談話室 ≪総合誌・俳誌から≫


現代俳句評        富田 範保

       河原地英武主宰「伊吹嶺」3月号
秋の風縁切り絵馬がことと鳴る   朝妻  力
                (「俳句」十二月号)
 絵馬は志望校合格、健康祈願、結婚祈願等どちらかと言 えばプラス志向の願いが多いと思われるが、縁切り絵馬と 言うマイナス志向の願いが書かれたものがあるとは、思い もよらなかった。一昔前は男性の権限が強く、なかなか妻 から離縁の願いを出しても受け入れられない事はあった。 そのため縁切り寺があり、夫から逃れる妻の避難所になっ ていた。この句の縁切り絵馬は現代での話なのだろう。多 くの祈願絵馬の中に一つ縁切り絵馬が密かに吊られていた のである。その絵馬が風で「こと」と鳴った。この「こと」と言う音が、いかにも神様に通じ、願いがかなえられた証である様に思える。人の世は千差万別、時にはこの様な願いもあるのである。神様も忙しい事である。

俳句時評         渡部  喬

         神谷 章夫代表「さら」春号
秋の風縁切り絵馬がことと鳴る   朝妻  力
 男女の縁切りを願う絵馬があることを、私は知らなかったが、例えば板橋本町にも縁切り寺があるそうだ。
 男女が知り合って別れる期間の一番多いのが三ヶ月以内が多く、全体の約三割になるそうだ。季節にすれば、夏に知り合って、こんなはずではなかった等々思い、夏の終りには縁切りを願う。そして秋風のころには別れるという事であろうか、風に吹かれ、絵馬がことと鳴る。
      角川俳句十二月号 亡き人のユニホームより

受贈誌御礼        山中 晴美

 小川望光子代表「鳥」第9号
【「雲の峰」(朝妻力主宰) 令和5年10月号】
梨届く新甘泉といふ名もて   朝妻  力
 鳥取県産のオリジナル品種ということですが、それにしても「新甘泉」という漢字の何と甘そうな、何と瑞々しそうな一句にせねばというお気持ちが非常に良く分かります。

寄贈図書         工藤 泰子

           佐藤 宗生顧問「遙照」三月号
 雲の峰 2月号
全壊と聞きて声なき二日かな  朝妻  力
寒月の青きを仰ぎ能登思ふ   〃
仕上がれる露地に艶めく敷松葉 杉浦 正夫
宅配に薄目を開くる炬燵猫   高野 清風
大転輪経蔵銀杏黄葉して    長岡 静子
山茶花や城の時報は童歌    原  茂美

他誌拝読      永沢 達明主宰「凧」3月号

「雲の峰」一月号  朝妻 力 主宰
小春日や手を振り返す街の人
紅葉散る造幣局の通り抜け
太閤の城を遠見に冬日燦
川沿ひに紅葉かつ散る並木道
くれなゐの草丈見ゆる枯野かな

拝受俳誌・諸家近詠    徳重 三恵

           外山 安龍主宰「半夜」3月号
冬はじめ楽鳴らし来る灯油売り   三澤 福泉

全国結社マップ

        角川「俳句」二月号
●結社名 雲の峰   
●主宰  朝妻  力 ●拠点 大阪府茨木市
●最年長と最年少   93歳・24歳
●年会費       一万二千円
●信条  季語を生かし、日本語を正しく使うことを信条としそのために「学習する結社」を標榜する。文語やその活用に付いて理解することで、美しい日本語と季語とで俳句という文芸を体現できるようになる。
●句会の月例数・場所
京都・奈良・和歌山・大阪・兵庫に17。他、小樽・東京・新居浜・熊本・屋久島に月例句会。他、吟行句会。
●どういう人に向いているか
季語・文語・句形など、初心から学びたい人。句会に提出した作品は主宰が全て評価。必要があれば添削し、季語の理解・正しい表現についての理解を促進する。
●刊行頻度 月刊
●主宰・同人の句
球蹴る子縄を回す子日脚伸ぶ  主宰   朝妻  力
秋日濃しめ組ゆかりの力石   同人会長 三代川次郎
薄らかに稜線ぼかす冬の靄   編集長  播广 義春

