春耕及び受贈俳誌より編集部抄出・敬称略
八十はまだ青二才走り梅雨 春 耕 蟇目 良雨
皮むいて筍の香にむせびたる 〃 池内けい吾
風の筋変はり売れ出す風車 〃 柚口 満
一瞬を同時のごとく舟虫散る 藍 花谷 清
空広きここはふるさと山笑ふ 藍 花 大高 翔
次々と誘いの電話地虫出づ 暁 桑田 和子
口下手は生来のもの山椒魚 あふり 小沢 真弓
たかんなの一途な力空は青 天 塚 宮谷 昌代
土手涼みはるかビル街灯りゆく 凧 永沢 達明
軽暖の関守石の影いくつ 泉 藤本美和子
八十八夜人形は対とせり いには 村上喜代子
学生の入室禁止昼寝せむ 伊吹嶺 河原地英武
路地先の垣に茨の花溢れ 雨 月 大橋 一弘
わが知らぬ湖国の暮し茹小豆 運 河 谷口 智行
空高きところに見えて生駒山 〃 茨木 和生
直筆の伝ふるこころ花は葉に 繪硝子 和田 順子
桜島借景にして松落葉 円 虹 山田 佳乃
引き潮の音を遠くに草いきれ 鳳 浅井 陽子
これ以上退けぬ一線青嵐 沖 能村 研三
木酢の溜りつつある古巣かな 斧 はりまだいすけ
遅き日のみんな兄弟かもしれぬ 海 棠 矢野 景一
庭ざくら父の享年けふ越ゆる 架け橋 二ノ宮一雄
信心の首太ぶとと春田打 火 星 山尾 玉藻
窓広き貝類館へ薄暑光 かつらぎ 森田純一郎
虚も実も西日のなかで混濁す 加里場 井上 論天
茎立や立ちて屈みて測量士 甘 藍 渡井 恵子
大琵琶は南へ流れ早苗月 雉 田島 和生
言葉より白詰草の冠を 響 焔 松村 五月
夕さりて青葉の蔭に日の温み 京鹿子 鈴鹿 呂仁
風もまた甘露なるべし仏生会 銀 漢 伊藤伊那男
おぼろ月風待ち湊の船明り 〃 武田 禪次
仏像の胎に仏像朴の花 くぢら 中尾 公彦
壺焼の尻尾が好きでタイガース 幻 西谷 剛周
歩きつつ考ふること街薄暑 香 雨 片山由美子
ビル風のどこか湿りて五月来る 好 日 髙橋 健文
花は葉に登りに選ぶ男坂 辛 夷 中坪 達哉
退屈を楽しむ心春の雨 嵯峨野 才野 洋
だしぬけに拳骨くらふ春の雷 砂 丘 樽谷 青濤
反省のひとときにして髪洗ふ 山茶花 三村 純也
三人で坐る縁側あたたかし 秀 染谷 秀雄
足腰より衰へてゆく花の昼 春 月 戸恒 東人
白雲の流れの早し大植田 松 籟 山本比呂也
はくれんの蔵する光放ちをり 白魚火 檜林 弘一
母の日や割烹着の母眼裏に 獅 林 梶谷 予人
着陸の窓に干潟の広がり来 晨 中村 雅樹
蜘蛛の囲に風の軌跡の走りけり 深 花 大木 雪香
御神木は千年杉や青葉風 青海波 本城 佐和
春ともし下や狐の長居せり 栴 檀 辻 恵美子
放流の稚魚のしぶきや風光る 爽 樹 勝浦 敏幸
万葉の一葉も揺れず雷遠し 対 岸 今瀬 剛一
山神のうららに開く舞扇 太 陽 𠮷原 文音
行く春や固定電話に電話線 鷹 小川 軽舟
江ノ電へ乗り継ぐまでを氷水 たかんな 吉田千嘉子
尺八の音の出るまで玉の汗 滝 山 桑島 啓司
筆買ひに歩く一駅木の芽晴 玉 梓 名村早智子
小糠雨沼なめらかに温みゆく 多摩青門 西村 睦子
沈丁の風くる頁ひらきけり 鶴 鈴木しげを
夏旅や二列埋葬古代墓地 天 為 対馬 康子
衝突を恐れず加速夏つばめ 天 衣 足立 賢治
春愁や手ぶらに鳩や鯉が来て 朱 鷺 赤塚 五行
迷ひ道戻り道なり老の春 鳥 小川望光子
薄暑また佳し旧邸の公開日 夏 潮 本井 英
食堂の裏手は広し畦を焼く 夏 爐 古田 紀一
狛犬の牙をかすめし春蚊かな 南 風 村上 鞆彦
落し文拾ひ大師に会ひにゆく 年 輪 坂口 緑志
真つ白なシーツに沈む立夏かな 濃 美 渡辺 純枝
これよりは八十路の坂を更衣 初 桜 山田 閏子
髪切りし男の匂ふ四月かな 春 野 栗林 明弘
白靴の甲板歩く暁の星 帆 浅井 民子
相部屋の人の荒息明易し 幡 富吉 浩
船虫の影を失ふごと走る ハンザキ 橋本 石火
すんなりと学園デビュー風光る 半 夜 外山 安龍
風鈴や絶対音感われになし ひいらぎ 伊藤 瓔子
佇むや桜まみれの桜坂 ひこばえ 切建 昇
夏の午後猫神様の猫は留守 ひまわり 西池 冬扇
雲ひとつ揺らして止まる水馬 氷 室 尾池 和夫
みくまりの風に委ねて散る桜 姫路青門 中嶋 常治
春陰に不動明王黙深し 諷 詠 和田 華凜
漕ぐ足の波の上なる半仙戯 風 土 南 うみを
金輪際踏むな地獄の釜の蓋 星だより 田代 青山
たひらかに姫の塚あり花楓 松の花 松尾 隆信
古井戸を遺品としたり朴の花 汀 井上 弘美
たつぷりの餡の透けたる柏餅 岬 手拝 裕任
しののめの仄明りさし春障子 岬の会 善野 烺
月齢の三日ばかりの納涼かな 萌 三田きえ子
春泥や着物の母の里帰り 黐の木 田宮 尚樹
夏の川風に流るる美しき音 湧 渡井 一峰
恋ほたる光を重ね合ひにけり 遙 照 花房 柊林
婚祝す白となりたる海芋かな ランブル 上田日差子
半眼のまぶた切れ長春の闇 六 花 山田 六甲
春寒の山の分校大薬缶 燎 佐藤 風
河骨や座禅石置く心字池 若 竹 加古 宗也