秋 深 し 朝妻 力
秋小寒朝の珈琲熱く淹る
出外れにひだる地蔵や野菊咲く(東吉野)
衝羽根の色付きて宮しづかなり
宇陀の野に月のかたぶく夜明けどき
猪鍋の煮えて寡黙となる一座
渋抜くる日を指定して柿届く
酒うまし胡桃つまみに一人の夜
人気なき朝の畷や冬に入る
大槻に風の唸れる神の留守
鯛焼を片手につづく苦吟かな
冬ぬくし手を握りあふ道祖神
子らが踏み鳴らしてはしやぐ朴落葉
蓮根を掘り上げて子ら泥まみれ
葉に疲れ見せてつはぶき花ざかり
指折りて余命読む友秋深し(十一月五日夢にて)
逆夢であれと秋暁覚めにけり
冬日背にただばうぜんと手を合はす(十四日伊那男さん逝去)