天王寺七坂        角野 京子

俳句文学館二月号・ふるさとの情景(大阪府)
 縄文時代、上町台地は海に突き出た半島であった。台地は大阪の中央を南北に走り、高台の谷町筋から崖下の松屋町筋まで高低差は10メートル以上。これを体感できるのが天王寺区南西部の「天王寺七坂」。神社仏閣が密集し、また「天王寺七名水」の名残もあり、緑豊かな歴史の散歩コースとなっている。
北から真言坂・源聖寺坂・口縄坂・愛染坂・清水坂・天神坂・逢坂で、大阪を舞台とした小説にも屡々登場。
 織田作で知られる織田作之助は七坂巡りの起点、真言坂の生國魂神社(生玉さん)の近くで生まれた。源聖寺坂の齢延寺には大阪に漢学塾を開いた藤沢東該、南岳一族の墓がある。
口縄坂は七坂で最も人気が高く石畳の坂の起伏がくちなわ(蛇)の腹に似ているので名付けられた。下り口に織田作の文学碑が立つ。
 また、歌人の藤原家隆が「夕日庵」を結び〈契りあれば難波の里に宿り来て波の入り日を拝みつるかな〉と詠んだことからこの辺りを「夕陽ヶ丘」という。愛染坂の入り口の愛染堂には樹齢数百年の桂に凌霄花の蔓が巻き付いた縁結びの霊木があり、映画「愛染かつら」の舞台となった。
 清水寺へ上る清水坂や菅原道真を祀る安居神社(大坂夏の陣での真田幸村終焉の地)へ通じる天神坂など、石畳と石段に個性があり、夏の緑蔭や冬の日溜りに猫がいて、時間が緩やかに流れている。
 七坂巡りの終点は聖徳太子創建の四天王寺西門に至る逢坂。この坂は国道25号線で商都大阪の喧騒を見せるが、この坂の夕日も格別。四天王寺では彼岸の中日に西に沈む夕日を拝し極楽浄土を観想する「日想観」の法要が行われる。
▽問合せ=天王寺区民センター06(6771)9981
▽交通=大阪メトロ谷町九丁目駅下車、南からのコースは
天王寺駅下車。

円心集      朝妻  力

           山田佳乃主宰「円虹」三月号
春めくや保育カートに児が四人
六甲をほぼほぼ隠し黄砂降る
ここがあのちんから峠春の風
雉遠く鳴く夕近き石舞台
腹減らし子の戻りくる時正かな

大阪俳句史研究会二月例会 朝妻主宰発表

「浅川 正 人と作品」を受講して
             角野 京子
大阪俳句史研究会の定例会があった。会場は伊丹市図書館ことば蔵。JR伊丹駅で降りると三人の先輩句友とばったり。四人でタクシーで駆けつけると、すでに「雲の峰」の懐かしい面々が揃っていた。「雲の峰」総会以上の顔触れで故浅川副主宰の人気度の高さを感じた。坪内稔典先生、三村純也先生もお見えで、他結社からも多数の親交の浅からぬ俳人が集まり、故人を偲ぶ同窓会のような高揚感に包まれた。逝去されて丸三年になるが、聴講の中に以前のように浅川副主宰が座っておられるような気がした。
冒頭、朝妻主宰は大阪俳句史研究会で「浅川正」を取りあげることに感無量と声を詰まらせ、感謝の言葉を述べられ、師弟の関係以上の絆の強さを感じた。
配布されたレジュメは四枚で写真が半分以上を占める。
朝妻主宰はいつもの講演スタイルでプロジェクターを使い、浅川副主宰の人と作品について入会から逝去までを、会場の人にことばを振りながらゆっくりと噛みしめるように講演をされた。私が入会以前の俳句を知ることができたのが何より嬉しかった。レジュメの年譜にそって。
平成十一年十二月 「俳句通信」入会。
差し出された名刺には次の様に印字されていた。
ロゴ:ハチクマ  肩書:日本野鳥の会会員
2015年~2030年悠悠自適。
2030年1月2日没。享年81歳
平成十二年二月号 俳誌初出
ラッセル     大 阪  浅川  正
神坐す山を覆ひて雪深し
雪原をあまたよこぎる獣道
腹摺りし獣の跡や深雪晴
息荒くラッセルの歩を進めけり
新雪を踏みきて神の道にでる
平成一四年十一月 新人賞を受賞し同人となる。
雉鳴くや藪にかへりし窯の跡
立ち止まりまた立ち止まりつぐみ駆く
平成一九年   「雲の峰」編集長
平成二三年 九月 癌発症、後、患部切除手術六回 
平成二八年 七月 「雲の峰」副主宰就任
平成三十年 六月 句集『湯相』上梓
令和三年四月十六日未明逝去 享年七十二歳
永訣 安らかにやつれて春の修羅となる
雲の峰二十五周年実行委員長をされた時の写真は若々しい。今年は三十五周年が予定され十年の歳月を感じる。
名刺に悠悠自適と記された後半生は、癌と生きる壮絶な日々であったと思うが、俳句を極め、酒、山、友、家族を愛し、軽妙洒脱。いたずらっ子の様な笑顔と、愛語を口遊みながら旅立たれた最期の姿が忘れられない。
副主宰となり、指導者としてさらに多くの人を魅了しながら、常に一対一で丁寧に向き合ってくださった。今回の講演は皆の内にある「浅川正」を思い起こさせ、また活字として「俳句史研究」に残ることに大きな意義がある。

