ふう 通巻第三十七号 代表 つげ幻象
平成二十八年九月、栗山政子を代表として東京で創刊。自在な発想を自分の言葉で十七音に。[季刊](俳句年鑑より)
「ふう」は平成二十八年、栗山政子氏を中心に創刊された。初代代表は栗山政子、二代目がつげ幻象現代表である。お二人とも、「青山」「田」を経ておられるので、年齢の一回り違う俳句仲間と言えるであろう。結社誌ではなく「同人誌」としている。当然ながら誌面を拝見しても、俳句をこよなく愛する人たちの集まりという感が強い。
拝読して感じるのは文章欄の充実ぶり。「作品評」はつげ代表。岩片えみ氏のエッセイはとんでもなく辛い野菜、ハバネロへの挑戦談。他に柘植史子氏と海野良子氏のエッセイ。池田のりを氏は「即興の粋人 宝井其角」と題して『続虚栗』(六)を解説している。
圧巻は私共の仲間である伊津野均氏の「甲の下は芭蕉の誤記か」。芭蕉の〈むざんやな甲の下のきりぎりす〉を取り上げ、甲は鎧をさす。頭に被るカブトであれば冑であるべき。しかし甲と冑の違いについては当初から多くの人が誤記していたと記す。関係する木曽義仲・斎藤実盛などを取り上げ、史実と後世の物語などに言及する。ここから生まれた能「実盛」、この一件が起源とされる虫送り行事についても解説している。俳句に通じ、故事来歴に通じ、民俗学に通じている伊津野氏だからこその好文章である。
「作品」より
砂洲ひとつとり残さるる寒の明 つげ 幻象
天地の扁平にして朧なり 々
「同人作品」より
みづうみの半分晴れて春霞 栗山 政子
茅花流し帽子のリボン揺れ合うて 々
麦秋のうねりの中に鳴るピアノ 中田千惠子
緋のダリア石垣残る史料館 春田こでまり
背表紙を目で追ふ外は淡雪に 春田 珊瑚
五月来る水平に鳥飛んできて 徳永 芽里
指に緩き形見の指輪春の月 久松よしの
青山椒新聞記事に手の止まり 前川 久
水音は町の鼓動や春動く 東川あざみ
水無月のひかり吸ひこむハオルチア 村井 丈美
したしたと瞑る四神や樟若葉 両角 鹿彦
夕虹や子にうながされ仰ぐ母 安田蒲公英
夏に入る流れに心洗はれて 三津守祐美子
金魚鉢をつらぬく日射し床に臥す 安藤 貴夫
眺望図ばかり見てをり霾ぐもり 山本 洋子
未だ旅の途中麦秋の風の音 伊津野 均
佐保姫や女の頰の片ゑくぼ うかわまゆみ
自由闊達で俳句をこよなく愛する「ふう」。今後ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。