<俳誌紹介>    伊津野 均

ハンザキ  六月号   主宰 橋本石火

 平成二七年九月、橋本石火が三重で創刊。師系橋本鶏二、波多野爽波。先入観で物を見ないで、ありのままを諷う。[月刊]   (俳句年鑑より)
 今号が通巻一一八号の「ハンザキ」は三重県松阪市を拠点としている。この「俳誌紹介」で五月号は伊勢市の「年輪」、六月号では愛知県岡崎市の「松籟」と中京地区の俳誌を紹介させて頂いたが、この地方の俳句文化への奥深さが感じられる。橋本石火主宰は波多野爽波の「青」、橋本鶏二の「年輪」を経て「ハンザキ」を創刊された。愛知県では結社を超えた同人誌の「晨」も有名で多くの俳人が所属しているが、橋本主宰も同人に名を連ねている。その「晨」の中村雅樹代表が毎月の「ハンザキ」の作品句を渉猟(鑑賞)されている。また「沖」の広渡敬雄氏が連載八十六回に及ぶ「句集散策」を執筆している。橋本主宰の「俳句鑑賞」は今号では波多野爽波の句の27回目で昭和六一年の句を採り上げている。
 橋本石火主宰作品「蔵ふたつ」より
その人をとりなしてゐる桜餅  
蔵ふたつ肩をならべて初ざくら  
かなぶんの空を小さくはばたけり  
春潮のふくらんでくる牡蠣筏  
しやぼん玉人のあはひを抜けゆけり 
 「雑詠」(橋本石火選)より
行く春のからたちの棘空へ向く   西山幾代
春宵の匂ひまとうて犬帰る     久保陽子
ショルダーの置いてあるなり母子草 山中 綾
ふらここの揺れの残りを見てゐる子 藤村千雪
鳥帰る売りたる家の空残し     巽 乾宏
陸橋を降り逃水を追ひにけり    高橋ちづる
紅白の白きは寂し豆の花      御宿恵美
木蓮の芽のしろがねに膨らみぬ   そぶえこうこ
鳥の恋豊かな胸にごはん粒     住吉篤子
躙り口までの飛石馬酔木咲く    金沢東虎
繋がれし犬が舌垂れ夕永し     渡辺みえ子
うぐひすや朝日は竹の根本まで   池森はる子
門前に介護タクシー藤の花     三谷史子
躓けば春筍二本並びをり      宇田多香子
猿ぼぼの背に溜まりし春埃     大河美智子
聞きやすき声の人なりチューリップ 奥田ちよ
犬の耳幽けき春をとらへたり    八木ゆかい
待ち人と野良猫の来てクロッカス  森 喜世子
春天に剣投げあげて舞ふ神楽    水谷 甚
七福神祀る駄菓子屋春灯し     瀧 更紗
春日和バナナの反りの柔らかに   岩中志保美
川筋は裏窓ばかり柳絮とぶ     横田しづ子
孫と足並べてをりぬ春ごたつ    黒田由美子
今後ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。