誌上句会

 

第394回  披講 特選・入選・推薦作品

 輪番特別選者  住田うしほ
中川 晴美

誌上句会投句作品は「雲の峰」誌に無記名で掲載され、会員が選びあうものです。
常葉・照葉集作家が輪番で特別選者の任にあたり、主宰が推薦欄を担当します。

 

住田うしほ特選

春めくやプリマの細き両腕     コダマヒデキ

 白い衣装で両腕を頭上に組んで踊るプリマドンナの白く細い二の腕が、いかにも春の訪れを感じさせてくれる。そんな感動を詠んでいる。即座に春の訪れとは結び付かない舞台芸術に、季節の変り目を巧みに詠み込んでいる。

春の夜や夫の遺愛の竜頭巻く     青木 豊江

 亡き夫の愛用した懐中時計を今も大切に保存し手入れしている。春の夜、竜頭を巻いていると、夫と共に過ごした数々の時間が思い起こされる。そして、そうした思い出の中心には、いつもこの懐中時計があった。遺品を通して、夫への思慕を巧みに表現している。


中川 晴美特選  (瀧下しげりさんの代選です)

適塾にコレラ治療書春深し      井村 啓子

 適塾は緒方洪庵が江戸時代後期に大坂船場に開いた蘭学の私塾。福澤諭吉・大村益次郎など多くの名士を輩出しました。コレラとの関わりは知りませんでしたが、調べてみますと流行時には『虎狼痢治準』を出版し、治療指針を示すなどの活躍をしたそうです。

持ちきれぬ夢を両手に入学す     船木小夜美

 お孫さんでしょうか。小学生になられたのでしょうね。大きな夢を沢山持っての入学。〈持ちきれぬ夢を両手に〉という把握が的確で素晴しいと感じました。



住田うしほ入選

深吉野の風も光も春の色       中谷恵美子
さへづりのやうな異国語バスうらら  長岡 静子
建仁寺逸れ六道の昼おぼろ      宇野 晴美
菜の花や赤字続きの一両車      渡邉眞知子
此の岸を離れゆく母春の雪      香椎みつゑ
足裏に膨らむ土や木の芽風      北田 啓子
ひと鍬づつ日を含ませて春田打    中尾 光子
からからと数多なる絵馬春を待つ   宮田かず子
売られゆく牛に降り継ぐ桜蕊     伊藤たいら
蕗の薹汚泥の中で己が色       山下 之久



中川 晴美入選 (瀧下しげりさんの代選)

深吉野の風も光も春の色       中谷恵美子
此の岸を離れゆく母春の雪      香椎みつゑ
足裏に膨らむ土や木の芽風      北田 啓子
春の夜や夫の遺愛の竜頭巻く     青木 豊江
丹波路の空押し上げて山笑ふ     酒井多加子
からからと数多なる絵馬春を待つ   宮田かず子
耕しを終へし田へ刺す魔除け札    伊津野 均
張り上げて歌ふ校歌やたんぽぽ黄   原  茂美
遊学子を送る空港風光る       溝田 又男
袋掛腰にひばりの曲流し       今村 雅史


朝妻 力推薦

適塾にコレラ治療書春深し      井村 啓子
春灯を献じ一言主拝す        藤田 壽穂
持ちきれぬ夢を両手に入学す     船木小夜美
子にはこの町がふる里初つばめ    宇利 和代
さへづりのやうな異国語バスうらら  長岡 静子
耕を終へし田へ刺す魔除け札     伊津野 均
湖あまた巡り信濃の春惜しむ     中川 晴美
次々と寄る淋代の春の波       星私 虎亮
袋掛腰にひばりの曲流し       今村 雅史
厨子裏に石の軌条や彼岸西風     今村美智子
残雪を茶色に染めて芽鱗落つ     板倉 年江
春の夜や夫の遺愛の竜頭巻く     青木 豊江
雉鳩の寄り添ふ枝の芽吹かな     瀧下しげり
築山に露地の名残や囀れり      角野 京子
街角の玻璃に映せる花衣       上西美枝子
足裏に膨らむ土や木の芽風      北田 啓子
春雨や銀のしずくを読み終へぬ    奥本 七朗
善人のかほして帰るお水取      野添 優子
風やはし天衣ゆたかに御開帳     田中 幸子
張り上げて歌ふ校歌やたんぽぽ黄   原  茂美