誌上句会

 

第397回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  谷野由紀子
冨安トシ子

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。

 

谷野由紀子特選

蘆山寺の門に拾へる落し文      冨安トシ子

 蘆山寺は比叡山第十八世座主良源上人が開基。紫式部が長きに渡って過ごした邸宅跡。季語〈落し文〉ですが拾った場所が大きく一句に作用するとのこと。紫式部ゆかりの場所、最適です。落し文の葉を丸めた様子が、式部が書いたであろう文と微妙に響き合っていると思いました。

父の日の夜は父と子が酒談義     窪田 季男

 母の日の盛上がりに比べ、父の日は静かに過ぎゆくようです。この句は優しいお子さんとお酒を酌み交わしながら、好みの酒や銘柄など又何気ない話題も入れ父親と過ごされている様子。傍で微笑みながら見守っておられる作者の様子も浮かび素敵な父の日の句と拝見いたしました。




冨安トシ子特選

水中花土曜の午後の守衛室      香椎みつゑ

 水中花と守衛室、そして土曜の午後という時間帯。なんともドラマチックな句です。水中花が泡を一つ吹きました。さて貴方はどんなドラマを描きますか?と問われているようです。読者に想像を託した取合せの句として楽しませて頂きました。

島を打つ波の穂まぶし花蜜柑     小澤  巖

 「みかんの花が咲いている…」で始まる童謡を思わず口遊みました。明るく穏やかな瀬戸内の島、花の香も波音も聞こえて来ます。上五中七の措辞に海の無い奈良に住む私は心惹かれました。




 谷野由紀子入選

白南風や法如ゆかりの堂一宇     浅川加代子
尼寺の読経かすかに沙羅の花     冨士原康子
経筒に道長公の銘涼し        小林伊久子
千言の俗世を離れ竹の花       宇野 晴美
揺らめける二千の焔山開く      福長 まり
短冊に小さき願ひ星祭る       中谷恵美子
払暁の新樹雨滴に煌めきぬ      髙松美智子
薫風や足湯に望む相模湾       播广 義春
不揃ひの宮のきざさし夏落葉     浜野 明美
六月の風に水の香草木の香      木原 圭子


 冨安トシ子入選

経筒に道長公の銘涼し        小林伊久子
千言の俗世を離れ竹の花       宇野 晴美
香具山を映す植田の水明り      横田  恵
小満のパイプオルガンからバッハ   中尾 謙三
暮れ方に白を極むる山法師      河原 まき
切麻に首を垂るる夏祓        板倉 年江
六月の風に水の香草木の香      木原 圭子
樹下涼し千利休の屋敷跡       吉井 陽子
寝転べば星ふる丘や花蜜柑      榎原 洋子
夏草や陸軍墓地に無名の碑      山内 英子



朝妻 力推薦

本降りの雨を見てゐる燕の子     井村 啓子
経筒に道長公の銘涼し        小林伊久子
蘆山寺の門に拾へる落し文      冨安トシ子
揺らめける二千の焔山開く      福長 まり
大悲閣に眺むる朱夏の嵐山      谷野由紀子
焦げ跡をあらはに銀杏若葉かな    吉沢ふう子
自転車は傘寿の祝風薫る       原  茂美
すべり台を離れぬ子待つ片かげり   上西美枝子
青蔦の絡む二階家ジャズ流る     岡山 裕美
何処からかゆるりと二階囃子かな   岡田 寛子
梔子の花や藁屋根古びたり      宮永 順子
島を打つ波の穂まぶし花蜜柑     小澤  巖
暮れ方に白を極むる山法師      河原 まき
梅雨寒の駅に人待つ木のベンチ    渡邉眞知子
美術館うつる水面の羊草       角野 京子
夏草や陸軍墓地に無名の碑      山内 英子
雨降り来泰山木の花の錆       宇利 和代
薫風や足湯に望む相模湾       播广 義春
穴熊にオクラを掘られ折られけり   太田美代子
荒梅雨や自転車もまたびしよ濡れに  人見 洋子