紹介 <他誌拝読・諸家近詠>

   春耕及び受贈俳誌より編集部抄出・敬称略

晩年を芭蕉を読んで涼しけれ   春 耕  蟇目 良雨
畦道にまだぬれぬれと蛇の衣   〃    池内けい吾
黒南風や昼夜火を噴く鉄の町   〃    柚口  満
週末という香水の森のなか    藍    花谷  清
風薫る八十路半ばの同窓会    暁    桑田 和子
渾身の光を放つ今年米      あきつ  平賀 寛子
落し文固く巻かれてゐる未来   天 塚  宮谷 昌代
終バスの去りて再び虫の闇    凧    永沢 達明
昨夜よりも今宵の烏瓜の花    泉    藤本美和子
母逝きし齢まではと髪洗ふ    いには  村上喜代子
自転車の灯火をつらね肝試し   伊吹嶺  河原地英武
夏童に敬礼返す運転士      雨 月  大橋 一弘
水馬の数を十三まで数ふ     運 河  谷口 智行
狼を詠みたる人と月仰ぐ     〃    茨木 和生
青空の組体操や雲の峰      繪硝子  和田 順子
山開かくも小さき人の丈     円 虹  山田 佳乃
水均し光をならし水馬      鳳    浅井 陽子
むだ骨も百も承知や小判草    沖    能村 研三
千羽鶴千羽束ねて堂涼し     枻    雨宮きぬよ
木下闇ぬけて金気の匂ふ池    火 星  山尾 玉藻
峠忌や無我夢中なる十二年    かつらぎ 森田純一郎
風さはに吹き初夏の水の街    甘 藍  渡井 恵子
朝顔の三つ並んで三つ子めき   雉    田島 和生
輪郭は夕空にあり酔芙蓉     響 焔  松村 五月
鈴蘭の小径に捜す君の影     京鹿子  鈴鹿 呂仁
海の家昨日の砂の上に建つ    銀 漢  伊藤伊那男
夏至の日の亭午の鐘の殷殷と   〃    武田 禪次
太陽を掴むがごとき日焼の子   くぢら  中尾 公彦
暗黙の第二楽章聴く夜長     くぬぎ  波切 虹洋
入母屋の大黒天の油照り     幻    西谷 剛周
聞き覚えある声を背に橋涼み   香 雨  片山由美子
目薬のこぼれて梅雨の月しづく  好 日  髙橋 健文
昼からは軒より高く揚羽蝶    辛 夷  中坪 達哉
母の日の日向に母の声小さし   嵯峨野  才野  洋
夏草を分けて確かむ道標     砂 丘  樽谷 青濤
大仏の見下ろしたまふ松手入   山茶花  三村 純也
春風や野良牛に打つ弛緩剤    澤    小澤  實
空白のこころに烏瓜の花     栞    松岡 隆子
語尾伸ばす癖の若者麦の秋    春 月  戸恒 東人
眼裏に浮かぶものなし滝の音   松 籟  山本比呂也
一喝を忘れてゐたる日雷     白魚火  檜林 弘一
山道ゆ水を運べり蜜柑の花    獅 林  梶谷 予人
山車のもの道に広げて土用干   晨    中村 雅樹
白蓮に神代の風の吹き渡り    青海波  本城 佐和
空気より風よりかろし柳絮わく  栴 檀  辻 恵美子
白南風や跳ねよ笑へよ童神    爽 樹  勝浦 敏幸
鎌首をもたげしままや蝮酒    空    柴田佐知子
空蟬といふ置き去りの形かな   対 岸  今瀬 剛一
水音の一句涼しや山頭火     太 陽  𠮷原 文音
もう行けぬ社員食堂更衣     鷹    小川 軽舟
まなうらへ蛇は全長残し過ぐ   たかんな 吉田千嘉子
平池と呼ばれて平ら水の秋    滝 山  桑島 啓司
蛍待つ幼は父に抱かれゐて    玉 梓  名村早智子
かなぶんや短命の父かなしめば  鶴    鈴木しげを
風死してひかりの層の御影堂   天 為  対馬 康子
転職の名刺を供へ魂迎      天 衣  足立 賢治
駒草やひろびろ続く主稜線    夏 潮  本井  英
逃水を過りぬ獣そして人     夏 爐  古田 紀一
六月の蝶をのこして列車出づ   南 風  村上 鞆彦
総門の猪の目の錺蟬澄めり    年 輪  坂口 緑志
金亀子月に向つて行く構へ    濃 美  渡辺 純枝
ジグザグに走る幼子更衣     春 野  栗林 明弘
百年の床鳴らし入るビヤホール  帆    浅井 民子
空を白抜き有明の夏の月     幡    富吉  浩
百日紅ドリンク剤をひと息に   ハンザキ 橋本 石火
青柿の照葉に隠れ押し合へる   半 夜  外山 安龍
充電は百パーセント夏の旅    ひいらぎ 伊藤 瓔子
里山の空なほ深し山法師     ひこばえ 切建  昇
勝浦のどでかい西瓜五千円    ひまわり 西池 冬扇
秋暁や雲は激しく北西へ     氷 室  尾池 和夫
雲が雲呼んで棚田の青あらし   姫路青門 中嶋 常治
石垣の動きそめたり花吹雪    ふ う  つげ 幻象
雨の夜の白暮れ残る半夏生    諷 詠  和田 華凜
江山の鬼岩迫る夏座敷      風 土  南 うみを
学食や団扇のやうな鯵フライ   星だより 田代 青山
枝しなる極限に摘む桑苺     松の花  松尾 隆信
白山を冠して涼し花も神も    汀    井上 弘美
あと一歩登りたきさま蟬の殻   岬    手拝 裕任
寝待月寝をしみ月となりゐたり  萌    三田きえ子
ことづめの伸びて八月神隠し   門    鳥居真里子
山伏の下る疾さよ秋近し     湧    渡井 一峰
戦争を語らぬ父や敗戦忌     遙 照  花房 柊林
僧林の御堂堂々青嵐       ランブル 上田日差子
行水の明け方となる隣人も    六 花  山田 六甲
楽しげに風の奔れる麦畑     燎    佐藤  風
七夕笹かつぎ少年戻りきし    若 竹  加古 宗也