景に楽しい一句。(吉沢ふう子)
軽き身のいよいよ軽し更衣 宇利 和代
季節に応じて衣服を替える軽やかな気分を表す季語です。作者はご高齢で痩身ながらとても元気な先輩です。句会にも15分余り歩いて来られます。爽やかに夏物に着替えられた作者、いつもよりさらに身も心も軽く感じられたのでしょう。(大塚 章子)
軽暖やまなぶた重き亀の石 中谷恵美子
「春耕・雲の峰」合同吟行での句。亀石はいつ何の目的で作られたのか明らかではないが、川原寺の四方の境界を示す標石の一つとの説があり、当時は北(玄武)を向いていたとか。この亀石には西を向けば大和盆地は泥沼になるとの恐ろしい伝説がある。今は南西を向き薄目を開けて悠久の時を楽しんでいる様に見える。この亀石の顔の特徴はぷっくりと盛り上がったまぶた。吟行当日の汗ばむような陽気に少し疲れ気味の作者が、亀石に辿りついた時の印象をずばり表現している。(角野 京子)
活断層を起こさぬやうに畑返す 志々見久美
春先に硬くなっている土を耕し、種蒔きや苗を植える準備をする作者。このとき活断層を起こさない様に耕すという。この発想に吃驚!寝た子を起こさない様にそっと畑を返しています。地震は深刻です。でも畑返し位で活断層が動くはずがありません!そこに俳味があり作者のユーモアセンスに拍手です。電気鯰じゃなくて活断層ですぞ。思わず笑ってしまいました。(瀬崎こまち)
藺の花を愛ででんがらを解きけり 五味 和代
でんがらは私の故郷の御餅です。旧端午の節句に粽と一緒につくります。男の子の健やかな成長を願う気持を込め、朴の葉と藺の花を山河に求めて、その形から男の子のシンボルとも楽しく語らいながら、作り繋いできました。朴の葉の香りはもちろんの事、あまり目立たないけれども可愛らしい藺の花に気がついて、そっと解く作者の笑顔が伝わってきます。私にとっては、故郷を詠んでいただいた嬉しい一句です。(中谷恵美子)
自転車をぎゆわんと加速夏に入る 岡田 寛子
立夏の頃は、身も心も軽くなり遠出などしたくなる季節です。初夏の青い空の下、風に向かって自転車を立ち漕ぎし、加速している元気いっぱいな様子が〈夏に入る〉という季語と呼応して、なんとも明るく楽しい気分にしてくれます。そして、なんといってもこの〈ぎゆわん〉という副詞が作者のウキウキした心持を見事に表現していると思います。私も〈ぎゆわん〉と新しい季節に向かっていきたいものです。(新倉 眞理)
亀鳴くや問診票に嘘少し 三代川次郎
「問診票」には気になる症状のほかに『お酒は飲みますか?タバコは吸いますか?運動はしていますか?』などたくさんの質問があります。三代川さんが問診票にかかれた「少しばかりの嘘」って何?〈亀鳴く〉という季語について歳時記を読みながら、『亀が鳴くなんて嘘に決まっている』と言わないで、遊び心と想像力でこれを季語として受け入れた先人のおおらかさ。三代川さんもそんなおおらかさで問診票を記載したのでしょう。もしかしたら、病院の先生もこの答は「亀鳴く」かなーと思いながら診察されたのかも。季語〈亀鳴く〉が〈嘘少し〉と響きあって楽しく鑑賞しました。(三澤 福泉)
三代のパラパラダンス昭和の日 野村よしこ
パラパラダンスは、足は余り動かさず主に手をまさにパラパラと左右、上下に振って見様見まねで誰でもできそうなダンス。これを幼児から老年迄三世代で踊るのである。娘二人に孫四人祖父母を入れて八人の大パラパラダンス。もっと多いか、少ないか、とにかく同じリズムで踊る楽しさ一体感は、核家族では味わえない。笑顔弾ける昭和の日です。(瀬崎こまち)
梅干すや襷掛けなる巫女三人 酒井多加子
巫女三人となると大きな神宮であろうと思う。関西で有名な天満宮は京都・大阪が思い浮かぶ。大阪の天満宮では梅干を縁起物としてお正月に、「大福梅」として授与されます。いつもは、厳粛な雰囲気に包まれ物静かに立ち振る舞っている巫女さんが常衣に襷掛け姿で笑い声も交えての作業に何時もの静かな巫女さんと、素に返って和やかに梅を干している三人のギャップが面白いと思います。(木村てる代)
