今月の著作・句集

☆執筆☆播广 義春

戦後俳句作家研究会(代表 鈴木太郎)著
「戦後俳句作家研究」

 「戦後俳句作家研究会」は超結社で評論を発表しながらお互いに批評し、勉強する会で、第一回の発表は、二〇一六年四月。戦後俳句のマンネリ化と師系の希薄化、総合誌の発表俳句作品の平均化、論争や評論の矮小化から、改めて師系の見直しを含めて何かをしようという機運が、ここに一つの集まりとなった、と鈴木太郎代表は述べている。約三十回の研究発表の中から今回掲載された執筆者は、稲田眸子、遠藤由樹子、佐怒賀直美、鈴木太郎、高井美智子、中山世一、二ノ宮一雄、蟇目良雨、松永律子、水野晶子の各氏で、蟇目良雨「春耕」主宰の論文は、「人間素十 出生の謎から読み解くこと」、「皆川盤水論」「かびれ」時代を検証する、の二篇。「かびれ」時代の水藻、磐水、盤水としての一八一句を発掘、内四五句は『皆川盤水全句集』に収録されているという。あとがきに、十年目に成果を披露出来て安堵していると記す。
風心社

山田佳乃著 「山田弘子の百句」

 著者は昭和四〇年一月大阪府生れ。平成十五年「円虹」入会、二〇年「ホトトギス」同人推挙、二二年母である山田弘子の逝去により「円虹」主宰就任。第二一回日本伝統俳句協会賞、第四回加藤郁乎記念賞。日本伝統俳句協会常務理事、大阪俳人クラブ副会長、日本文藝家協会会員。句集に『春の虹』『波音』『残像』。
 俳人山田弘子は昭和九年八月二十四日、兵庫県朝来郡和田山町生れ。小学六年生の頃より文芸雑誌「草笛」に投稿。四五年本格的に俳句を志し「ホトトギス」「木兎」に投句。五四年高浜年尾、稲畑汀子に師事。五六年「ホトトギス」同人。平成七年「円虹」創刊・主宰。十一年より年に二、三回宮古島に通い子ども達の俳句を指導。十四年兵庫県文化賞受賞。第二回、第十九回日本伝統俳句協会賞。平成二二年二月七日逝去。以下所収句より夏帯に匂袋の紅のぞく
鶴羽をひろげ朝かげ放ちけり
みな虚子のふところにあり花の雲
落鷹にまた降りつのる銀の雨
胸に棲む人と酌む酒十三夜
ふらんす堂

吉田 葎著 句集「一点」

 著者は平成二一年「空」入会、柴田佐知子主宰に師事。二四年第一回空新人賞・第一回「空賞」受賞、二六年第五回俳人協会福岡県支部評論賞受賞、二九年アンソロジー『俳句の宙2017』(本阿弥書店)、令和三年俳壇賞受賞。現在「空」編集同人、俳人協会会員。
 第一句集。序は柴田佐知子「空」主宰で帯に、作品全般から放たれる鋭敏な感覚に加えて、古典や詩歌といった文学の蓄積による広範な和の奥行が随所に光る、と記す。以下、同じく自選十三句より
産むときの口して鮭の死にゆけり
寝支度は首しまふのみ鴨の群
軆もて一点を打つ筆始
水中花きみのことばの倒置法
つばくらめ軒くぐるとき力抜く
一斉に団扇の止まる話かな
 これまで書道・絵画・華道・茶道・短歌と色々手を出してきましたが、長続きしたものは一つもありません。しかし、俳句の面白さ、奥深さに触れてより、これだけは一生続けていきたいと思うようになりました、とあとがきに記す。
本阿弥書店

☆執筆☆小林伊久子

前田霧人著「新歳時記通信」「俳論篇」「歳時記篇」

 本書は、不定期刊の個人誌「新歳時記通信」(二〇〇八年四月~二〇二四年四月、全十三冊)を、「俳論篇」「新歳時記篇」の二冊にまとめた大書。
『俳論篇』
 「新歳時記通信」の出発点、これまでの成果、非成果、その成果を生かした今後の展望等を具体的に論考。「俳句論」「ホトトギス論」「歳時記雑話」「俳人の一句」「篠原鳳作論」の五章に分け詳細に俳論を述べる。筑紫磐井氏が「前田霧人こそ未来の錬金術を究める最良の導士だ。この論書で、彼は求め訴える、エロイム・エッサイムと。」と帯文に記す。
『歳時記篇』
 「明治以来の歳時記の枠組、時候、天文、地理を季節の暦を軸に天地と気象に再編。大胆にして細心。季題の解説も古今の文献を正確に踏まえ、かつ現代感覚に富む。俳人であり地球物理学者十六年間の労作。わくわくする快著である。」と宮坂静生氏が帯文で上梓を称える。
 ひとつの季語に対し複数の文献資料を載せわかりやすい。掉尾に膨大な主要文献(サイト、辞典、二十一代集、例句集等)と、季語索引を掲載。全一四三六頁。
 『新歳時記通信』創刊号では本文は二三頁であったが、「その内容が俳論から次第に季題解説にシフトするにつれ大冊化し」「終刊第十三号までに十六年の歳月を費やした」とあとがきに記し、さらに、『新歳時記通信』は一応の決着を見ることになるが、「私のライフワークはこれで完結したわけではない。もう一度心身を鍛え直して心機一転、健康寿命が尽きるまで続けていきたいと思う。」と、俳人にして地球物理学者は新たな意欲を記す。
著者(本名:純一)は一九四六年香川県高松市生れ。京都大学理学部地球物理学科卒。一九八四年「十七音詩」入会(九九年解散)。二〇〇二年「草苑」入会(〇五年終刊)。〇三年「天街」入会(二四年終刊)。〇五年「草樹」入会。〇六年「杭」入会(二一年終刊)。二二年「無限」創刊同人。現代俳句協会会員。著作『鳳作の季節』。句集『えれきてる』『レインボーズ エンド』。『鳳作の季節』にて「鬣TATEGAMI俳句賞」、「山本健吉文学賞評論部門」受賞。
コールサック社

クミタ・リュウ著 「句画集」

 本書は、倉嶋厚氏が読売新聞に十四年間連載した季節の手帖のエッセイに添えた作品と、自身の俳句をまとめ句画集にしたもの。所収句より
白足袋の板間を摑む弓始
やはらかき土の反撥麦を踏む
生傷の絶えぬ山河や神の旅
水切りの石の押しゆく寒の水
共謀罪三鬼不死男をまた泣かす
肩越しに腕の伸び来る年の市
 著者(本名:汲田隆彦)は一九四〇年岐阜県生れ。日本漫画家協会会員。
受賞歴:一九七四年日本漫画家協会優秀賞。七七年モントリオール国際漫画展一位。七九年ニューヨークソサエティオブイラストレーターズクラブ優秀賞。八一年読売国際漫画大賞(大賞)。八八年イギリスワディントン国際漫画展一位。九三年中日漫画大賞(大賞)。二〇二二年鳥取国際マンガコンテスト優秀賞。その他。
 二〇二一年クミタ・リュウ漫画ギャラリーオープン。現在開催中の大阪関西万博に、武士道をテーマにした著者の漫画作品がコモンズE館に展示されている。
 蒼天社