誌上句会

 

第395回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  武田 風雲
田中 愛子


誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。

 

武田 風雲特選

風光るよちよち幼追ふカメラ     児島 昌子

 歩ける喜びを顔いっぱいに浮かべながら、幼が歩き始めた。カメラを持った親であろう。子の歩きを見守りつつ、追いかけてシャッターを押している。幼児の生命力とそれを応援して喜ぶ親の姿が柔らかい風に光り輝いて見える。その光景が眼前にあるようだ。

夏立つや子らの輪唱たからかに    中川 晴美

 暦の上では夏に入り、心が何となくすがすがしく、明るく感じられる。子らの輪唱(二つ以上の声部が追いかけるように歌う)が聞こえてくる。山開きにホルンの音のするように、たからかに夏が来たぞ、夏が来たぞと。子らの活気と嬉しさがよく伝わってくる。


田中 愛子特選

行く春の蔵だけ残る呉服店      井村 啓子

日本の伝統工芸美術とも民族の衣装ともいえる和服。呉服の呉は、呉の国の織り方によって織られた生地とのこと。しかし洋服の普及などで呉服の需要も次第に減少し、中には商いを終えるお店も……。淋しいですが時の流れですね。

風を待つ雲より垂るる藤の花     渡邉眞知子

 藤の花の優雅な色と香は、万葉の世より多くの人に詠み継がれている。掲句は山に自生する山藤であろう。杉の枝などに垂れ、風を待つかのように見える藤。〈雲より垂るる〉という大きな景が遠い万葉の世界に誘ってくれる。



武田 風雲入選

夕照に花影潤める吉野山       福長 まり
笙の音や古今伝授之間の長閑     原田千寿子
休耕の棚田彩る紫雲英かな      髙松美智子
北前船に栄えし浦やつばくらめ    冨安トシ子
桜蘂降りつぐ辻に塞の神       横田  恵
やはらかき船場言葉や花の雨     小林伊久子
転がして洗ふ木桶や春日和      深川 隆正
鳥は鳴き光れる句碑に花吹雪     野村よし子
皴一つなき制服や朝桜        三代川次郎
番鳥の鳴く声高し桜まじ       山本 創一



田中 愛子入選

膝に抱きしばし手を止む雛納     香椎みつゑ
モノクロの記念写真や昭和の日    田中よりこ
樹齢みな百余の杜の若葉光      伊藤たいら
夕照に花影潤める吉野山       福長 まり
鳥曇遺影の父の齢越ゆ        渡部 芋丸
躓きも迷ひも処々に蜷の道      窪田 季男
やはらかき船場言葉や花の雨     小林伊久子
転がして洗ふ木桶や春日和      深川 隆正
びしよ濡れの猫駆け戻る春の雷    松本 葉子
パパの背にキティのリュックうららけし 上西美枝子


朝妻 力推薦

転がして洗ふ木桶や春日和      深川 隆正
こでまりの向き定まらぬ卒哭忌    糟谷 倫子
恙がなく五風十雨や種を蒔く     中尾 光子
夏霧の中に豊けき揚子江       髙木 哲也
桜蘂降りつぐ辻に塞の神       横田  恵
畔塗つて石見の棚田輝かす      小澤  巖
行く春の蔵だけ残る呉服店      井村 啓子
鳥曇遺影の父の齢越ゆ        渡部 芋丸
久々に吉野を訪うて春惜しむ     松井 春雄
休耕田蠢くものの明日の夢      髙橋美智子
コンサートはねて出づれば花月夜   髙橋 佳子
風ふけば心せかるる花の頃      村川美智子
餞別は笑顔と決めて花の雲      鎌田 利弘
東風吹けば木々の挙りて輝けリ    島津 康弘
夏立つや子らの輪唱たからかに    中川 晴美
樹齢みな百余の杜の若葉光      伊藤たいら
夕照に花影潤める吉野山       福長 まり
しやぼんだま爆ぜてもめごと治まりぬ 吉沢ふう子
今生の一語大切きらん草       志々見久美
春園のお手する山羊に子ら寄り来   櫻井眞砂子