第24回三木市俳句まつり

事前投句の部 作品賞
吉川町文化協会長賞
灯台に住まひの名残鳥渡る       西田  洋
 選者特選賞 朝妻 力特選
灯台に住まひの名残鳥渡る       西田  洋
 佳作
小鳥来る殉教の地の聖堂に       浅川加代子
 奨励賞
寒禽や照りては翳る比良比叡      平井 紀夫
てのひらに夕日のほてる烏瓜      志々見久美
銀輪の轍一筋冬に入る         角野 京子

当日句の部 3月2日
 三木市教育長賞
割木積む桜隠しの陶の郷        角野 京子
 作品賞佳作
神木のくひぜにあはと春の雪      瀬崎こまち
春天を青く見せたる鳶の円       山﨑 尚子
 選者入選
あべまきの根株に桜隠しかな      朝妻  力
里山は桜隠しに照り陰る        酒井多加子
春雪の窓よかたちのよき壺よ      志々見久美
春の雪舞ひ煙る山日照りけり      寿栄松富美
登窯の下萌見上ぐ長き土手       野添 優子
連山の芽吹きの麓登り窯        春名あけみ
四斗谷の流れや郷の春淡し       福長 まり

第七十回不器男忌俳句大会

 井上論天特選 森川大和入選
鮎釣の半ば魚類である男        岡田 寛子
 

セクト・ポクリット コンゲツノハイク

           堀切克洋氏ホームページ 2月
ちびふでを嚙みて文書く年の暮   朝妻  力
パレードに沸く黄落の御堂筋    高野 清風
幻住庵にまた椎の実の落つる音   三代川次郎
黄落や出世稲荷の大銀杏      伊藤  葉
小春凪一円ぽっぽてふ渡船     倉瀬 瑛子
亡き母と時分かち合ふ紅葉狩    高橋 佳子
吉野産の夜蒔胡瓜の曲りかな    杉本 綾子

●月刊「俳句界」  俳句上達の結社選びより

 4月
春雨やひそやかに立つ小督塚    谷野由紀子
諸子焼く熾火の勢宥めつつ     伊藤 月江
春めくや生糸を守る狛猫も     柏原 康夫
浅春のビルに隠るる式部墓所    コダマヒデキ
日の本の屋根皆四角豆の花     安齋 行夫
雪解けて比叡の山に鳶の笛     河井 浩志
暮合の樟の大樹の百千鳥      中尾 礼子
 5月
囀や子らいつしんに明日を描く   西田  洋
ミッキーに子が会ひに行く四月かな 今村 雅史
春昼を破るお初の断末魔      河原 まき
鮮やかに手書きの封書風薫る    中村 克久
春の虹吉備路の野辺の五重塔    笠井 利雄
つちふりて見慣れたる山異国めく  野村よし子
夏霧を纏ひて切り裂きジャックが来 星私 虎亮

アンジュ俳句会 社会福祉法人庄清会

 2月            指導  角野 京子
棒編みのあたたかそうな冬帽子  井上加枝子
大和川の土手を滑りて日の永し  江草 孝子
健やかにほうじ茶香る春の昼   芝池フランク
春立ちぬぼ~と座る昼下がり   高見 智子
偕楽園に仮設の駅や梅真白    中谷 重美
車椅子降りてリハビリ春の風   中藤 貫次
初めての俳句作りや藤の花    西岡久仁子
華やかに男の子ばかりの雛祭   藤岡 一子
着ぶくれて待合室の窓辺かな   松本津裕子
祖母の家孫誕生の桃の花     樽井 寛孝
不死鳥のごとく退院春の風    角野 京子