誌上句会

 

第379回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  吉沢ふう子
吉村 征子

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。


吉沢ふう子特選

刀傷残る堂宇や大根焚        松本すみえ

 京都の寺院で振る舞われる大根焚き、冬の風物詩としてテレビでは見たことが有ります。さてこのお寺、刀傷の堂宇と有りますので,「応仁の乱」での刀や槍の傷跡が残る千本釈迦堂(大報恩寺)かと、簡潔明瞭でしかも大根焚きが歴史を代弁するかのように感じました。

ペンキ絵の富士の裾野の初湯かな   三代川次郎

 昨今の銭湯はスーパー銭湯なる近代的な形式に様変りして、掲句のような昭和レトロの銭湯は希少度の高いところかもしれません。ペンキ絵の富士に焦点を当て〈初湯〉へ繋げる勘所。ノスタルジックな雰囲気に惹かれました。


吉村 征子特選

隅寺の秘仏拝せば霜の声       角野 京子

 隅寺は光明皇后宮の北東隅にある海龍王寺のこと。ほぼ周り三方は平城宮址。作者は霜の残るその界隈を散歩されていたのか、折しも御開帳されていた秘仏十一面観音像を参拝された。手を合わせていると〈霜の声〉が聞こえたと云う。境内や宝前の静謐さが窺える一句と鑑賞しました。

一世紀生きたる母の初鏡       田中 幸子

 作者のお母さんは百歳と云う歳をひたと噛み締めて元旦の鏡の前に立たれたことでしょう。その鏡にはいつものように明るい元朝の空、生き生きとした庭の木々が映っています。お母さんもますますお健やかに過ごされますようお祈りしました。


吉沢ふう子入選

寒禽の尖る一声神の苑        乾  厚子
寒紅の人の一言座を締むる      伊藤たいら
寒柝の一打に闇の引き締まる     吉村 征子
これしきのことに躓く年の暮     香椎みつゑ
薪割りのリズムの良さや冬ぬくし   杉村 好子
冬ぬくし大型犬のドッグラン     川尻 節子
雪吊の縄目を揺らす雀どち      春名あけみ
列柱の影濃き旧址月氷る       今村美智子
冬深し矢穴あらはに思案石      浅川加代子
木枯や白波尖る明石の門       冨安トシ子

吉村 征子入選

寒紅の人の一言座を締むる      伊藤たいら
籠もりゐて咳き込むごとに一句逃ぐ  新倉 眞理
数へ日や一つ片せばまた一つ     福長 まり
日向ぼこ歳時記ひざに鼻眼鏡     吉沢ふう子
数へ日の午後を静けき写経堂     藤田 壽穂
冬銀河余生に小さき夢ひとつ     冨士原康子
列柱の影濃き旧址月氷る       今村美智子
初氷早や石礫うけしあと       宇利 和代
炉話や鉄瓶の湯気ほのぼのと     中川 晴美
囂しき木の葉隠れの寒雀       野添 優子

朝妻  力推薦

寒柝の一打に闇の引き締まる     吉村 征子
良きことを探すつもりの日記買ふ   野村よし子
炉話や鉄瓶の湯気ほのぼのと     中川 晴美
野の神のひそひそ話小雪舞ふ     伊津野 均
これしきのことに躓く年の暮     香椎みつゑ
冬深し矢穴あらはに思案石      浅川加代子
住み旧りて反故を焚きたる年の暮   原田千寿子
寒林に入り寒林の鼓動聴く      隠田恵美子
来ぬ客に二人で余す節料理      山下 之久
初氷早や石礫うけしあと       宇利 和代
ペンキ絵の富士の裾野の初湯かな   三代川次郎
盗み酒したる厨の寒さかな      渡部 芋丸
囂しき木の葉隠れの寒雀       野添 優子
数へ日の午後を静けき写経堂     藤田 壽穂
手の平で味はふ器年惜しむ      松本 葉子
園庭に並べ干さるる子の布団     櫻井眞砂子
菰巻の松の影並む太子道       中尾 謙三
年の瀬や猫ゆつたりと道よぎる    西岡みきを
御仏の膝に冬蝶眠りけり       岡田 寛子
伝説の池のしじまに鴨の声      深川 隆正