紹介 <他誌拝読・諸家近詠>

   春耕及び受贈俳誌より編集部抄出・敬称略

笛吹川の曲るあたりの風光る   春 耕  蟇目 良雨
田の神の祠かこめる犬ふぐり   〃    池内けい吾
春遅々と点滴の滴数へゐて    〃    柚口  満
ゆびの指す届かぬ近さ踊子草   藍    花谷  清
命あるものに息吹や木の根明く  あきつ  平賀 寛子
短夜や昭和の家並夢に現れ    凧    永沢 達明
赤松に雨筋定か春炉辺      泉    藤本美和子
暖かや防災グッズのなかに飴   いには  村上喜代子
白川の鷺身じろがす余花の雨   伊吹嶺  河原地英武
父と子の読経もれくる春障子   岩 戸  中川 靖子
花や花あまたの慄きを秘めて   雨 月  大橋 一弘
谷底にうすき日の差す穀雨かな  運 河  谷口 智行
夏帯の妻を駅まで見送りぬ    〃    茨木 和生
昼夜なき浅き眠りや春の風邪   繪硝子  和田 順子
春愁ひ三面鏡の一つ闇      円 虹  山田 佳乃
雪吊や墨の匂ひの懐かしく    円 座  武藤 紀子
雨足りし土のかをりや初燕    沖    能村 研三
花どきの掌に大椀のうしほ汁   火 星  山尾 玉藻
隆々と黒松の幹暮春なる     郭 公  井上 康明
花冷の神事を鳩の過りけり    かつらぎ 森田純一郎
酒買うて崖の近道郁子の花    雉    田島 和生
日本を凝縮すれば桜餅      響 焔  松村 五月
時の日に鳴らすあの鐘いま一度  京鹿子  鈴鹿 呂仁
老人の此の世の遅日もて余す   銀 漢  伊藤伊那男
啓蟄やそろそろ孫の来る頃か   〃    武田 禪次
人の世をはみ出してゐる山櫻   くぢら  中尾 公彦
天上の風は気まぐれ辛夷咲く   くぬぎ  波切 虹洋
手にはずむ桐の花なり父の夢   雲 取  鈴木 太郎
うららかや猫の名決める会議など 群 青  櫂 未知子
斑鳩の時空の弛み紫雲英田    幻    西谷 剛周
完璧な足跡のある春の泥     香 雨  片山由美子
沈む日はいづれ昇る日桃の花   好 日  髙橋 健文
借景に家やや増えて木瓜の花   辛 夷  中坪 達哉
雲割つて立春の陽の一直線    嵯峨野  才野  洋
冴返り人なき夜の赤信号     砂 丘  樽谷 青濤
五月雨の音なき水輪かぎりなし  山茶花  三村 純也
この先は地雷原らし草青む    春 月  戸恒 東人
一本の川二筋の夕桜       松 籟  山本比呂也
石段を挟み囀続きをり      白魚火  檜林 弘一
行き往きて桜の邦とまうすべし  獅 林  梶谷 予人
青竹の柄杓の湿り木の芽風    しろはえ 佐々木潤子
香水や遅れし訳を微に細に    朱 雀  田中 春生
能面に見られてをりし春愁    青海波  本城 佐和
古沼もみづいろに染め春の空   青 瓢  浅井 惇介
お茶室に刀置く棚春の鳥     栴 檀  辻 恵美子
鉛筆が落ちて弾んで朧の夜    対 岸  今瀬 剛一
梅香る誕生の日も死出の日も   太 陽  𠮷原 文音
分度器は百八十度燕来る     鷹    小川 軽舟
葉桜となりて堂々たる大樹    たかんな 吉田千嘉子
かたまつて風を容れるや秋桜   燕    笹本千賀子
茶処の狭山の丘や雲雀東風    鶴    鈴木しげを
巨き眼の空は揺るがず鯉のぼり  天 為  対馬 康子
ホルスタイン走れば速し草芳し  夏 潮  本井  英
松死して古芝に影大いなる    夏 爐  古田 紀一
白飯に経木の甘み桃の花     南 風  村上 鞆彦
ここちよき疲れとはこの花疲れ  鳰の子  柴田多鶴子
月桂樹の花咲き異人館へ坂    年 輪  坂口 緑志
水買うて荷の重くなる青葉行   濃 美  渡辺 純枝
日もすがら海を眺めて胡蝶蘭   俳句春秋 岡本炎弥子
子や孫に継ぐ夢のあり春近し   俳星会  安藤喜久女
ゆつくりと大人になれよ卒業子  春 野  栗林 明弘
夜の新樹ワイングラスを目の高さ 帆    浅井 民子
水温み名前を知らぬ顔見知り   幡    富吉  浩
蔵ふたつ肩をならべて初ざくら  ハンザキ 橋本 石火
ぐりとぐら幾度読みて卒園す   半 夜  外山 安龍
古民家を宿に改装辛夷咲く    ひいらぎ 伊藤 瓔子
鳥声と子の声を連れ青き踏む   ひこばえ 切建  昇
もう花の終わりの桜横丁よ    ひまわり 西池 冬扇
一日に散る花筒の野甘草     氷 室  尾池 和夫
夢前川の岸辺膨む花並木     姫路青門 中嶋 常治
ペン立てを窓辺に寄する日短   ふ う  つげ 幻象
心いま浮世はなるる桜人     諷 詠  和田 華凜
つぶ和や明日はあふみへ峠越え  風 土  南 うみを
しらしらと波立つ礁春隣     松の花  松尾 隆信
子燕に夜はまつくらな波の音   汀    井上 弘美
筍の太さに二人がかりかな    岬    手拝 裕任
いただきの雲おりてくる袋掛   萌    三田きえ子
椿体質といふなるほどの盗汗   門    鳥居真里子
住宅街にひたりて茅花流しかな  湧    渡井 一峰
桐の花こぼれし墓に寂一字    遙 照  花房 柊林
二月富士火口に雲の影を置き   ランブル 上田日差子
夕桜散るはみ空の水浅葱     燎    佐藤  風
行く春や一気に黄河渡りゆく   聊 楽  董  振華
その昔砦立つ岡草若葉      若 竹  加古 宗也